作品タイトル不明
内緒の計画
フェリシアが疲れていることも気になったが、最近はもっと気になることができた。
あと少しでニコが四歳になると言うのだ。
「あとにかげつでよんさいである」
ニコが自慢げに胸を張る。誕生日が楽しみな気持ちもわかるのだが、三歳と言う貴重な時は二度と戻ってこない。もっと今の年齢を楽しんでほしいと思う。決して私と二歳差になるのが悔しいからではない。
「ニコはおたんじょう会はするの?」
クリスが大事なことを聞いてくれた。
「かぞくだけでやるそうだ。おうぞくがパーティをひらくと、おおごとになるからめんどうくさいとちちうえがいっていた」
「めんどうって、らんおじしゃま……」
「リア、べつにいいのだ。にさいのときも、さんさいのときもそうであったし、おじうえもかならずきてくれるからたのしいのだぞ」
ニコはアルバート殿下が好きだから嬉しいだろう。
「リアはまだ二さいだから知らないだろうけれど、せいだいなパーティをするのは一さいの時だけなのよ。あとはそれぞれのうちしだいね」
「クリスのところはパーティをするのではなかったか」
「するわよ。でも、みんなお母さまとお父さまに会いにくるだけだから」
誕生日のパーティは特に楽しくはないというクリスである。そういえば、私のお披露目の時ニコは、アンジェおばさまに誕生日以来と言ってはいなかったか。
「たんじょうかいはやらないが、よんこうはあいさつにきてくれるし、なにやらきぞくからプレゼントもたくさんとどくぞ」
「おとうしゃまも?」
娘としてこんなことを言うのは何だが、お父様が挨拶に行くとか想像できない。
「オールバンスこうは、その」
ニコが困ったような、何かをごまかすような顔をした。
「その?」
「きてくれたぞ。ただ、しばらくあとだった。すっかりわすれていたといっていたな」
「おとうしゃま……」
そこは忘れたではなく、仕事が忙しくてとか何とか言っておけばいいのに。
「ルークにせかされてきたらしい。オールバンスらしいとちちうえはわらっていたぞ。それに」
「それに?」
「おもえばリアがいなかったときであった。それどころではなかったのであろう」
確かに私がいなかった時期ではある。しかし、私がいたとしても、挨拶を忘れていたのではないかという疑惑がぬぐえない、残念なお父様なのだ。
しかし、その娘は礼儀を忘れないいい子なのである。私は腕を組んで考えた。
「うでが……くめている、だと……」
「くめている、と言えないこともないわね」
そうだろうそうだろう。進化した私は、遊んでいる時、ニコが離れた時を狙ってクリスに相談をした。
「くりしゅ」
「わかってるわ」
「さしゅが!」
数か月の友だが、なかなか気が合うのである。
「ニコのおたんじょう会をわたしたちでするのよね」
「しょれ!」
当たりだ。同じことを考えていて嬉しい。
「といっても、べんきょうのあいまになるわねえ」
「りあは、おひるのあとはだめでしゅ」
「ねちゃったらいみがないものね」
クリスも腕を組んで考えている。
「おーい!」
「にこがよんでましゅ!」
「姉さまにたのんで、おひるをいっしょに食べながらそうだんできないかしら」
「しょれがいい!」
ニコに内緒は難しい。相談のうえ、数日後に食事をとりながら相談することになった。
お父様なら、私が他の人と食事をとることを嫌がったと思うが、レミントンはそうでもないらしい。その日も顔色の悪いフェリシアと一緒にお昼を取ることになった。
お父様も一応社交的な会話はできるらしい。フェリシアを楽しませながら会話をしている様子に私もとても感心した。それでも、急いでご飯を食べると、フェリシアとクリスと三人で頭を寄せ合って相談だ。
「家族できちんとお祝いをするんだから、私たちは気持ちだけでいいと思うのよ」
フェリシアがそう言ったのは、私とクリスの負担にならないようにと言うことだろうと思う。
「みんなが、これるひにしゅる」
「ルークとギルが先生でくる日ね」
「あら、私もお祝いに入っていいのかしら」
フェリシアの言葉に、私とクリスはあきれた目を向けた。どうやら、小さい子のお手伝いをするだけの予定だったらしい。
「みんなともだちでしゅ」
「姉さまったら。わかってないのね」
「まあ」
フェリシアはくすくすと笑った。
「四侯みんなでお祝いをするのね。友だち、そうね、友だちなのね。素敵だわ」
年がちょっと離れているが友だちなのである。まずクリスがふんと胸を張って提案した。
「わたしかんがえたの。ニコもわたしたちも、ほしいものはなんでも持ってるでしょ。だから、なにかてづくりのものがいいかなって」
「しゅごくいい」
私はとても感心した。出会ったころはけっこうわがままな感じのお嬢様だったのに、こんなことも考えられるようになるとは。手作りと言えば、私にもできるものはある。
「りあ、おいもにしゅる」
「おいも?」
何のことかわからないという顔をするレミントンの姉妹の向こうで、なぜかお父様が慌て始めた。
「リア、お芋は駄目だ。そもそも殿下がお芋が好きとはかぎらないだろう」
「きいてみましゅ」
「聞かなくていい。そう、そうだな、ナタリーに相談して、簡単に作れるお菓子などどうだ。リアと言えばおやつ、そう、お菓子しかないな」
おとうさまは勝手に決めて頷いている。
「父様だってまだ食べてないのに、殿下に先を越されてたまるか。私は菓子はたいして好きではないし」
それか。
まあ、私は手芸もできないし、ナタリーに相談してみよう。
「わたしはなににしようかなあ。ししゅうはにがてだし、絵でもいいかな」
「みんなでおめでとを、かいてもいい」
寄せ書きみたいにしてもいいのではないかと、私は説明した。
「みんなで?」
「みんなのきもち、いちまいでちゅたわりゅ」
「それもいいわね。私が紙を用意するわ」
フェリシアが紙を用意して、こっそり皆に回してくれることになった。
「書くのが苦手な小さい子から順番に書いていくといいわね。でも、そもそもリアはおめでとうを書けるのかしら」
「もちろんでしゅ」
手がうまく動かないから上手ではないが、書けるのは書けるのだ。
「えもかけましゅよ。らぐりゅうとか」
「そ、そうなの。でも、とりあえず字だけでいいわね」
遠慮しなくていいのに。
そういうわけで、各自がプレゼントを用意してばれないようにオッズ先生に預けておく、寄せ書きはフェリシアがこっそり皆に回す、当日はプレゼントを渡して、皆で楽しくお茶会をすることで話が落ち着いた。オッズ先生の説得は私とクリスがすることになった。
大きい人がいると本当に楽である。さて、午後の授業だ。
「どうせリアはねちゃうのに」
「ちかたがないでしょ」
私たちが不毛な話をしている後ろで、お父様の声がした。
「フェリシア」
「はい。ディーンおじさま」
お父様がフェリシアに話しかけるのは珍しい。
「いいか。なにか、そう。なにか困ったことがあったら、いつでもオールバンスを頼るがよい。リアとルークだけでなく、私もだ」
「おじさま?」
「小さいことでもいいから。抱え込むな」
フェリシアは、少し目を見開くと何か言いかけて、でも何も言わず、ただ頷いて頭を下げた。
お父様、かっこいい。