軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

顔合わせ

出発するのに護衛を集めると言っていたから、どんな規模になるのかと思ったら、護衛は総勢30名ほどで拍子抜けしたと言ってもいいだろうか。出発の数日前の顔合わせの時のことだ。

アルバート殿下は、元々身の回りの世話をする人など連れて歩かず、護衛と補佐の仕事をする人を合わせても10人以内で行動するのだという。

「昔話にあるような盗賊団など、キングダムには存在しないのでな。襲ってくるとしても10人以内だから、それで大丈夫。むしろこれ以上人数が増えると、滞在する相手に迷惑」

なのだそうだ。王族が来ているというのに宿になど泊まられたら、体裁が悪いということらしく、視察に行くと必ずと言っていいほど現地の貴族の屋敷に招かれるからだという。

兄さまやギルにもそれぞれ護衛がつき、そのほかは護衛隊の精鋭が集められた。もちろん、私にはハンスが付くし、身の回りのお世話ということでナタリーがついて来てくれる。

私はまだ二歳だというのに、護衛隊には縁が深い。そもそもさらわれた時、お父様と一緒に来たのが護衛隊だったし、ウェスターの国境までお迎えに来てくれたお父様にくっついてきた人たちも護衛隊だった。その護衛隊を率いていたのは、若いのに堅物の人だった。今回もその人が隊長を務めるようだった。名前は確か、

「ぐれいしぇしゅ」

だったと思う。グレイセスは、

「覚えておいででしたか、リーリア様」

と、生真面目な顔をほんの少し緩めてくれた。

「閣下の娘とは思えません」

とつぶやいたのは聞こえなかったことにしておこう。私たちとの顔合わせでもあるが、アルバート殿下と護衛隊の最終打合せでもあるようだった。

「二歳児と三歳児ですからね」

「もうすぐよんさいである」

「二歳児ともうすぐ四歳になる子どもですからね」

ニコの突っ込みに、グレイセスが冷静に言い直していておかしい。アル殿下に、グレイセスがこの間の旅のようすを話している。

「とはいえ、リーリア様は旅慣れていらっしゃる。この間のウェスターからの旅も、大人とそう遜色のない日程で帰ってこられましたが」

「しかし、ニコは三歳で」

「もうすぐよんさいである」

「ニコはもうすぐ四歳であり、そもそもじっと竜車に乗っているのに耐えられるとは思えぬ。ちょくちょく休憩を取り、早めに宿をとるようにした方がいいと思うのだが」

事前に予定を組んで各地の貴族に通達を出しておくのではないだろうか。まだ日程が決まっていないとは、それは行く先の貴族に迷惑なことだとちょっと思った。しかし、今度の旅は急ぐものではない。私の大事なお父様はちゃんと王都で待っているし、兄さまは旅の間ずっと一緒だ。何の不安もない。

「にこ、べんきょう。いしょいでも、ちかたないでしゅ」

私はグレイセスにそう言った。一応アル殿下のお見合いとはいえ、ニコの勉強でもあるのだから。

「お前は」

「あにをひゅる」

アル殿下は私の前にしゃがみこむと私の頬を両手でつまんだ。

「まだ二歳児のくせに、旅慣れているどころか旅程に口出しまでして。くっ、柔らかいな」

「はなしぇー」

つまんで揉むのはやめてほしい。そこにやっと殿下を止めてくれる人が現れた。

「アルバート殿下、手を離してください、大人げない。リア様がニコ殿下と仲がいいからといって、みっともないですよ」

「ハンス、言いすぎだ。たとえ真実でも不敬である。それにニコ殿下ではない。ニコラス殿下だ」

「ルーク様、申しわけありませんでした」

ハンスと兄さまだ。ハンスは殊勝に頭を下げるとちゃんと言い直した。

「アルバート殿下、手を離してください、大人げない。リーリア様がニコラス殿下と仲がいいからといって、みっともないですよ」

「ニコラス殿下と言いさえすれば、中身が不敬でいいということではないぞ」

アル殿下はハンスに文句を言いながら私の頬を離して立ち上がった。やれやれである。

「リア、だいじょうぶか。おじうえはときどきこどものようなのだ」

ニコは私の頬をそっとさわった。叔父さんとは大違いなのだ。

「ニコ、お前は味方だと思っていたのに」

アル殿下は落ち込んでいる。そんなことより旅程を決めてはどうか。

「もう少し早めに回れるかと思ったが、無理をしても仕方ない。当初の予定を崩さず、ゆっくり行って帰ってくることにしよう。オールバンスの者が一緒なので、ネヴィルにも滞在しやすくなったしな」

ネヴィルには叔父様もいるし、ラグ竜もいる。既に日程は決まっていて、少しでも早く帰ってくるかどうかという相談だったようだ。私はともかく、ニコのことを考えたら余裕のある日程を立てるべきだ。

「それがよい。リアはたびなれているそうだが、それでもひるねのじかんはひつようだ。よくねるからな。おじうえ、いちばんちいさいこのことをかんがえ、ゆっくりいくべきであろう」

「にこ、えりゃい!」

そのニコの一言が決定打だったようだ。護衛がわらわらと動き出した。私も日々勉強仲間としてニコを鍛えたかいがあるというものだ。私はニコをほめ、腕を組んでふむと頷いた。

「なぜ幼児二人が決定権を持っているのか」

「まあ、決まっていたことの再確認ですから」

アル殿下は何やら嘆いていたが、自業自得だという目で兄さまが見ていた。旅に行くと決まってから、兄さまは学院で情報収集したりマークと話したりして情報収集していたらしい。旅の準備に家に戻っていた日、お父様には内緒でこんな話をしてくれた。

「リアに言ってもわかるかどうか、要はアルバート殿下は、したほうが面倒がないという理由からお見合いは受けるが、楽しみで行くわけではない。それなら、かわいがっている甥っ子を連れて行けば楽しいではないかと思ったらしいですね。王族には四侯以上に、王都にとどまっていなくてはいけないという圧力がかかっています。アルバート殿下は、それが子どものころから嫌でたまらず、だからニコ殿下を、自分の力の及ぶ範囲であちこち連れ出したかったようです」

理由はともかく、ニコがあちこち行くことはいいことだと思う。

「問題は、私たちも都合よく巻き込まれたということです。私は正直なところ、お父様と一緒にいるところで第三王子と対峙したかった」

「りあも」

「リアはだめですよ」

兄さまは、私の隣でベッドに寝転がりながら首を横に振った。

「アルバート殿下と行く北部より、王都のほうが問題が大きいような気がするのです。マークにもきちんと事情は伝え、お父様とも真剣に話し合ってはいますが、どうなることか」

「まーく」

私はあのマークで大丈夫なのかという目で兄さまを見た。兄さまはくすくす笑って、私の頬を突っついた。

「私たちには気を許しているらしく、子どもっぽい所もありますが、あれでモールゼイの跡継ぎです。信頼はできますよ。ただ」

兄さまは気がかりそうに天井を見上げた。

「レミントンとは親しくありませんから。フェリシアとクリスについては、どうしようもないのです」

なぜクリスの名前が出て来たのかその時の私にはわからなかった。ただ、クリスも一緒に行けたらよいのにと思っただけだった。