作品タイトル不明
もう一人は
ニコやマークなど、王族と四侯の大人組は既に挨拶を済ませていたようで、フェリシア、クリス、ギル、兄さま、私の五人が挨拶することになった。
「フェリシア・レミントン。そしてこちらがクリスティン・レミントン。この二人は同行しない」
本当に久しぶりに見たランバート殿下が、なんとなく雑な感じで私たちを紹介していく。イースターから戻って来たばかりでお疲れなのだろう。
「ギルバート・リスバーン。リスバーン家のもう一人は、ウェスターで会うことになるだろう」
余計な情報は知らせなくてもよいのに。
「ルーク・オールバンスにリーリア・オールバンス」
ギルと兄さまは会釈を、フェリシアとクリスと私はスカートをつまんで挨拶した。
「それから、そちらが秘書官と従者だ」
ランバート殿下は適当に手を向けて紹介したが、お父様と違って名前をちゃんと覚えていないのだと思う。面倒だなという雰囲気がぷんぷんする。
「リコシェ・エルドレッドと申します」
「ジャスパー・グレイソンです。北の領地以来になりますね。お久しぶりです」
ジャスパーの挨拶に、兄さまとギルの雰囲気が柔らかくなった。ジャスパーは私のほうを向くと、
「ロークは元気だよ」
と小さい声で教えてくれた。私はにこっと頷いた。北の領地で、穴に一緒に落ちたロークが元気でないなどということがあるものかと思うが、やっぱり直接聞くと安心するものだ。
それをきっかけに正式な挨拶は終わり、立食形式でご歓談をということになった。王族を迎えての正式な食事会は別に行われるので、とりあえず若いものは若いもので交流を深めてくれとということらしい。もっとも、アルバート殿下はまだイースターに残ったままなので、マーク以下の四侯が相手ということになる。
ランバート殿下はさっといなくなってしまった。忙しいのか、面倒なのか今一つわかりにくい。
カルロス殿下がまずフェリシアのところに向かったのは私の予想通りだった。フェリシアは微妙な顔だが、マークが近くに控えてくれているからとりあえず大丈夫だろう。私たちはそのままジャスパーのところに自然に集まった。リコシェという人は迷ったようだが王子のところへは行かず私たちの元へとどまった。
私は微笑んだ顔でそのままリコシェと言う人を見上げた。
栗色の髪と栗色の瞳で、細身のカルロス殿下よりさらに細く、ハンサムだが少しつり上がり気味の目と細い顎が、やや神経質そうなきつい印象を与える。この世界に眼鏡があったら絶対にかけていただろうという顔だ。もし仕事が本当に秘書官なら、外見はそれにふさわしくとても優秀に見えるが、中身はどうだろうか。
じっと見上げていたら、目が合ってしまった。とたんにリコシェの肩が動き、手が少しピクリとした。
「かっ」
「か?」
かとつぶやいたリコシェは何かを耐えるように目をつぶって上を向いた。変な人だ。
「リア、クリス」
私は兄さまに呼ばれたので、クリスと一緒に兄さまの元に向かった。なんだろうか。
「ジャスパーと旧交を温めたい気持ちもあるでしょうが、リアとクリスはまずリコシェ殿のお相手をお願いします」
兄さまがこんなふうに言うのは珍しい。リコシェは変な人と言う第一印象しかないが、兄さまが行ってよいというのなら大丈夫な人なのだろう。私はクリスにそっとアドバイスした。
「おじさまじゃなくて、おにいさまよ」
「リアったら、きのう、ふけいって言われてたものね」
「ふけいじゃないもの」
クスクス笑うクリスに私はちょっと頬をふくらませたが、クリスがちゃんとわかってくれて嬉しい。
「じゃあ、いこう」
「そうね」
私はクリスと手をつないで、ジャスパーの隣で、兄さまやギルとの会話を聞いているリコシェの元にあらためて向かった。
「こんにちは」
「こんにちは」
「おや、はじめまして、小さなレディたち」
リコシェは最初の挙動不審は何だったのかというような大人な態度である。まずクリスが普通に挨拶した。
「クリスティンだけど、クリスって呼んでね、リコシェお兄さま」
「おに、お兄様、んっ。ゴホン。クリス、私のことはリコシェと呼び捨てでかまいません」
にやけそうになった顔をごまかすためかこぶしを口元に当てて、咳払いをしているリコシェを私は冷静に観察した。なるほど、小さい子が好き。だが兄さまが警戒するほど気持ち悪くはないということか。それならば私も役割を果たさねばなるまい。私はリコシェの足をポンポンと叩いた。三歳児は背の高い人にはなかなか認識してもらえないのだ。
「おや、こちらは」
「リーリアでしゅ」
おっと油断すると片言が出てしまう。
「おお、リーリア殿」
だがむしろ好感度は上がったようだ。
「リアってよんでね、リコシェ」
ついでにこてりと顔を傾げて見せる。やりすぎですと兄さまの小さい声が聞こえたような気がするが、錯覚だろう。お兄様呼びはクリスがしてくれたので、私はしなくてもいいだろう。
「なんと愛らしい。リア。よろしくお願いします」
やっと気持ちが落ち着いたのか、普通のにこやかな顔になって素直に挨拶してくれた。だが、すぐに渋い顔になった。
「オールバンスの小さい姫が同行者とは聞いていたが、あなたのようなか弱い可憐なお嬢さんであったとは。竜車の旅は大変ですよ」
部屋のあちこちで無駄に咳払いが聞こえた気がしたが、部屋が乾燥でもしているのではないか。
「だいじょうぶ。リア、りゅうしゃ、だいすきだから」
なぜ私も行くのかという説明は面倒なので、これで済ませておく。
「リコシェ殿、妹はかつてさらわれてウェスターで保護されました。その時の縁で向こうから招かれていますので、いわば主賓の一人。ご心配でしょうが、私と共に見守っていただけるとありがたいです」
代わりに兄さまがにこやかに説明してくれた。
「そうでしたか。話は聞いておりましたが、なんと健気なことでしょう。私でできることであれば、何なりと」
これをきっかけにジャスパーを取り巻く輪に入ったリコシェである。兄さまにありがとうと言う目で微笑まれ満足した私は、リコシェは見かけの割には優しそうな人だと判断し、ほっと胸をなでおろした。ジャスパーはもちろんきちんとした人なので、とりあえず三人の客人のうち二人は常識人のようだ。