軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

順調な旅路

「リア、ニコ殿下、枯れ草だらけだよ。それに相変わらずラグ竜に好かれてるね」

ジャスパーが服に着いた枯れ草を払ってくれる。手慣れた手つきは、ロークに鍛えられたものだろう。

「なに、へいきだ。そうげんとはそうしたものだからな」

ニコは自分で頭の枯れ草を払い、それ自体が楽しそうだ。

「二人とも、いい感じの枝を持っているね」

にこやかなカルロス殿下の言葉に私たちの好感度は一気に上がったかもしれない。

「カルロスどの、わかるか」

ニコの目が輝いた。

「ああ。ちょうど手になじみそうだ」

「それならかしてやろう」

「おお、それはそれは」

ニコが差し出した枯れ枝をカルロス殿下がうやうやしく受け取ったので、好感度はさらに上がった。カルロス殿下は枯れ枝を何度か持ちなおすと、そのまますっと前に振り下ろした。

「ああ、これはいい枝だ」

ひゅんひゅんと枝を振り回しているだけなのだが、大きな体に長い手足のカルロス殿下がまるで舞っているかのようにみえて、私は思わず見とれてしまった。

「驚きました」

小さな声は兄様のものだ。見上げると真剣な顔でカルロス殿下を見ている。兄さまを驚かせた理由とはなんだろう。

「そうは見えないかもしれませんが、うちの王子はファーランドでも名うての剣士なのです。王都での観光三昧に少々疲れていたようですね」

いつの間にか隣に来ていたリコシェがそう教えてくれた。つまり兄さまは、枝を振っているカルロス王子を見ただけでその実力がわかったということなのだ。兄さま、すごい。

「普段の振る舞いが少々アレですからアレですが、優秀な人ではあるのですよ」

リコシェの態度もあまり好ましくないと聞いていたので、王子を褒めるような言い方には驚いた。そして、あれほど兄さまを悩ませ面倒がらせていた王都観光に実は疲れていたとは思いもよらなかった。私はもう一度、今度はこわごわと兄さまを見上げると、兄さまの目が据わっている。そりゃあちょっと怒るよね。

「に、にいさま、おちついて」

「なんですか、リア」

にっこりと笑った兄さまが怖すぎる。

「大丈夫ですよ。これで遠慮はいらないということがわかっただけですので。双方の利益になるよう、切磋琢磨しましょう」

リコシェは兄さまのほうを、微笑ましいものでも見るように眺めていたが、思わず他人ごとではないのだぞと忠告しそうになった。だが、そこまで親切にする必要もないだろうと判断する。自分で経験するのが一番だ。

「リア、しょくじのよういができたそうだぞ!」

ニコの大きな声にお付きの人がそっと注意をしている。

「殿下、まず客人であるカルロス殿下にお声がけを」

「おお、それもそうだな。カルロスどの、こちらへ」

棒を振り回していたカルロス殿下は棒を持ったまま素直にニコのほうに向かった。

「棒をお返しするよ」

「かたじけない。だが、またつぎのばしょであたらしいものをみつけるから、すておいてくれてかまわぬ」

まだ寒い草原にテーブルを置き、もこもこの上着を羽織りながらの昼食は温かいスープも用意されとてもおいしかった。

「では、ここから次の町までは草原が続きます。せっかくですので、午後はカルロス殿下方と交流を深める場を設けたいと思います」

食事が済むと兄さまが宣言した。そのままさっさと竜車の割り当てをしてしまう。

「キングダム側からは私、ギル、オッズ教授。ファーランド側からはカルロス殿下、リコシェ殿、ジャスパー。一番大きい竜車に移動しましょう」

「ルーク。すまぬが」

その兄さまにニコが口を挟んだ。

「わたしもいれてくれぬか。これからのじかん、すこしひまをもてあますのでな」

当然ニコと私はひとくくりで扱われるところだが、午後に関しては、私はまだお昼寝、ニコは出会った時からお昼寝は卒業しているということで、ニコにとってはぽっかりとあいた時間ということになる。その時間を竜車で一人過ごすのはつまらないのだろう。

「そうですね、リアはお昼寝の時間ですね」

兄さまがなるほどとうなずいているが、竜車に揺られたせいか、既に眠気に襲われているくらいなので、私はニコが大人組に加わるのに何の抵抗もない。

「リアはおひるねする。ニコ、いってきて」

「ああ、すまないな。ルーク、どうだろうか」

「ぜひご一緒に」

ニコも参加決定である。オッズ先生を間に挟んで、どんな授業が展開されるのかとても興味はあったが、いかんせん眠気にはかなわない。私はおとなしくオールバンスの竜車に戻った。

ガタガタと揺れる竜車でもぐっすり眠れる、それが私である。さわやかに目が覚めたのは竜車が止まったからだ。

「おやつ!」

「腹時計ってやつだな」

跳ね起きた私の耳に竜車の外から聞こえたのは笑いを含んだハンスの声だが、健康な三歳児はお腹がすくものである。

「さすがリア様。ちょうどお茶の時間です。暖かくして出ましょうね」

「はい!」

なにがさすがなのかはわからないが、優しいナタリーに元気に返事をして、私は竜車を飛び出した。誰もいないので自分で竜車の階段を降りる。そんな時、じっと動かず待ってくれるラグ竜はやはり賢い。

私と同時に、後ろを走っていた兄さまたちの竜車からも人が降りてきた。まっさきに降りてきたのはニコだ。

「ニコ! おやつのじかん!」

「リア、よくねられたか」

「うん」

ニコの元に走り寄りながら、なかなかいい感じの枝を見つけたのでまた拾っておく。ニコもすかさず足元の枝を拾ったので、枝は二本になった。

ニコの後から、大きい人たちが次々と降りてきた。兄さまとリコシェ、ギルとジャスパーがそれぞれ真剣な顔で何か話しているが、カルロス殿下だけがちょっとうんざりした顔で最後に出てきた。

それを見ただけで、何があったのかが手に取るようにわかったので、私は思わず笑い出しそうになった。

「カルロスどのはたいくつそうだな」

「ニコ、てあわせしてもらったら?」

私もニコと走り回りたいが、一人でいても全く退屈しないので問題ない。

「そうするか。カルロスどの!」

カルロスは退屈そうな顔のままニコのほうに振りむいた。私はすかさず駆け寄り、棒を差し出した。

「はい、どうぞ」

「あ、ああ。ありがとう?」

かわいらしい女の子に棒を手渡されてもピンとこないのかもしれない。

「さ、わたしと手あわせだ」

ニコがブンブンと棒を振って待っている。

「え、私と殿下がかい」

「そうだ。お茶まではまだ時間があるからな」

ニコは棒をすっと構えた。初めて会った頃、既に剣を習っていたニコだ。なかなかさまになっている。カルロスはやっと楽しそうに口元を緩めた。

「ではお相手願おうか」

大人と子どもだし、身長差もある。だが普段の訓練も同じことなのだろう。ニコは楽しそうに、だが真剣な顔で棒を剣に見立てて合わせ始めた。

ちなみに、私は出会った頃のニコと同じような年になったが、剣は今のところやるつもりはない。身を守るためとはいえ人を傷つけることを学ぶくらいなら、一生懸命守られるよう努力することを学べばよい。

私は少しの間二人を眺めていた。カルロス殿下とは最初のパーティ以来会う機会はなかったけれど、大人なのに、じっとしているのが苦手なのが伝わってくる。それが最初に会った時のクリスを思いださせるのだ。

こう思って見ていると、辺境の人にしては魔力が多いことに気づいてはっとした。