軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

四侯の血を引くもの

キングダムからレミントンに取り次ぐよう再三申し入れをしていたのを、イースターはのらりくらりとかわしてきた。

それがいきなり、書簡ではなく、使者をよこすという。しかも王族だ。キングダムに激震が走ったらしい。

しかし、私は別のことを考えていた。第三王子が私を襲ったとして、まあ襲ったのだが、それがウェスターの西の方の場所だった。そして再会したのがウェスターの東端の領都。今度は王都に来るという。

王族、腰が軽すぎじゃない? それに、第一王子とか第二王子とかは何をやっているのだろう。

とりあえず、よく動き回るようすは、

「あるでんかみたい」

である。私がつぶやくと、兄さまが不思議そうにした。

「どこがです? リア」

「いちゅもうろうろちてる」

「ブッフォ」

そこらへんに、たまたま話を聞いていた護衛がいたらしい。

「アル殿下のあれは、一応視察です。でも、そうですね。ウェスターにキングダム。しかも王都にはこれで二回目になるのですね、サイラス殿が来るのは」

「こなくていい」

「リア……」

本当は兄さまだってそう思っている。だって、ため息をついているもの。

「北の領地に行ってまで会わないようにしたはずなのに、結局、顔を合わせる羽目になりそうです」

「あい」

私はラグ竜をにぎって目の前に構えた。

「リア、こないだのあれは不意打ちだからできたことですよ。二度と同じ手にはかからないでしょうし、それにリアが会う必要はありません」

「どうちて?」

「どうしてって、リア、まさか本気で会う気だったのですか」

「あい」

私と顔を合わせた時の、第三王子の様子をちゃんと見てもらうのだ。

「普通、幼児は外交にも社交にも参加しません」

「しょうなの?」

「愛らしく言ってみても駄目です。それに今回は、社交どころではないでしょう。見ようによってはキングダムから四侯の一つを奪った国です。どういう主張をするつもりかわかりませんが、話し合いが穏便に済むとも限りませんし」

戦争が起きるのだろうか。

しかし、幼児の不穏な質問をとがめもせず、兄さまは首を横に振った。

「過去にはあったそうですが、今はそもそも、各国に戦争をするほどの軍がありません。取り立ててどこかの国が増強しているとも聞いたことがないですし」

「ごえいたいは?」

「数が少ないんですよ。四侯の監視が主な役目ですからね。王都には警備隊がいるから、王都内の治安はそれで大丈夫ですし」

兄さまの言うことをゆっくりと考えると、要は、結界で国ごと覆えるキングダムが強すぎると言うことだ。

「四侯を一つでも欠くことになれば、あるいは王家が存続しなければ、民に恨まれるのはキングダムの体制を崩した国です。そんな危険を冒すでしょうか。もっとも、現実問題として四侯を一つ欠くことになってしまいましたが」

とにかく、使者がどんなことを言うのか、それを聞かないと話にならない。

いくら頼んでも会わせてもらえるはずもなかったし、使者と言う名の悪い奴が何を言い出すのか、兄さまとお父様の報告をひたすら待つ私だった。

そして、第三王子が来た日、私は城に行くのもお休みして、お家で静かに待機していた。兄さまもお父様もいないのだから仕方がない。一日のんびりしようと思っていたら、メイドたちが私を一日に三回も着替えさせるし、まあ、楽しかったからいいのだが、案外忙しい日になった。

まるでパーティに行くのかと思うような格好でお父様の帰りを待っていると、お父様の帰って来た気配がした。

「おとうしゃま!」

二歳も何か月か過ぎた私は、走ってお父様のところに向かった。

「おお、リア! 今帰ったぞ」

お父様が両手を広げて待ち構えているところに飛び込もうとしたら、隣に兄さまがいた。私は思わず立ち止まった。

「にいしゃま?」

「今はルークのことはいいから、まずお父様に」

お父様が大人げなく広げた腕で私を抱え上げた。

「今日のリアは、なんだかもこもこして実体がないぞ」

「みんながいろいろちてくれた」

ドレスそのものはシンプルだけれど、スカートの下にはレースたっぷりのパニエが入っており、帯は大きなサテンのリボンが蝶結びになっている。それがどうやら抱っこするのに邪魔らしい。

「お父様、実体がないなどと、まったく。今日のリアはおしゃれをしていて、いつもにまして愛らしいですね」

今、お父様の株がメイドの間でさがって、逆に兄さまの株が跳ね上がったと思う。しかし、そもそもなぜ平日の今日、兄さまがおうちに帰って来たのだろうか。安全のためにも学院の寮にいるはずだったと思うのだが。

「にいしゃま、どうちていりゅ?」

「それなんだが……」

お父様が私を抱き上げたまま、私の頭の上で首を横に振っている。

「リア、今日、イースターの第三王子が来たのはわかっているね」

「あい」

お父様も兄さまもどんよりとした顔をしている。

「イースターとしては、イースターに引っ越しをしたいというレミントンの願いを断れなかったと、そういうことらしい」

「はあ? ひっこち? ないでしゅ」

「ないですよね。リアでもわかることなのに」

兄さまが若干失礼だが、その通りである。

「そのうえで、レミントンより書状を預かってきたと」

なぜイースターに行きたかったかが、そこに書いてあるのだ。私は何が書いてあったのかドキドキしながら、お父様の言葉を待った。

「それがな」

「しょれが?」

「四侯と、その血筋を引くすべての者に聞いてほしいと伝言を預かって来たとのことでな」

「あい?」

つまり、兄さまやギルなど、まだ外交の場に関わるべきではないものまで引っ張り出そうと言うことである。

「にいしゃま、たいへん」

「リア、いいのです。私自身は、何としてでも第三王子と直接顔を合わせたいと思っていたので、好都合なほどです。しかし」

兄さまはためらうように私を見た。

「リア、人ごとのような顔をしていますが、引っ張り出されるのはリアも同じです。四侯の跡継ぎをすべて、ではなく、四侯の血を引くものすべて、と求められたのですから」

「リアも……」

二歳児にレミントンの思いなど聞かせてどうするというのか。

「私は王家に突っぱねろと進言したのだ。どんな言い訳を聞いてもレミントンは戻っては来ない。それなら、レミントンを切り捨てた体制を早く構築したほうがましだからな」

お父様は苦々しい顔をしている。

「キングダムにいる四侯の血を引くものすべて、つまり、四侯の色があるものすべて、と言われたら、それはすなわちリアを連れて来いと言うことに他ならないではないか」

「レミントンの思惑なのか、イースターの思惑なのか、それとも第三王子の思惑なのか。いずれにせよ、幼児を巻き込むとは腹立たしい限りです」

「ほんとでしゅよ」

姑息なやり方が腹立たしいのは確かだ。しかし、私が行けば済むのなら行けばよいだけのことだ。城の衆人環視の中で何ができるものか。

「りあ、いきましゅ」

そして兄さまとお父様と共に、次の日城に行くことになった。

「あー、リア、そのぬいぐるみは置いていこうか」

「とうぜん、もっていきましゅ」

「うん。まあ、いい。どうせ使うこともあるまい」

ラグ竜のぬいぐるみも一緒に。