作品タイトル不明
やってみよう
私たちは魔石の間に通じるドアをそっと開けた。おそらくだが、皆まだ起きている時間だ。
「ひるより、うしゅいぴんく」
「ほんとうだな。だが、リア」
「あい?」
私たちは小さい小さい声で話している。
「わたしのほうがリアよりまりょくがおおい。わたしがやる」
私は首を横に振った。
「にこ、まりょくがおおしゅぎて、しゅぐむらしゃきになりゅ。りあのほうがいい」
「しかしな」
わかっている。ニコも何かやりたいのだろう。
「なら、ほかの。こいましぇきに、たしゅといい」
「やる!」
ニコが目を輝かせた。しかしまず私からだ。椅子によじ登り、何とか魔石に手を触れる。
「ほんのしゅこち。いちにちぶん」
一日分がどのくらいかわからないが、ピンクがほんの少し濃くなったらやめよう。私はピンクの魔石に自分の手をそっとかぶせた。
私がいっぱいにしたことのある魔石は、アリスターの持っている結界箱の魔石が最大である。いくら細かい魔力の調節ができるからといっても、本当にできるだろうか。実は自信はない。
でも、できるかどうかなどと言っていられない。私は魔力を込め始めた。
ほんの少しと誰が言ったのか。私だ。
しかし、結界箱をいっぱいにするくらいの魔力など、魔石の色の濃さをほんの少しも変えはしなかった。その二倍、いや、三倍だろうか。そこでやっと色が変わったような気がして、そっと手を離した。少し汗をかいている。
「リア、だいじょうぶか」
「だいじょぶでしゅ」
つい反射的に言ってしまったが、大丈夫ではない。しかし、色の薄い魔石は二つある。
「もうひとちゅ、いきましゅ」
ニコは何かを言いかけ、我慢した。
もう一つはコツをつかんだせいか、思ったよりは簡単にできた。しかし、だいぶ疲れてしまった。
「つぎはわたしのばんだ」
ニコは椅子に乗ると、魔石を見て四侯の濃い魔石に魔力を足し始めた。床に座り込んで眺めていたが、苦もなくやっているように見えた。なんか悔しいような気がする。
「よし、もどるぞ」
「あい」
一応椅子によじ登って確認してみたが、気を付ければ色が変わったのがわかるかもしれないくらいで、たいていの人にはわからないだろうという感じだった。
私たちは控えの間に戻るとドアをそっと閉めた。ドアの立て付けがよくて本当によかった。
「これでいちにちはもつかもしれぬ」
「きょぞく、こわい」
「うむ」
私たちはほっとしてベッドにもたれかかった。本当はベッドの上に登りたいが、ベッドが乱れていたら私たちがいるとばれてしまうのでそれは避けたかった。
「あちたのぶんのごはん、よういちてねましゅ」
「いちいちふくろからだすのはめんどうだものな。それがよい」
「いっこだけたべちゃだめ?」
「だめだ」
つまみ食いは許されなかった。ベッドの下に潜り込み、頭の上に食べ物を用意して、二人で小さな声でおしゃべりしながら、その日は休んだ。
「なぜ結界はなくならぬのだ!」
私たちは大きな声で目が覚めた。第三王子だ。結構冷静なあの王子が珍しく声を荒げている。というか苛立っているように思えた。
「夜のうちには消えるかと思ったが、消えたという報告が来ぬではないか!」
「は、思ったより魔石に魔力があったものと思われます」
そもそもいくら忙しいからといって、王家があと一日で魔力が切れる状態にしておくだろうか。私が魔力を入れなくても、きっとあと数日はもったはずだ。そういうこと、ちゃんと調べてこないからそうなるんですよ、と私は舌をべーッと出した。
そして寝転がったまま、頭の上に用意しておいた干した果物を一つ取ってかじった。
「リア、ぎょうぎがわるいぞ」
「ちってりゅ」
何だが行儀の悪いことが突然したくなったのだ。きっと疲れてイライラしているからに違いない。
ニコも黙って果物を取ると、もぐもぐと食べ始めた。
「ぎょうぎがどうとかじゃなく、たべにくい」
「りあもそうおもいましゅ」
そんなことをしてエネルギーを補給している間に、結界の間には誰かが呼ばれたらしい。
「無、無理です」
悲鳴のような声がする。
「やれ。やらなければこの台座ごと破壊するだけだ」
「そんな!」
私たちはうつぶせになって、真剣に話を聞き始めた。
「なるほど、台座の下の部分の底を操作すると、魔石が交換できるようになっているわけか」
「は、はい。魔石といえど、永遠にもつわけではないので」
どうやら結界の間の魔石を扱う技師のようだ。そんな情報を敵に流す必要はないのに。
「では、はずせ」
何を外すというのか。
その時、キーンという懐かしい気配と共に、空気が変わった。
「何が変わったというのだ」
「は、そ、その。私にもよくわからないのですが、空気が」
「もういい! これで結界はなくなったのだな」
「はい……」
結界がなくならないからといって、結界の魔石を外す作戦に出たようだ。
「これが、けっかいのないくうき」
「にこ、わかりゅ?」
「ああ」
「まりょくのないひと、わかりゃない。だいしゃんおうじ、わかりゃないの」
「そうなのか」
「あい」
だからあんなに苛立っているのだろう。おそらく、イースターからついてきた人の多くは、結界があってもなくてもわからないのだろう。ウェスターの人たちがそうだった。
「ひるはだいじょうぶ。でも、よりゅは」
「きょぞくが、でる。あれが」
ニコは、ミルス湖に行った時のことを思い出したようだ。
「あれはよくない。よくないものだ。どうしたらいい」
「にこ、しじゅかに」
まだ人の気配がする。しかし、魔石を外し結界がなくなったことに安心したのか、すぐに結界の間から人はいなくなった。
「べっどのちた、あきまちた」
「わたしもだ」
丸一日、控えの間でこそこそしていたらストレスがたまる。それに、結局、昨日の夜私たちが頑張ったことは、無駄だったかもしれない。私はふうっとため息をついて、はっと気が付いた。
「らぐりゅう」
「ラグりゅう?」
「こりぇ、なか、こりぇ」
私は持ち歩いていたラグ竜のぬいぐるみを顔の前に持ち上げた。背中のところから手を突っ込む。
「なにをしているのだ」
「こりぇ」
ちょっと縫い目がほどけてしまったが、ラグ竜から出てきたのは、ウェスターでミルが持たせてくれた魔石だった。
「ませき……」
「こりぇ、ちゅかえない?」
「おおきさはおなじくらいにみえるが……」
ニコと私は目を見合わせて頷いた。
「「やってみよう」」
ただし夕方までまだ隠れていなくちゃ。ふう。