軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

鏡に映ったのは家族

とにもかくにもお客様を外に放っておくわけにはいかないので、屋敷の中に入ってもらう。アリスターに手をつないでもらって笑顔の私に家の者たちも安心したのだろう。家の使用人たちも明るい顔で、アリスターたち一行には暖かい歓迎の目が向けられた。

もっとも、反対の手は兄さまにつながれているので、私はさながら引き立てられる宇宙人のようであり、歩きにくいことこの上ない。

しかし、ウェスターで兄さまに私を戻した時アリスターは、遠慮して私とは触れ合わないようにしていたと思うのだが、その遠慮はどこへ行ったのか。屋敷に入ろうとなった時に、少し挑戦的な目で私の手をしっかり握ったのは驚いた。

「ルークはいつもリアと一緒だろう。俺なんて、半年以上会っていないんだからな」

「私だって普段は寮生活です。リアとは週末の二日しかゆっくりしていられないんですよ」

私の頭の上でバチバチと火花を散らすのはやめてほしい。

「ありしゅたに、りあのへや、みせりゅ」

「リアの部屋か。いいな」

アリスターが目をキラキラさせた。トレントフォースではアリスターと二人部屋だったが、今はちゃんと自分一人の部屋があるのだ。

「じゃあ俺たちもちょっと見に行くかな」

バートたちも付いてくるようだ。

「ああ、私とスタンは応接室にいるから、君たちはリアの部屋を見たら合流してくれ」

「りょうーかーい」

お父様に気の抜けた返事をするミルに屋敷中が凍り付いているが、肝心のお父様は気にせず、アリスターたちと兄さまに私を任せて、スタンおじさまと応接室に行ってしまった。

「アリスターの実家も広かったが、リアんちもなんかすげえ」

キャロがあちこちを見回して思わずと言ったように声を上げると、

「俺の実家、うーん、俺の実家か?」

とアリスターが首を傾げた。やれやれとギルも肩をすくめているが、私はアリスターが自分の実家ではないとはっきり言わなかったことのほうに驚いた。アリスターは私の手を引いてゆっくりと階段を上りながら、照れくさそうに言った。

「俺、ウェスターの領都でも、城に通って勉強してるだろ。ちょっとは貴族っぽいものにも慣れたんだよ。それに、昨日、スタンさんに会ってさ」

スタンおじさまは明るくて楽しい人なのである。そこにギルが口をはさんできた。

「兄さんって呼んでいいって言われてたじゃないか。父さんと呼んだってかまわないぞって」

「いきなり呼べるかよ。あんたのことだってまだ」

「まだ、なんだよ」

「うるさいな」

気安い口調は、ギルとアリスターの二人がだいぶ慣れたことがうかがえて楽しい。

「俺の父親って人の絵も見せてもらったんだよ。それから俺の兄弟が実際10人以上いることとか教えてもらったりした」

「じゅうにん」

「そう。あ、リアにこんなこと言っちゃだめだったか」

だめでしょう。でも、リスバーンの先代があちこちに子どもを作ったというのはアリスター絡みでちゃんと知っているので、別に今更なのである。

「でな、論より証拠だろうって言って、鏡を見せられたんだ」

「かがみ。かがみはうぇしゅたーにもありゅ」

ウェスターで鏡に映った自分を見た記憶はちゃんとある。

「うん、それが、俺とギル、そしてスタンさん、三人並んで鏡に映ったんだ」

「ありしゅた、ぎる、すたんおじしゃま、そっくり」

「うん。ほんとに、笑っちゃうくらいそっくりでさ」

見上げるとアリスターはほんとに苦笑していた。

「実際俺も父様も思わず噴き出したからな」

「貴族らしくないよな。ウェスターのお貴族だってもう少し貴族らしいのに」

言い返すアリスターは、ちゃんと城で教育を受けているのだろう。

「血がつながってるんだな、血のつながってる人がまだ俺にも残ってるんだなって思ったんだ」

それは嬉しいことだったんだとアリスターの顔が物語っていた。よかった。

「ここでしゅ」

ナタリーがドアを開けてくれ、私は大威張りで兄さまとアリスターの手を引っ張って部屋に入った。

「すげえなあ。ちゃんとお姫様の部屋だぜ」

ここでもヒューと口笛を吹いたミルはナタリーにあきれた目で見られているが、私の部屋は淡いピンクに統一されたそれはそれはかわいらしい部屋なのである。数人ならここで食事ができるくらい無駄に広いし。

もっとも全く私が選んだものではないのだが。キャロも部屋を見回して失礼なことを言う。

「まあ、リアが選んだんじゃないということはわかる。リアは実用重視だからな。おおかたお父様の趣味だろ、オールバンスの」

バートは話に加わらず、部屋の窓を開けて窓の外と窓枠を確認するように見ている。

「ばーと?」

「うん、さすがだなと思ってさ」

さすがとは何のことか。

「昨日泊まったアリスターの実家はさ、立派だったけど、ローダライトは使われてなかったんだよ。さすがに虚族が出ないところは違うよなって思ってたんだけど、リアの部屋の窓枠にはちゃんとローダライトが使われてる。それにバルコニーがないから、外からの侵入も難しい。リア、ちゃんと大事にされてるんだな」

「あい」

私は深く頷いた。

「あー、よかったー。これで安心だあ」

拾った子どもがちゃんとお家に戻ってヌクヌクと暮らしていたらそれはほっとするだろう。

「あ、心配すんなよ。安心したからもう会わなくていいってことじゃないぞ。キングダムってさ、ましてや王都なんて遠くて縁のない場所のような気がしていたけど、そうじゃないってわかったから。またきっと来るさ」

バートがニカッと笑った。

「だってさ、トレントフォースからケアリーまで魔石を売りに行ってた時のこと考えたら、今住んでるとこからリアんちのほうがずっと近いんだ」

「たのちみ!」

私はぴょんぴょんと跳ねた。

「よし、リアの部屋のチェックも終わったから、お父様のところに合流するか」

バートの言葉に皆ぞろぞろと部屋を出た。アリスターも部屋まで手をつないだから満足したのか、階段を少し先に降り、私が降りてくるのをゆっくりと見守ってくれている。

「なんでも自分でちゃんとやる子なんだ、リアは」

「あい! もちろんでしゅ」

「そんなこと言われなくても知っていますとも」

兄さまがぶつぶつ言うのはスルーして、そんなところでそっくり返ったら後ろに倒れるぜという護衛の声を心で聞きながら、一応控えめに胸を張っておく。すたすたと歩いて応接室に行ったら、お父様とスタンおじさまがゆったりと椅子に座って待ち構えていた。

「では、君。ミルと言ったか。最初から話を聞かせてもらえるかな」

「ええ? 俺?」

焦るミルにバートたちは笑っているが、他人ごとではない。皆、いろいろ聞かれる羽目になると思う。

「お父様、変わりましたね。以前はリアがウェスターにいた時のことを全く聞きたがらなかったのに」

「そうなんでしゅか?」

「ええ」

兄さまは頷くと、控えていたジュードに合図をした。

「何か書くものを。この際だから、リアがウェスターにいた時のことはきちんと書き残しておきましょう」

「えええ?」

だから他人ごとではないのに。

「リアからも改めてちゃんと話を聞きますからね」

「あい……」

他人ごとではありませんでした。