軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

レミントンからの手紙

いつもお城に行くときは、城を回り込んで、竜車でニコのところへ直接行く。だが、今日は四侯、オールバンスとして城の正面から行く。竜車も普段使いのものではなく、白に金と淡紫の特別仕様のものらしい。

お父様も兄さまも、白地に金と紫の刺繍が入った上着を着て、黒いズボンですっきりまとめている。私もウエストに紫の帯が縫い付けられた、白の動きやすいすっきりしたドレスを着せられている。ウエストと言うよりお腹と言ったほうが正しい気もするが。ごてごてとかさばるものでないのが素晴らしい。さらに少し薄汚れてしまったラグ竜が子どもらしくてとてもよい。私は一人頷いた。

普段誰も迎えに来ないのに、今日は城の入口にライナスが来ていた。しばらく見なかった顔だ。お父様も兄さまも、頭を下げるライナスに気づいた様子もなく、迎えも案内も当然のような顔をしている。

ここは私がオールバンスの評判を上げておこう。

「らいなしゅ、おちゅかれしゃま」

「リーリア様」

ライナスが小さな声で返事をして、ほんのちょっと表情を緩めた。が、すぐ真面目な顔をして、

「今日はこちらへ」

と案内を始めた。

本来、他国から来た使者は、大広間で迎えるらしいし、昨日もそうしたらしいが、結局、

「レミントンからの手紙は、四侯の血筋全部にお伝えしたいとのこと」

という謎の提案により、別室でしかも日を改めて集まる羽目になったわけである。

「めんどうくしゃいやちゅ」

「リア、ぽろっと本音が出ていますよ」

兄さまにちょっとたしなめられた。

「それに、彼の要求ではなく、レミントンの要求ですから、一応形式上は」

「さいしょからそういえば」

「ごほんごほん」

兄さまが咳払いした。

「リア、廊下は静かに歩きましょう」

「あい」

しゃべってるのは兄さまなのに。

「こちらでございます」

「ほう。竜の間か」

「りゅうのま?」

「特別な客人を招く部屋だ」

お父様もほとんど入ったことがないという。そんなに特別扱いしなくてもいいのに。いや、国の使者で王族だもの、仕方がない。

「オールバンス侯、ご入室」

ライナスの簡潔な宣言と共に、開いていたドアから部屋の中に入る。

「わあ」

小さい部屋ではなかった。正面に三段、高い場所があり、玉座がある。段の下にはリスバーンとモールゼイがいて、段の上には見たことのないおじさんが座っていた。両脇にランバート殿下、アルバート殿下が控え、ランバート殿下の前にはニコがいる。

全員、きれいな金色の髪に金色の瞳だ。

「おうしゃま?」

「ははは、そうだよ、オールバンスの幼子よ。さあ、おいで」

王様が両手を広げたので、私は素直にとことこと段々を上り、王様に近づいた。

「りーりあ・おーるばんすでしゅ」

「良い子だ。噂にたがわぬ愛らしさだな」

そういう噂ならいくら広がってもかまわない。

「さ、おいで」

王様が私に手を伸ばしたので、私はニコも呼んだ。孫を差し置いて先に抱っこされるのは気が引ける。

「ニコも」

「ああ。へいか、わたしもいいだろうか」

「もちろんだとも」

そういうわけで、ニコは王様の右ひざに、私は左ひざに抱き上げてもらった。王様は満足そうである。

「おうしゃま、おひげありゅ」

「髭がないと威厳がないのでな。仕方なくはやしている」

「わたしはしょうじきにあわぬとおもうが、おうだからしかたないのだそうだ」

兄さまたちが微妙な顔をしているが、私もニコは正直すぎると思う。

「使者殿がいらっしゃいます」

ライナスの簡潔な声掛けに、私は素直に王様の膝を降りて、お父様のところに戻った。

「おお、よちよちと」

「よちよちちてない!」

「ああ、すまなかった。すたすたしていたとも」

もちろんすたすたしている。兄さまも認めているくらいだ。ただ、階段を降りるのに普段と違うドレスだからちょっと慎重になっていただけである。

そして、私たちが入ってから一度閉じられていた大きな両開きのドアが、ゆっくりと外側に向かって開いた。

「イースター第三王子、サイラス・フェイ・イースター殿」

そんな御大層な名前だったとは知らなかった。私は足を大きく開いて腕組みしようとしたが、兄さまに目で止められたので、お父様の左足に右手をつけて、ほんの少し首を横に傾けるだけにした。

「ぐふっ」

向かいから奇妙な音がする。ギルである。もう一五歳だというのに、なっていない。私はいけませんよというように首を振った。

そんな一幕を知ってか知らずか、まあ知らないとは思うが、扉から堂々と奴が入ってきた。

一旦足を止めると、胸に右手を当て、お辞儀をする。

もともとどちらかと言うと軍人タイプで、姿勢もよく引き締まった体つきをしているので、ピシッと決まっている。

顔を上げると、忘れられない、つり上がり気味の黄色い瞳が、ニコたち王族のほうにまっすぐに向けられた。

「サイラス殿。連日のご足労、いたみいる」

「最初からレミントンの願いをお伝えしていなかったこちらの手落ちです。改めて場を設けてくださり、感謝いたします」

ちゃんと喋っているではないか。私は黙って続きを待った。

「今日は王都にいる王族と四侯の血を引くものすべて集めてある。とはいえ、初めて顔を合わせるのはわが孫、ニコラスのみか」

「ギルバート・リスバーン殿と、ルーク・オールバンス殿、そしてそこのお小さいリーリア殿には、たまたまウェスターの城でお会いしたことがあります」

「なるほど、偶然とはいえ珍しいことだ」

「まことに」

空々しいやり取りが続く。そこのとかお小さいとか、いつ見たんだ、まったく。

「では自己紹介させよう。ニコラス」

「はい。へいか」

ニコは一歩前に出ると、胸を張った。

「わたしがニコラス・マンフレッド・キングダムである」

「サイラス・フェイ・イースターです」

これで挨拶は済んだ。

「では、レミントンの手紙とやらを読み上げてもらおうか」

「承知しました」

サイラスは、胸の隠しから封筒に入った手紙を出すと、おもむろに読み始めた。

「親愛なるキングダムの皆様へ。突然住まいを移したこと、驚かれたことと思います」

そりゃ驚いたよ。出ちゃいけないと言われてるのを無視して出て行ったのを、こんなに軽く言えるのがすごいと思う。

「現在のキングダムは、王家のお三人共に十分な力があり、幼いニコラス殿下にもそれが受け継がれ、何の不安もありません」

レミントンも、リスバーンも、モールゼイも。四侯の瞳を継ぐ者は各家たった一人。アリスターはもし戻ってきたとしても、後を継ぐほどの魔力量があるかどうかは確信が持てないので、候補には入れないでおく。

オールバンスは、私と兄さまと二人。

この現状のどこに不安がないと言うのだろうか。私はあきれはてた。

「そのような状況の中、我らの力の恩恵が、キングダムにしか行き渡っていないことに常々心を痛めていました」

まず、フェリシアとクリスのことに心を痛めるべきでしょ。

「レミントンの担当であるイースターとの交流を通し、イースターの人々のためにもわがレミントンの力を使うべきと考えるようになりました」

イースターは平原が主で、虚族の被害が一番少ないと聞いた。辺境の人のために働きたいなら、ウェスターかファーランドに住まいを移すべきだったでしょ。

まだ読み終わってもいないのに、私は無性にイライラした。