軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

大人なのか違うのか

お父様は私が言いたいことはわかってくれたのだろうか。あの時、真剣に頷いてくれたと思いたい。

要は、イースターの貴族が王都に見合いに来るとき、第三王子もついでに付いてきて視察という名の観光に来るということらしい、と私は理解した。

そして、何やらいわくありげな第三王子と私が、顔を合わせる機会がないようにしようという配慮らしい。

ウェスターの城でもそうだったが、キングダムの王都に来て、皆に守られているところで騒ぎを起こすことはお互いにないだろうと私は思う。だから、ランバート殿下の気遣いも、お父様の気遣いも本当は必要なかったのだ。

むしろ、私たちのいるところで、第三王子がどう振舞うかを、お父様には見てほしかったような気もする。

だが仕方ない。ニコ王子の遊び、いや、勉強相手としては、王族に一緒に行けと言われたら行くしかないのだから。

「ずるいわ。リアとニコだけ」

「クリスもこれたらよかったのだが」

ニコが残念そうにクリスを慰めている。

アルバート殿下だけならすぐに出発できたのだろうが、オールバンス家とリスバーン家の跡取りも行くということになったため、準備に時間がかかるということで、話のあった次の週はニコのお勉強は普通に行われることになった。

つまり、私もクリスもお城でニコと一緒に勉強しているという訳なのである。

クリスが行かないということは、私は週末にお父様から聞いていたが、クリス本人は今朝聞いたばかりらしく、おかんむりである。そりゃ行きたいでしょと私は思う。

「リアが行けるんなら私だっていけるわ!」

「りあ、にいしゃまのおまけでしゅ」

私は苦しい言い訳をした。一応はニコの魔力の先生である兄さまが行くのであって、私はついでということになっている。

「さ、クリス、いつまでも怒っているなら、連れて帰りますよ」

「それはいや、ねえさま」

クリスはフェリシアにたしなめられ、やっと静かになった。それでもフェリシアは叱るだけでなく、クリスのことをぎゅっと抱きしめた。

「ねえさま」

「気持ちはとってもわかるわ。姉さまだってついて行きたいくらいよ」

クリスはフェリシアの腰にぎゅっとしがみついた。

「姉さまはクリスと一緒に残るからね。少しお仕事を控えさせてもらって、一緒にいる時間を作りましょうよ」

「ほんと?」

「ほんとうよ。私だって普段いい子にしてるのよ。クリスと遊ぶご褒美くらいもらわないと」

喜んで跳ねるクリスを優しく見つめながら、フェリシアはぽつりとつぶやいた。

「クリスのことを勝手になんてさせないわ。私が守るんだから」

クリスのこと? 何のことか聞くに聞けずにいたが、ニコの、

「さあ、べんきょうのじかんだ。きょうもわたしがいちばんだな」

という言葉に、

「あら、それはどうかしら。いちばんとしうえの私がかつとおもうわ」

とクリスが反応して、うやむやになってしまった。勉強に勝ち負けなどどうでもいいのである。

「あ、リア、もうかいだんのとちゅうまで上がってる!」

「あしがおそいからさきにいくさくせんだな!」

気が付かれてしまった。繰り返すが、勝ち負けなどどうでもいいのである。だが、言っておく。

「りあのあち、おしょくないでしゅ」

失礼な話だ。ただちょっと短いかもしれないだけである。結局先に行かれてしまった。今度はもっと早めに階段を上がろうと決意した。

クリスが素直に行くのをあきらめた一方で、おさまらないのはマークだった。

「私はもうとっくに成人しているし、それどころか父と交代で魔石に魔力を入れ、モールゼイの義務をきちんと果たしている。だからこそご褒美に私を連れて行ってくれてもいいのではないか」

ご褒美などと言っている時点でマークが成人しているかどうか怪しいものだ。それに、そのことは絵本を読んでいる私やニコに言わず、向こうのソファで足を組んで本を読んでいるアルバート殿下に言ってもらいたい。もっとも、今日はクリスが来なかった日なので、クリスにまた「行きたい」という気持ちを思い起こさせずにすんでよかったという気持ちはある。

「なあ、アル。私も行きたい」

幼児に愚痴を言うのはやっと終わったようだ。今度は殿下にぶつぶつ言っている。

「独身のお前を連れて行ったら、同じ年の男二人だぞ。『この際モールゼイでもいいから』などと見合いの矛先がお前に向かうどころか、王家にもモールゼイにも嫁をあてがいたいという貴族の娘が山ほど送られてくるに違いない」

「王都に残っても同じだ。一度受け入れた時点で、向こうはレミントンだけでなく、モールゼイにも相手を送り付けてくるに違いないからな」

「マーク」

殿下は静かにマークの名前を呼んだ。マークははっとして私たちのほうを振り向いたが、私もニコもしっかりそれを聞いていた。

「むこう」

「れみんとん」

私とニコは、それぞれ気になったところを思わず口に出した。今二人はお見合いの話をしていたはずだ。ということは、レミントンにもお見合いの話があるということになる。

「ふぇりちあ、おみあい」

「おじうえ、むこうとはどこのことだ」

それぞれ頭に思い浮かんだことを口にした私たちに、マークは困ったなと言うように肩をすくめ、アルバート殿下はだから言っただろうというように天を仰いだ。

「本当にこの二人には油断がならないな」

独り言のようにつぶやくと、アルバート殿下は私たちにきっぱりと言った。

「この間抜けが今話したことは、大人の話だ。子どもが聞いていい話でもかかわっていい話でもない。お前たちは、北の領地への旅のことを考えてさえいればよい」

時にはこのように、余計なことに口を挟むなという大人がいてもいいだろう。私たちは二歳と三歳の幼児なのだから。しかし、聞いていい話でなければ聞かせるべきではない。

ニコは新しい本を取るふりをして図書室の奥の方に移動した。私も絵本を持ってついて行く。ニコは本棚で何の絵本を選ぶか悩んでいるようすで、私に小さい声で話しかけた。少し離れたところからは、二人で絵本の相談をしているように見えるだろう。

「りあ、むこうとはなんのことか。しっているか」

「おとうしゃま、いーしゅたー、いってまちた」

「イースターか」

どうやらニコは、自分たちはアルバート殿下について行くということしか知らされていなかったらしい。それはそうだろう。旅に出るということだけで普通は頭がいっぱいのはずだ。

「おじうえはおみあいにきたのりょうちへいく。マークがおうとにのこってもおなじ。つまり、レミントンにもモールゼイにもみあいのはなしがある」

「ふぇりちあ、おみあい」

「ふぇりしあがけっこんしたがっているとはしらなかった」

「りあもでしゅ」

年頃だから仕方ないのかもしれないが、フェリシアは次期当主になることと、クリスのことで頭がいっぱいで、恋愛や結婚のことなど考えているようには見えなかった。

「もっとも、マークはそろそろけっこんすべきとしであろう。おじうえですらみあいにいくのだからな」

「まーく、まだこども」

「リア、しつれいなことをいうものではない。マークはあれでおじうえとおなじとしなのだぞ」

「あるでんかも」

「私がどうした」

私とニコは書棚に向かったまま固まった。すぐ後ろにアル殿下の気配がする。

「私もだよ。マークがなんだって?」

マークもいた。結局北の旅のことだけ考えなさいと、改めて説教されてしまった。詮索されるようなことを言う大人も悪いと思う。