作品タイトル不明
まだできることはある
「とりあえず、お前たちはここにいろ」
もはや丁寧な態度を取り繕おうともしない第三王子は、そう言い捨てて部屋を出て行ってしまった。こっそりドアを開けてみたら、ドアの前にはちゃんと見張りがいた。残念。
もっとも、お茶と朝食のお代わりはちゃんと届いた。城のあれこれはきちんと機能しているようだが、いったいどうなっているのだろうか。
「ごえいたいはゆうしゅうなはずだが、なにをやっているのか」
「きっと、ぐれいしぇしゅ、いない」
「あれはとくべつぶたい。ほかにもいたはずだがな」
そのほかにも普通に軍があるという。そう言われてもさっぱりわからないが、とにかくベッドの下に隠れなくてもいいのが助かる。
部屋は普通の客室というか、立派な客室で、部屋にトイレも洗面所もお風呂も付いていた。もっとも、ベッドルームだけなので、広くはない。ご飯を食べ終えると私は、さっそくベッドの上に上り、立ち上がった。もちろん靴は脱いでいる。
「リア、なにをしている」
ニコがきょとんとした顔でそう聞くので、私は腕を組んでふふんと顎を上げた。
「はねましゅ」
「はねる?」
だって、ベッドの下でこそこそして、たいして動きもしない生活には飽き飽きだったのだ。ここにいろとは言われたが、おとなしくしていろとは一言も言われなかったではないか。
私は、ベッドの上で思い切り跳ねた。気持ちいい。
「リア、それははねているのではない。のびたりちぢんだりしているだけだ」
「はねてましゅ」
レディを尺取り虫のように言うとは何事か。もっともレディはベッドの上で跳ねたりはしないが。私は伸びたり縮んだりしていると冷静に指摘されたので、今度はベッドにダイブしてみた。顔が布団に埋まる。
「たのちい」
これ、大事。
「ではわたしも」
ニコがとなりのベッドに上っている。
「ふむ。ベッドのうえではねるとしかられるのだが」
「だれもいましぇん」
「ふむ。やるか」
「あい!」
というわけで、私たちはベッドで跳ねたり、ベッドに飛び込んだり、ベッドから飛び降りたりと部屋中を駆け回った。しまいには枕を投げたりもした。ずっと動いていなかった体は、力を持て余していたのだ。部屋のドタバタは外にも聞こえていただろうが、誰も見に来ることはなかった。
一通り息を切らして遊んだら、さすがに疲れてしまった。
「ふう。やすみながら、まどのそとをみよう」
「まど? ほんとだ!」
結界の間には窓はなかった。しかし、この部屋には窓がある。私たちは急いで窓の側まで走った。
「ベランダはない。そして、さんかい、か」
「まどからにげりゅのはむじゅかちい」
「わたしはともかく、リアはむりだな」
ニコだって無理に決まっている。自分たちの位置はだいたい把握したが、部屋は残念ながら城の中庭に向いていて、外側がどうなっているかはわからなかった。そして広い中庭では、兵が二人組で巡回していた。
「にこ、あのひとたちは?」
「ふむ。しろのへいではないから、イースターのへいだとおもうが」
「しゅくない」
城を制圧したとは思えないほどの人数の少なさだ。気づくとは思わなかったが、私たちは窓から手を振ってみた。一人がちらりとこちらを見たような気がしたが、何もなかったように巡回に戻ってしまった。
イースターが侵入してから丸二日たった。今日で三日目になる。昼は持ってきてくれたが、おやつまでは持ってきてくれなかった。幼児にはおやつも食事なのに。私はぷりぷりしながら、お昼寝の後、朝ごはんのお代わりで残しておいたパンを出してきた。棚に隠しておいたのだ。
「リアはほんとに」
ニコが棚からパンを出してきた私をあきれたように見ている。しかしそんなことは気にしない。
「にこはみじゅをいれて」
「……わかった」
ニコは素直にカップに水を入れてきた。この二日で慣れた手順である。
パンを食べながら、私たちは今後のことを話し合った。
おやつは来なかった。夕食も来ないかもしれない。城を占領していたとしても、今夜が限界だろうと思う。そんな話だ。
限界が来てどうなるのかはわからない。虚族が出た混乱の中、第三王子はイースターに戻るのか、それとも王族や私たちを始末して、キングダムに永遠に結界を張れないようにするか。でも。
「しょれはないきがしゅる」
「わたしもそうおもう」
パンクズのついた手をパンパンはたきながら、二人で頷きあった。
おそらく、第三王子だけなら私たちをさっさと始末している。しかし、そうしていないということは、それこそが本国の指示だということになる。だとしたら。
「もうしゅこち、できりゅこと、ありゅ」
「それはなんだ」
「けっかい、ひびかしぇりゅ」
ニコには結界の張り方は教えた。しかし、結界の共鳴のことまでは教えていない。もしかすると、ラン叔父様から教わったかもしれないが、少なくともそれを実践したと思われる共鳴は感じたことがない。
「ちょっとでもいい。ゆうがた、ちょっとだけ、にげるじかん、ちゅくる」
「リアとルークでやったようにか」
「あい」
私は強く頷いた。ニコが北の領地でのあの感覚を覚えているなら、話が早い。私が今まで結界を張り続けた最長時間は、一歳の頃にしたほんの数十分だけだ。今、どのくらいの間続けられるかわからないけれど。
「おうとのちかくだけでも。しゅこちだけでも」
「わたしもやろう」
「あい」
二人なら、一人よりずっといい。
私たちの予想に反して、夕ご飯は来た。しかも思ったより早い時間にだ。ただし、パンと切っていない果物という、結界の間にいるのとたいして変わらないメニューだった。
おそらく、食事に気を回している余裕がなくなってきたのだろう。
私たちは文句も言わずに静かに食事をとり、夕暮れが近づくのを静かに待った。