軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三王子

「私もですか!」

「りあも?」

牧場からおうちに戻ってきてお父様の話を聞いた時、兄さまも私も思わず声を上げた。

それはそうだろう。さすがの私も、まさか自分がこんな形で修学旅行に、いや、おじいさまの領地に行くことになるとは思いもよらなかった。

ミニーに乗っている間常に上機嫌で大きな声を上げていたニコが、お母様にお話しするのだと機嫌よく帰っていった後のことだ。

普段見るニコは、嬉しそうな顔をしていても大きな声を上げて笑うことなどない。常に落ち着いているスーパー三歳児(本人はもうすぐ四歳だと主張する)なのである。城にはなんだかんだ言っても勉強しに行っているので、割とまじめなニコしか見たことのなかった私も新鮮な気持ちだった。

もし今頃、北に行く話を聞いていたら大喜びだろうと思う。

「それにしてもニコ殿下は、王家の直系。魔力量からも確実にランバート殿下の跡を継ぐお方でしょう。そんな方を王都から出すなんて、王家はずいぶん思い切りましたね」

「私も正直なところ驚いた。まあ、これから監理局を説得する仕事があるだろうが、普段無茶な要求はしない王家からの要望だ。なんだかんだ言って通るだろうよ。既にアルバート殿下はあちこちに出かけているしな」

兄さまの疑問にお父様が大丈夫だろうと答えている。

「私はいろいろなところに出かけられるのなら、それはもうどこにでも行ってみたいと思います。今回おじいさまの領地に行くのは二度目ですが、いずれにしろ夏にはリアを連れて行こうと思っていたので、それが早まってとても嬉しいですが、しかし」

兄さまは私の方を心配そうに見下ろした。

兄さまの言いたいこともわかる。私が王都に戻ってからまだ数か月しかたっていない。その間、結局はすぐにお城でニコの遊び相手をすることになってしまい、さらにはお披露目もしたばかりである。めまぐるしいことこの上なく、そんな生活では私が落ち着かず大丈夫だろうかと心配しているのだろう。

しかも、普通は二歳児を遠出に連れて行こうなどと考えもしないだろう。まして私は四侯の血筋であり、一度さらわれてしまったという経歴もある。実行犯は捕まったが、それも最後に私を連れていた犯人だけであり、最初に王都から連れ出した犯人も、その黒幕も何もかもわからないままなのだ。

「にいしゃま」

でも、私がそのことについて思い悩むことはない。

そもそも、思い悩んだらさらわれずに済むというなら、私はさらわれたりしなかった。身の安全は、周りの人が考えてくれるしかない。そのうえで、是非にも私を連れて行きたいというなら、まあ、行ってあげてもいい。

嘘です。出かけられるなら喜んで出かけます。ましてお母様の実家だというではないか。しかもおじいさまもニコも兄さまも一緒なのだ。あとギルも。楽しいことばかりではないか。

ただ、気になることがある。

「おとうしゃまは?」

部屋になんとも言えない沈黙が落ちた。

「リア、おいで」

「あい」

私がお父様のもとにとことこと近寄ると、お父様は私をさっと抱き上げ、膝に乗せた。

「お父様は別のお仕事があるのだよ。その仕事のために、王都を離れるわけにはいかない事情があってな」

しょんぼりした声である。

「おとうしゃま、しゃみしい」

それが一番心配なのだ。半年も離れていたのに、また数か月で離ればなれになることにお父様は耐えられるのだろうか。

「リア! お父様も本当は行かせたくないのだよ」

「ディーン」

ひしと私を抱きしめてそんなことを言うお父様を、おじいさまがたしなめるような声で名前を呼んだ。お父様の体が少しびくっとした。私は思った。

何かある。

そしてお父様の膝の上から兄さまを見た。兄さまは頷いた。

「お父様。いくら遊び相手だからといっても、私たちがニコ殿下について行く理由は本当はありませんよね。もしそうなら、なぜクリスは行かないのかということになる」

「それは、四侯のうち三家も付いて行ったらバランスが悪いからで」

「うちとリスバーンが行くのも多すぎですよね。それこそ、私だけ、ギルだけでもいいでしょうに」

私だけということはないのだろうか。私が首を傾げると兄さまはこう答えてくれた。

「リアだけではさすがに心配です。リアが行くなら当然兄である私もという話にはなるでしょう」

なるほど。私は膝の上からお父様を見上げた。兄さまもお父様をじっと見ている。

「うう」

「ははっ。ディーンも賢い二人の子どもには形無しだな」

「まったくもって面目ありません」

お父様はおじいさまに笑われてへこんでいる。

「本当に賢い子たちなのは、ここしばらく一緒に過ごしていて私もわかっている。特にルークなら、どうせこの後、噂などを拾って自分で結論を出すに決まっている。それならばリアも含めて、この場できちんと説明しておいた方がよいのではないか」

お父さまは少し迷うように私を膝の上で揺らした。兄さまにはいずれ話したことだろうと思う。おそらく私に話すかどうかで迷っているのだろう。

「お父様、リアなら大丈夫ですよ」

代わりに兄さまが言ってくれた。

「しかしな」

「情報は多いほうがいい。本来なら二歳という年齢は、黙って守られているべき歳でしょうが、リアは違います。いえ、守られるべきではあっても、伝えるべき情報はちゃんと伝えたほうがいいと思うのです」

お父様は少しの間悩むように私を揺らすと、覚悟を決めたようにその動きを止めた。

「実はな。アルバート殿下がファーランドの貴族と見合いしている間に、イースターの第三王子が王都にやってくることになったらしい」

イースターの第三王子。黄色い目のあいつか。私の目はきつくなっていたと思う。

「リア?」

私はお父様の膝の上からもぞもぞと下りた。そしてお父様とおじいさまに向き合った。

「よわっていても、ちたいでもしゃがせ」

私の低い声に、お父様は瞬きをし、おじいさまは眉をひそめた。

私をさらった人が黄色い目をしていた、それがイースターの第三王子に似ていた、そしてその王子はどうやらリアを認識していたようだったと、このくらいしかお父様は聞いていないだろう。

だってお父様は、私からは辺境の暮らしを直接聞こうとはしなかったからだ。

「だいしゃんおうじ、いいまちた。りあがにげたとき」

「リア、ちたいとはなんだね?」

おじいさまが私の言葉をなんとか解読しようとしている。

「ちんでりゅひと。はんなのように」

誰かがひゅっと息を呑んだ。ジュードかもしれない。

兄さまはバートたちから話を聞いたし、私からも直接話したから私がどのようにつらい思いをしたかはわかっている。しかし、私を通さず、兄さまから話を聞いただけのお父様は、私がどのような状況にいたのかを知ることから逃げていたのではないか。

だから、第三王子のことは本当には疑ってはいないのだ。とりあえず、私と兄さまを嫌な思い出から遠ざけようとして、北へ行かせようとしたのだということはわかった。

でもこれだけは言っておこう。

「わりゅいひと。おとうしゃま、ちゃんとみて」

そう伝えることしかできなかった。