作品タイトル不明
ご飯を食べたら眠くなる
固いパンはともかく、干した果物はおいしそうだ。
「こりぇ、ちょっとあじみは?」
「なにをいう。まだあさのごはんをたべたばかりではないか」
「でしゅよね」
わかってた。わかってたけど、小さい果物一つくらいなら食べてもいいかなと思ったのだ。
「リアはほんとうにくいしんぼだな」
「ごはん、たいしぇちゅ」
「いまはしょくじのじかんではないぞ」
「くだものは、おやちゅだもん」
そんなことを言い合っていると、いつもと何も変わりがないかのようだ。小さなテーブルと椅子もちゃんとあったが、私たちはベッドに寄りかかって床に足を投げ出しながらおしゃべりしていた。
「イースターだとおもうか」
唐突にニコが口を開いた。
「あい」
私はしっかりと頷いた。
「リアはしらぬとおもうが、しろにはたくさんへいがいる。いったいどうやっておくまでやってきたのか」
庭にはたくさんのラグ竜がいた。落ち着いて竜と向き合えば、竜がどうしたのか、話を聞けたかもしれない。しかし、離れていたし、そんな余裕はなかった。
「れみんとん、りゅうのむれと、いーしゅたーににげまちた」
「レミントンがいなくなったときか。たしかに、たくさんのりゅうでみうしなったときいたな。それとおなじか!」
「たぶん」
どこから連れてきたかわからないが、おそらく城に向けてたくさんのラグ竜を放ち、それに紛れて一気に城内に入ってきたのだと思う。城の兵も、駆け抜けるラグ竜を止める間どころか、なにが起こったのかすらわからなかったのではないか。
もしかすると、攻めて来た人数でさえ、城の兵よりずっと少ないのかもしれない。
「なんのために」
「わかりましぇん」
なんのためにキングダムに攻めてきたのか、さっぱり見当もつかない。だいたい、キングダムを支配して、イースターに何のメリットがあるのか。
しかし、やろうとしていることはわかる。彼らは一気に城の中に攻め入ってきた。つまり、
「にことおうしゃまとおうじしゃま。もちかちて、まーくも」
「おうけとよんこう」
「あい」
既に一つ、四侯のレミントンが減らされた。一つ減らしたくらいでは、今のキングダムは揺らがない。しかし、そのレミントンの次代は、イースターから抜け出し、キングダムに戻ってきてしまった。しかも、あと一年と少しで成人する。
つまり、レミントンを獲得した意味が弱くなってしまったのだ。
「われらをがいすれば、けっかいがうごかなくなる。つまり、キングダムのたみがこまってしまうのだが」
「そちたら、きんぐだむのひと、いーしゅたー、きりゃいになりゅ」
「うむ。もしキングダムをじぶんのものにしたいなら、きらわれてはならぬとおもうのだが」
子どもでもわかる。もしキングダムを自分の手に納めたいと思うのなら、キングダムの民に嫌われては駄目だ。むしろ、好かれるようにしないと。
例えば、キングダムの危機を救うとか。そうでなければ、現キングダムの王家に反発するようにするか。
しかし、結界がある限り、キングダムの危機などない。
「もち、けっかいがなくなったら?」
「ありえぬ。ちちうえたちがかかさずまりょくを、あ」
ニコと私はなんとか逃げ出したが、もし、王様やランバートおじさまが既に捕まっていたとしたら?
「ちちうえやおじうえ、それにおじいさまはだいじょうぶだろうか」
「だいじょうぶ。ちゅかまっても、ちゅかまるだけ」
「ははうえは」
「もっと、だいじょうぶ」
私は力強く保証した。普通の男の人なら、奥さんに危害を加えられたら、絶対に言いなりになどならないだろう。ランおじさまは王族だから、奥さんより民のことを考えなくてはならないかもしれないけれど、長期的に見て、ニコのお母さまを害する理由がない。
「むじゅかちい。あたま、ぱーんてなりゅ」
「なんだと」
「なんでにこ、はなれりゅの」
ほんとにパーンとなるわけないでしょ、まったく。
「ついここににげてきたが、おとなしくつかまったほうがよかっただろうか」
捕まったら人質にされて、ランおじさまやお父様を脅迫する材料に使われていたような気がするから、とりあえずは逃げてよかったと思う。
もっとも、ここにいてもすぐに捕まるような気はするが。
「どうせ、いちゅかはちゅかまりましゅ」
「リア、あきらめがはやくないか」
ニコはあきれたように言うが、だって、こんな行き止まりの場所にいてもすぐに見つかってしまうだろう。
「できりゅだけ、ちゅかまらない」
「せっかくにげてきたのだからな。でも、ねばってどうするのだ?」
「あいちゅ、だいしゃんおうじ、こまりぇばいい」
「こまればいいって、リア」
ニコは私の顔を見て、ちょっと引いたような顔をした。なんだ。
「わるいかおをしているぞ」
「しちゅれいでしゅよ」
私たちが見つからなければ、お父様やランおじさまを脅す理由がなくなる。少しでも長く見つからずにいて、できるだけ困らせればいい。
「そうとなったら、まじゅ、ごはん」
「そういうとおもった」
ニコは今度は止めもせず、ベッドの下から袋を出してきた。私は洗面所に行って、カップに水を入れて戻ってくる。水もトイレもちゃんとあるところが助かる。
「ねんのために、しゅくなめにたべよう」
私の提案に、ニコは驚いた顔をした。
「すくなめ? リア、だいじょうぶか」
「おでこにごちんて、ちなくていいでしゅ」
なんで熱があると思うのだ。
固いパンはかえってよかったかもしれない、時間のかかる食事は、少なめでも満足感があった。だが、満腹で静かなところにいたら、お昼寝の時間でもないのに眠くなってきた。
「リア、あたまがゆれているぞ」
「ねむくないもん」
幼児が眠くないというときはたいてい眠い。だいたい、自分でも眠くなってきたと思っていたではないか。しかし、ここで普通にベッドに潜って寝ていたら間抜けだということくらいはわかる。
「べっどのちた」
「ベッドのした?」
「しょこで、あしょぶ」
私は独り言のようにもごもご言うと、ベッドの下に潜り込んだ。
「べっどのもようをみてりゅところ」
「そんなわけないだろう」
そのニコの言葉が記憶の最後である。さわやかに目覚めた時は、やっぱりベッドの下にいて、隣にはニコがいた。
ニコのほうに寝返りを打つと、うつぶせのニコの向こうに袋が二つ置いてあった。
「にこ」
「しっ」
ニコにしゃべるなと言われた。
「まだひとのけはいがする」
「え」
一気に目が覚めた私は耳を澄ませた。確かに、扉の向こうに人の歩く音や声がする。
王家と四侯しか入れない結界の間は、たとえ四侯全員がそろったとしてもあんなにざわついたりしない。つまり。
「いーしゅたーが、きた」
「しっ」
そして私は、気が付きもせずに、一人ですやすや昼寝していたというわけです。ごめん、ニコ。