軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

人物判断

すっかり安心して、立食パーティだというのに誰も何も食べていないことに気がついた。そもそも三歳児に人物判断など任せるべきではない。お腹がすいてしまったではないか。私はおなかをさすさすとさすった。

「リア、もしかしておなかがすいたのか」

ニコがめざとく気がついてくれたが、食いしんぼうに聞こえるので言い方に注意をしてほしい。

「すいてないもん。ただ、せっかくおいしいりょうりがあるのに、だれもたべてないから」

「おお。そうだな」

立食パーティと言っても、座るところはたくさんある。ニコは料理のテーブルをみると、ふむとひとつ頷いて椅子席のほうを手で指し示した。

「それでは、すわれるところにいどうして、りょうりもたのしんではいかがか。しろのおんしつでさいばいした、あたたかいきせつのしょくざいもつかったと、りょうりちょうがいっていたぞ」

気遣いのできる王子様、すごい。しかしいつの間に料理長と仲良くなったのだろう。ともあれ誇らしくて胸を張った。胸を張ったら、フェリシアと目が合った。

困っている。そしてどう見ても助けを求めている。

「クリス」

「なあに、リア」

「フェリシアとおはなししにいこ?」

「え、姉さまは」

カルロス王子と話していたのではなかったかというクリスの顔はフェリシアのほうを見て一瞬で引き締まった。

「リア、行こう」

「うん」

私とクリスは前のめりに話しているカルロス王子と引き気味のフェリシアの元に向かった。そして困ったように微笑んで優雅に飲み物を飲んでいるマークを睨んだ。

「マーク」

マークは私のほうにしゃがみこんで、そっと口に人差し指を当てた。

「だって仕方がないだろう。恋の炎には誰もあらがえないって言うじゃないか」

幼児に恋の炎とか言ってしまうマークにはあきれ果てる。私も小さい声で言い返した。

「ひとりだけもえあがってもしかたないでしょ」

「おやおや、リアは大人だねえ」

「ほんとうのおとなは、ともだちをまもるひと」

私はピシッと言ってやった。

「これはやられたね。仕方がない、間に入りますか」

「さいしょからそうして」

たとえ幼児であろうと言うべきことは言う女、それが私である。

「やあやあカルロス殿下、こちらの小さいレディーたちもあらためて紹介させてください」

「あ、ああ、マーカス殿だったね。マーカス・モールゼイ殿」

「ええ、先ほどからずっとここにいましたけどね。マークと、気軽に呼んでくださっていいですよ」

ほら、話しかけただけでフェリシアがほっとした顔をしているではないか。

マークは私たちにファーランド勢の見極めを頼む前に、自分で見極めたらいいと思う。

「姉さま」

クリスがフェリシアにギュッとしがみついた。

「フェリシア殿と同じ美しい髪のこちらは、確かクリスティン殿か」

クリスはフェリシアから離れると、きれいにお辞儀した。

「クリスとよんでくださいませ。カルロスでんか」

「おお、髪と目の色が同じでこれはまた美しい、クリス」

ふむ、クリスに対する態度はそれほど悪くない。よくもないが。

「それから、こちらがリーリア・オールバンスです。今回、キングダム側からの使者の一人となります」

「リーリアです」

私もできるだけきれいに礼をした。フェリシアとクリス仕込みなので、そうおかしくはあるまい。

「リーリア・オールバンス。淡紫の瞳に、淡い金髪。キングダムの王都ガーデスターには、確かに美しいものが揃っているな」

褒められたのに、私はなぜだかカチンときた。外側の色合いの美しさを称えられるのは慣れている、だが、私はものではない。

「ローク・グレイソンは、わたしのファーランドのおともだちなの」

マークがいきなり何を言い出すのかという目で私を見た。私だって、そろそろ自分のことをリアでなく私と言うこともできるのだ。思わずわたちと言いそうになったのは内緒だが。

私に言われた内容をちゃんと受けたのは一応評価する。

「ローク・グレイソン。ジャスパーの弟か。ジャスパーは、キングダムの北の領地でオールバンスと親しくなったという理由で同行が決定した。確かにそのようだね」

期せずしてジャスパーが選ばれた理由が推測通りだということがわかった。そこまで思い至ったなら、話を次に進めてもいいだろう。

「ろーくは、いまのきせつ、ファーランドのきたのほうでは、ネズミミミクサがきれいだと、おしえてくれた」

私はロークやジェフ、そしてニコと過ごした北の領地での日々を思い出していた。一面のハルマチグサの花畑をわざわざ探して見せてくれた。そしてネズミミミクサではなくネズミミクサだったかもしれない。

「いろはピンク。いちめんにはながさく。そして、でんかがとおってきたキングダムのきたのりょうちでは」

もう季節は過ぎただろうか。

「まっしろなハルマチグサがいちめんにさいていたはずよ。みた?」

私はニコッと笑ってみせた。

「キングダムには、うつくしいものはたくさんある。おんなのひと、いがいにも」

そしてプイっと横を向いた。こんな奴、この程度の挨拶で十分だ。

「は、これは」

「しちゅれいします」

最後にちょっと片言になったかもしれないが、私とてニコの親友、このくらいのことは言えるのだ。私は鼻息も荒くマークに宣言した。

「あとはマークにまかせまちた」

「承知したよ。リアとクリスはおいしいものを食べておいで」

どうやらマークにも喝が入ったようだ。

手をつないで皆の元に戻ると、ジャスパーが照れたように微笑んでいた。

「ロークがそんなことを言っていたなんて、びっくりしたよ。やんちゃ以外にもできることがあるんだな」

「いつかファーランドのきたにいって、ネズミミミクサをみるの」

一面のピンクのお花畑など見てみたいに決まっている。

「いつでも案内するよ。今は領都にいるけれど、時間は取るから。私もリアやルークやギルのおかげで、キングダムの王都にも来られたし、ウェスターにも行けそうで嬉しいんだ。そしてね」

ジャスパーは教えてくれた。

「ハルマチグサも、確かに咲いていたよ」

私は嬉しくなってニコニコしてしまった。ジャスパーは穏やかだが、ロークの兄だけあって何があっても対応できる力強さがあるし、何より旅が好きだというのはいいことだと思う。移動が苦手な人にとっては、旅は本当に苦痛だからだ。

それにしても、自分の国の王子が女好きだろうと幼児に指摘されたことについてはジャスパーもリコシェも何も言うことはないようだ。

「それはアルバート殿下とシエナ殿のお見合いの時の話だね、ジャスパー。テッサ殿下も楽しかったと言っていたし、うちの王家ももう少し計画的であれば、私もいろいろと参加できるのだが」

リコシェの言葉に私たちは素早く目を見合わせた。リコシェは王女から、北の領地での出来事を聞くだけの親しさであること、ファーランド王家は家臣からでさえ計画的でないと思われていること。一つ一つの言葉が、情報の宝庫だ。

「では今回、よい機会だったのではないですか」

ギルがさりげなく今回の経緯を聞いている。

「我らは身分から、キングダムには許可証がなくても出入りはできますし、領地の関係で国境際の町に訪れたことは幾度もあります。しかし王都ガーデスターは今回が初めてですし、ましてウェスターは国自体訪れたことがないので、今から楽しみではあります」

とてもまともな意見である。しかし、身分があればキングダムに入るのに許可証がいらないとは知らなかった。ということは、バートたちはやはり貴族ではないから、お父様がわざわざ許可証をあつらえ、それが褒美になったということなのだろう。

「私たちはウェスターは二度目ですが、やはり楽しみですね」

そんな風に会話が続いていくが、カルロス王子の振る舞いについてなにか言う人は誰もいなかったし、やがてクリスが私たちに合流することでなし崩しにカルロス王子もフェリシアもマークも会話に加わることになったので、いわゆる交流とやらは大成功だったと言えるだろう。

もっとも、私とニコとクリスは後半はもっぱらおいしい料理を堪能していたので、大きな人たちがどのような交流をしていたのかは知らない。