軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

憎んでいるのは

「そろそろか」

「あい。りあがはじめましゅ」

私たちは、ベッドに隣り合って座った。

「けっかい」

私の周りに、目に見えない結界がぽわんと広がった。ニコが一瞬胸に手を当てて、目をつぶった。

「たしかに、ここにひびいた。ではわたしも。けっかい」

ニコの結界を感じるのと同時に、二つの結界は響きあい、パーンと遠くに広がった。幼児二人でも、王都を十分に覆うほど広い。ニコの結界はニコの目の色と同じように、お日様のようにまばゆい感じがした。

「リアのけっかい。このかんじ、おぼえている。れんごくとうで、さかなをはねとばしたのは、リアだったのか」

「ち、ちがいましゅ」

思わぬ指摘に、ちょっとどもってしまった。なぜそんな前のことを覚えているのだ。

「ちがわぬ。リア、かんしゃする」

「あい」

ニコの素直な感謝に、私もごまかすのはやめた。と、その時、もう一つの結界が胸に響いた。この慕わしい気配は。

「おお! これは」

「にいしゃま。にいしゃま、しょばにいる!」

兄さまの涼やかな結界が私たちの結界と共鳴しあった。結界の範囲はさらに広がり、一つ、また一つと響きあう結界が増えていく。

「ぎる、ふぇりちあ、まーく」

兄さまは、たぶん城にいる。そしてギルは兄さまの側にいる。フェリシアは城から離れた所、マークも城から離れた所、フェリシアとは違う場所にいる。いずれも王都、キングダムの中心だ。

どこまで届くだろうか。王家と四侯、おまけの私もいれて、全部で6つの結界が重なり合う。

疲れたら、ニコを見て、ニコと頷きあって。時には弱くなる結界を、気力を振り絞って張り続けて。

それはバーンとドアが開け放たれるまで続いた。いや、ドアが開け放たれても続けた。

「結界が発動していると報告があった。王族は何もしていない。ということは、お前たちだな?」

第三王子の問いかけに、私たちは首を傾げて見せた。知らないという意思表示だが、そんなことをしながら結界を維持するのは難しい。だからどうしても第三王子への対応が上の空になってしまった。第三王子は目を細くして私たちを見極めようとした。が、結局わからなかったのだろう。

「何が起きている!」

「は、はい」

と、連れてきた人に聞いている。顔は見覚えはないが、怯えたような声に聞き覚えがあった。わたしより先に、ニコが指摘した。

「けっかいの、ぎしだな」

「申し訳ありません! 申し訳ありません、殿下!」

技師が青くなって頭を下げている。

「謝罪したとてお前の罪は消えぬ。それより、この者たちはいったい何をやっている」

「は、その」

技師は汗をかいたまま目をそらしている。それを見て第三王子が、腰の剣をかちゃりと鳴らした。

「ひい! あの、魔力を……」

「魔力が何だというのだ」

「おん自ら魔力を発して、結界をつくっておられるよう、な……」

プルプル震えて、大人だというのに仕方のない人だ。だが、これがわかることが、魔道具を作る技師の条件なのだろう。結界箱を分析して結界を作る時に思ったことだが、魔石のエネルギーを結界に変えることは、結界とは何かを感じられる人でなければできない。だからこそ、明かりや熱の魔道具に比べて、結界箱を作れる職人はわずかしかいないのだ。

職人を見たことがなかったので、これが初めての出会いとも言える。少々残念ではあるが。

「自ら結界を作り出しているのか。このちびどもがか」

第三王子は目をすがめるようにして私たちを見た。さすがに人に、しかも敵にじっと見られたまま結界を張り続けたことはなかったので動揺する。多少結界が揺らいだような気もする。

「リア」

「あい」

しっかりしろという四歳児の励ましがつらい。私たち、頑張りすぎでは?

そんな健気な二歳児と四歳児をじっと見た第三王子は、腰の剣をすらりと抜いた。

「それならば、今ここでお前たちを切り捨てれば、問題はないとそういうことだな」

虚族用のローダライトの剣なら何度も見たことがある。しかし、対人用の剣を見るのは初めてだった。それはローダライトの薄い赤色ではなく、鈍い鉄色に輝いていた。

「ひいっ!」

まるで夢のように思えていたその情景は、技師の怯えた声で急に現実味を帯びた。せめて、せめてニコを守らなくては。私はベッドの上で、ニコの前ににじり出た。

「ほう」

第三王子の眉が上がった。しかし、王子が何か言う前に、ニコが私の前に出た。

「よい。リア」

「にこ」

それなら、二人で一緒だ。私はもう一度、今度はニコの隣ににじり出ると、ニコと手をつないで、まっすぐに第三王子を見た。

第三王子は、光のない目で私たちを見ると、一度剣を大きく振り回し、カチンと鞘に納めた。

「お前たちを殺しても、それで終わりではない。たとえ結界箱を壊しても、四侯の血筋、そして王族、すべてを殺さなければ、キングダムの結界はなくならない。そういうことだな」

そういうことだなと言われても、私にはわからない。もちろん、ニコにもだ。

「私が命を受けているのはたった一つ。城に侵入し、王族を押さえ、結界箱を働かせないようにすること」

「そんなことをして、どんなよいことがある」

ニコの質問はもっともだ。

「キングダムの四侯を削り、キングダムの王族があてにならないことを民に知らせる。そうして少しずつイースターに権力をと、そういうことだろう」

まさか答えが返ってくるとは思わなかった。

「だが、そんなことをしてにくまれるのはイースターだ」

ニコの言うことが正しいと思う。

「イースターがそれを実行したのならな。しかし、イースターの第三王子が、イースターの兵を使って、勝手にやったことなら?」

第三王子の口が片方持ち上がった。

「サイラスどのが、かってにやったのか」

「勝手にできるわけがない。本国が描いた筋書きだ。私が知らないと思っているだろうがな」

私たちが何か考える暇も、答える暇もなく、ドアがバーンと開いて、今朝のもう一人の襲撃犯が顔を出した。

「殿下! 時間切れです」

「そうか。リーリア」

突然、声をかけられた私はびくっとした。

「一緒に、行かないか。自由な生活を保証するぞ」

「いきましぇん」

何を言っているのだ。こんな危険な人の側に行かなくても、私は幸せだ。

「殿下!」

「何が起こったか本国には知らせぬ。訳の分からぬキングダムの力に苦しめばよいのだ」

第三王子が憎んでいるのは、キングダムじゃなくて、イースターなの? こんな状況だというのに、心底愉快そうな第三王子を見ていると、ガシャーンと、窓のほうから大きな音がした。そちらのほうに目をやっている隙に、第三王子はドアからするりと廊下に出てしまっていた。

「リア様! 遅くなってすまねえ」

「はんす!」

ハンスに引き続いて、兵たちがわらわらと窓から入ってくると、私たちを確保し壁を作った。護衛隊の制服だ。ハンスは部屋に残された技師を見た。

「お前!」

「ひいっ! 技師です! 私はこの城の者です!」

「ちっ! 奴を追え!」

ハンスの声と共に、私たちを守る以外の人が廊下になだれ出た。

「すぐ戻ってきます。リア様、待てるな?」

「あい!」

ニコのことがまったく入っていないこの会話、まさにハンスである。

「こんかいもリアのごえいにたすけられた。わたしのごえいは、またちちうえにしかられるな」

そういうレベルではなく、大反省しなければいけないのだと思う、キングダムそのものが。