作品タイトル不明
ラグ竜に乗る
私は思わず目を見開いた。辺境の人にしては、と思ったのは、無意識にヒューと比べていたからのようだ。
「ヒューより、まりょくがおおい」
ヒューでキングダム内の貴族くらい。それより多いということは、キングダムにいてもそこそこ多いということになる。だがいつまでも二人を見ていてもつまらない。私は、その辺に生えている枯れ草を集めることにした。
「ひとつ、ふたーつ、みっつ」
きれいな枯れ草を折り取って花束にするのだ。花束にしたからって誰にあげるわけでもないが、手になにかの束を抱えていることそのものが面白い。
「お茶の用意ができました」
「はーい!」
作った花束を地面に置いて、私はお茶の用意のしてあるテーブルへと急いだ。
汚れた手を拭いてもらって、椅子に座る。
「旅ですから、持ち運びしやすい焼き菓子です」
「ありがと!」
用意してくれた人に礼を言い、私はさっそくもくもくとケーキを食べ始めた。長くもつように、バターとお砂糖がたっぷり入ったケーキはしっとりしていてとてもおいしい。
「ウェリぐりがはいってる。おいしいね」
「おいしいな」
ニコと二人でいつものようにおやつを食べていると、ファーランド組がまじまじとこちらを見ているではないか。いくら幼児がかわいいからと言って照れる。
「なんとも、キングダムの小さい人たちは落ち着いていらっしゃる」
これはリコシェの言葉である。うちの大きな殿下と違ってと言う声が聞こえたような気がするが錯覚だろう。
「これがロークなら、飽きただの退屈しただの大騒ぎですからね。それと、おそらくお茶をひっくり返してお菓子をこぼしていますね」
ジャスパーが何かを思い出したかのようにクスクスと笑っているが、あのロークならさもあらんと言う感じである。私はそっと膝の上を見てみた。ほんの少しケーキのかけらが落ちていたので、そっと地面に落とした。そのくらいはいいだろう。兄さまが私たちとファーランド組を不思議そうな顔で交互に見ている。
「リアもニコ殿下もいつも楽しそうですし、子どもはこんなものだと思っていましたが」
「そんなことはないだろう。弟や妹も、小さい頃はいつ見ても泣きわめいて騒いでいた記憶しかないが」
カルロスの言葉に私は大きく目を見開いた。
「テッサでんかも?」
「ああ、テッサもだ。あの子はかんしゃく持ちで、すぐ地団太を踏んでは周りの者を困らせていたぞ」
知り合いの楽しい話を聞けたので、思わずニコニコしてしまった。意思の強そうなテッサ殿下なら、小さい頃はそうだったのかもしれない。
「リアはよくねるからあそぶじかんがへるが、それいがいはもんだいない子だぞ。よくねるが」
「ねるこはそだつでしょ」
「そだってないではないか」
「そだってる。もりもりそだってる」
私は筋肉を見せるためにふんと腕を曲げてみせた。もこもこしているのでちっともわからないが、私だって密度の高いむちむち幼児である。
「わたしもだ」
腕を比べている私たちについにカルロス殿下が笑い出した。
「君たちはほんとに」
笑っているカルロス殿下には悪いが、普段の嘘くさい笑みよりは絶対にましだと思った。
「日程的にはあと一時間少しで今日宿泊する町に着く予定です」
お茶が終わると兄さまがてきぱきと指示を出し始めた。
「私たちはもう一時間、先ほどの勉強を掘り下げましょう」
カルロス殿下がげっと言う顔をしたのを見逃さなかったが、私には関係ないので見なかったことにする。
「にいさま、あとすこしなの?」
「そうですよ、リア。今日は領主館に宿泊予定です」
私もげっと言う顔をしそうになった。宿なら自由が利くが、領主館は社交があって面倒なのだ。だが今聞きたいのはそのことではない。
「あとすこしなら、らぐりゅうにのってもいい?」
「そうですね」
兄さまは顎に手を当ててラグ竜のほうを見た。もちろん、私の小さい竜も連れてきている。ラグ竜が何かを察してこちらに顔を向けた。
「キーエ?」
それには答えず、兄さまは護衛に呼び掛けた。
「ハンス!」
「はい、ルーク様。近辺に怪しい様子はありません」
「そうか。それなら」
兄さまはうんと頷いた。
「許可します」
「やった!」
「やった!」
喜ぶ私たちを見ながら、ラグ竜の係の者が私の竜ミニーに急いで専用の振り分けかごをつけてくれた。
「りゅう!」
「キーエ!」
「キーエ!」
頭を低く差し出してくれた竜の顔にしがみつく。ニコも隣で迷わず同じことをしている。このところオールバンスに集まって勉強していたついでにラグ竜の牧場にも行っていた成果がこんなところで出るとは思わなかった。
竜は顔を上げて私たちを運ぶと、かごの中にぽすりと落としてくれた。
安全のために固定するところは竜の係の人がやってくれる。
「にいさまー、じゅんびできたー」
「よし!」
兄さまは頷くと、ファーランド一行を振り返った。
「妹がラグ竜に乗りたいというので、私も騎竜して付き添います。殿下方は引き続き勉強を。では!」
「待て! 待ってくれ!」
カルロス殿下の慌てたような声が響いた。
本当に慌てたのかどうなのかは、かごにしっかり固定されている私からは見えないのが残念だ。
「わ、私もラグ竜に乗る。子どもたちだけでなく、私もそろそろ体を動かしたい」
乗りたいではなく乗るというところに必死さを感じる。
「ですが……」
乗れるのかという、兄さまの心の声が聞こえたような気がした。
「ファーランドも辺境三国の一つ。当然王族はラグ竜には乗れる。リコシェもジャスパーもだ」
「そうですか」
疑わしそうな兄さまだが、どうやらリコシェに確認をとったようだ。さらに兄さまはハンスにも声をかけている。
「ハンス?」
「リア様からは目を離しませんので」
そこは王族方は大丈夫かだろうと思うのだが。
「それならいいか。ギル。笑ってばかりいないで手伝ってください」
「わかったよ」
ここまで目立たなかったギルがようやっと動き出した。
少し待たされたが、こうして最後の一時間は皆で竜に乗って草原を走ることになった。