軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

得意なことはいろいろある

やがて私たちのいる控えの部屋のドアが開くと、がやがやと人が入ってくる音が聞こえた。

「蹴っても、剣で傷つけても開かないんだ。とりあえず隣の部屋の椅子を持ってきた」

「よし、では、取っ手のところに打ち付けるぞ。そーれ!」

ドガン、ガンという音が狭い部屋に響く。慣れない大きな音に身が縮みそうになるのを必死でこらえた。

「よし、開いたぞ!」

「行くぞ!」

部屋にいた人たちは全員そこからどこかに行ったようだ。

私たちがマークに連れられて結界の間に来たとき、この控えの部屋も一緒に見学した。だからこそここを秘密基地にしようと考えることもできたのだが、その時開けられなかったドアだろう。

「にこ」

「どうやらひとはいなくなったようだな」

「あい」

返事をしてから耳を澄ませても、遠くで人の足音がするだけだ。それでも私たちはできるだけ小さい声でしゃべっていた。

「りあ、ねてた」

「ああ、あいかわらずおしてもつついてもおきなかったぞ」

相変わらずと言うのが気になったが、そもそも寝ている子供を押したりつついたりしては駄目だろう。

「リアがねたあと、わたしはベッドのしたからでて、ふつうにへやをうろうろしていた。そうだ、こんどひみつきちには、えほんやおえかきのどうぐをいれるべきだな。ひとりではつまらぬ」

「しょれ! だいじ!」

修学旅行でトランプを忘れてしまったようなものではないか。私は思いつかなかったことを悔やんだ。

「ひとりでじゅうたんのうえをころがっていたら、けっかいのまのドアがあいたけはいがしたので、いそいでリアのとなりにかくれた」

「こわい」

「ここがどきどきしたな」

「しょこはおなかでしゅ」

どうやら私が寝ている間にハラハラドキドキの展開があったようだ。

「すぐにこのひかえのへやのドアもあけられた。ベッドのしたをのぞかれたらおわりだった」

「のじょかれた?」

「いや、すぐにてあらいのドアがあけられ、つぎにあの、あかないドアをあけようとした」

「あかないでしゅ」

どうやらそのあたりで私の目が覚めたらしい。そして、開かないドアに注意が向いて、この部屋を精査するのを怠ったようだ。助かった。

「しょの、あかないどあのむこう、なにがありゅ?」

「わたしもしらぬのだ」

ニコも知らないのなら仕方がない。ところでおやつの時間だと思うのだが、さすがに私もそれを言い出すのははばかられた。

「しっ」

まだ何も言っていないのに。しかし、文句を言う間もなく、数人の足音がとなりの部屋から聞こえてきた。その足音は部屋の真ん中で止まった。

「ここが結界の間」

控えの間のドアも、開かなかったドアも開け放たれていて、隣の部屋の物音はよく聞こえるのだ。

「なるほど、見たこともない大きな魔石。真ん中が王家、そしてそれを取り囲む四侯。まさにキングダムを象徴しているというわけか。くだらぬ」

第三王子だ。私とニコは目を見合わせ、お互いが理解したことを確認した。

「これが普通の魔道具の魔石のように、淡いピンクになると力を発揮できなくなるとレミントンは言っていたが、もう二つほどは淡いピンクではないか。奴らを遠ざけたかいがあったというものだな」

「はっ。まことに」

「キングダムも、夜に虚族のいる恐怖を味わうがいい」

私の知っている第三王子らしく、感情を込めずにたんたんと語られる内容は、大変不穏なものだった。

だが、なぜキングダムに結界を張らせたくないのか。キングダムの民が、虚族の恐怖を味わったとして、それがイースターにとって何の意味があるのか。

その時、開かなかったドアのほうから兵の走る音が近づいてきた。

「何もなかった」

「ああ、無駄足を踏んだな」

そんな話し声と共に。

その足音は私たちのところを通り過ぎて止まった。

「で、殿下」

「よい。どうだった」

「は、それが」

おそらく今戻って来た兵はお互いに目を見合わせたことだろう。そんな間があった。

「この結界の間に来るまでのように、いくつかのドアを抜けると、そこにあったのはただの中庭でした」

「中庭、だと。では、途中のドアは」

「たまにこのような客室のようなものもありましたが、たいていはただ次の通路につながるドアに過ぎませんでした」

「すべて確かめたのか」

またお互いに確認しあうような間があった。

「はい。ドアは全部開けてみましたが、客室にもう一つドアがあったとしても、ここのように通路につながっているか手洗いかどちらかでした」

「ふむ。では何のためのドアか。まさか中庭で休むためのものでもあるまい」

第三王子は少し何かを考えると、矢継ぎ早に指示を出し始めた。

「人数を増やしてもう一度すべてのドアを確認しなおせ。それから結界の間の入口に二人兵を配置せよ。報告は王子宮に」

「はっ。ということはまだ?」

「どこに隠したものか、こざかしい子ネズミたちよ。お付きのメイドは捕まえたが知らぬの一点張り。オールバンスの護衛がどこかに隠したものとは思うが」

ナタリーは捕まったようだ。私は目をギュッとつぶった。ナタリー。少なくとも私たちが捕まるまでは生かされているはず。ドアの護衛もナタリーも、私たちのことは何とかごまかせたようだ。

そしてハンス。まだ捕まらないでいるとか、さすがである。

「まあいい。王族は確保した」

ニコが思わず大きく動いたので私はニコの服をギュッとつかんだ。今出ても何の意味もない。

「どうせ腹がすけば出てくる」

失礼な。だから食料はちゃんと用意してあるのではないか。

「では、行け」

「はっ」

あちこちに兵が散る気配がし、たくさんの足音が開かなかったドアの向こうに消え、また戻り、やがて静寂が訪れた。

長かった。密かに右左にごろごろしていたが、寝転がってばかりで体がみしみしするような気がする。それにトイレにも行きたいし。

「にこ」

「ああ。わたしがまずようすをみてくる」

ニコはベッドの下からそっと頭を出すと、左右を見、するりと抜け出した。私もハイハイしながらベッドから顔を出す。ハイハイは今でも得意である。

もう夕方だが、控えの部屋はもともと窓のない部屋だ。昼でも明かりがついているし、どうやら夜もつけっぱなしのようだ。マークと来た時も結界の間は明かりが最初からついていたし、一日中明かりがついているものなのだろう。

開かなかったドアは傷ついていたが、ちゃんとしまっていた。私たちはこそこそとトイレを使い、すぐ隠れられるようにベッドのそばでもそもそと夕食を食べた。食べ終わって袋をもとの位置に戻すと、ニコは静かに話し始めた。

「おうぞくをかくほした、といっていたな」

「ちゅまり、らんおじしゃまたち、ちゅかまった」

「かくほ、とは、やはりそういうことなのだな」

「あい」

私は頷いた。ただ、確保したとは言ったが、それ以上何かしたとは言っていない。

「きっと、ましぇきからはなしゅため、ちゅかまえた」

「ませきにまりょくをいれないように、か」

「あい。たぶん」

私たちが魔石を見た時も淡いピンクだった。そして、第三王子もそう言っていた。つまり、ないとは思うが、もしかすると、今日中にキングダムの結界が切れる可能性も無きにしもあらずということなのだ。そんなことをさせるわけにはいかない。幸い、ここには私がいる。魔力量は心もとないが、魔力の操作は兄さまよりすごいかもしれないこの私がだ。

「りあ、やりゅ」

「なにをだ」

「ましぇき、まりょくいりぇりゅ」

ニコは私を見て何か言いかけたが、止めなかった。それが答えだ。