軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

8

雨の匂いと土の匂いが混じり、季節の変わり目を感じる。乙女ゲームの世界なだけあって、日本と同じ気候に懐かしさを感じてしまう。

(前世では感じられなかった空気。私は嫌いじゃないのよね。)

日本では梅雨と呼ばれた季節。視界も悪く音も聞こえづらいため、森に入ることは推奨されない。

しかし、魔物の間引きは行わなくてはいけない。そのため、雨の日が続いた騎士団での活動は、隊長と副隊長のみだと言われた。

雨避け用のローブを羽織り、フードを被って剣を携える。今回は高等部とも合同のため、シリウスの姿も見える。

「じゃあ、準備はいい?……視界も悪いし、音も拾いにくいから気をつけて。」

シリウスの言葉にみんなが頷く。

パラパラと降る雨の音に混じって、木の葉の揺れる音が聞こえる。嗅覚も聴覚も、いつもより頼りにならない事は、誰もが分かっているために会話はなく、とても静かな空気だ。

森に入る前に役割を振られ、私は魔法の方が得意だと申告していたため、後ろの方を歩いている。

魔物が出てくるが、シリウスの采配で問題なく処理されていく。流石だと思い気が抜けてしまった私は、少し霞んだ目を擦った。

(ここ数日、ゲームの内容をまとめていたせいか、寝不足だわ。)

昨日くらい早めに就寝しておくべきだったと、後悔していた私は、後ろから飛びかかってくる魔物に気づくのが遅れた。

「……あっ。」

間一髪で避けることが出来たが、後ろに跳びながら剣を抜こうとした為、バランスを崩してしまった。

まずいと思った私は咄嗟に魔法を使おうとしたが、それよりも早くレイナードが剣を抜いた。私を支えながら魔物を切り伏せたレイナードは、息をついて私を見た。

「大丈夫か?」

「はい。……ありがとうございます。」

「いや、大丈夫ならいい。音も聞こえづらい。後ろにも気をつけて。」

私の体を離したレイナードは、ポンポンと慰めるように頭に手をおいた。レイナードのその仕草にお兄様を思い出し、つい笑ってしまう。

すると驚いた表情をするレイナードに、ハッとして謝った。

「あっ。ごめんなさい。つい、兄を思い出してしまって……。」

私の言葉にレイナードは納得したのか、「そうか」とそっぽを向いた。怒ったのかと思ったが、少し耳が赤い様子に、恥ずかしかっただけかなと安堵した。

周りも気を配ってくれていたようで、無事を確認するように私をチラッと見ると、また前を向いて歩き出す。

それから気を引き締め直し、何事もなく無事に森から出ることが出来た。

「この後、定例の会議を行う。少し休憩をしてから、会議室へ集まってくれ。」

そう言うシリウスの言葉で解散をする。私も少し休もうとローブを脱ぎ歩き出すと、シリウスに腕を取られどこかへ連れていかれる。引く力は強いのに、私の腕を握る手は優しい。

「えっ?シリウス?」

声を掛けるが、シリウスは無表情のまま何も答えない。怒っているかのようなピリピリとした空気に、何かしたのだろうかとグルグルと考える。

手を引かれ、空き教室に入るとシリウスは手を離した。

「……あの、シリウス?……どうしたの?」

いつもと違うシリウスに少し緊張して、震える両手を握る。

「……僕の方がリアのことを好きなのに。」

小さく呟く声は雨の音で聞こえづらい。それでもシリウスの苦しそうな顔に、胸が痛くなった。

「……リア、僕の手の届かないところで、危ないことはしないで。」

私を抱きしめながら、シリウスがそう呟く。さっきのことだと理解した私は、落ち着かせるようにシリウスの背を、そっと撫でた。

「うん。ごめんなさい。……少し、集中力が落ちていたわ。次からはちゃんと気をつけるわ。」

「……うん。」

たったそれだけの返事だったが、シリウスの声は震えていて、何かを堪えているようだった。

シリウスが落ち着くまで、綺麗な黒髪を梳くように撫でていた私は、心臓の音が聞こえませんようにと願っていた。

しばらくすると、シリウスがピクリと揺れ顔を上げた。

「ごめんね、リア。」

「……?大丈夫よ!」

意味深な謝罪に少し不思議に思ったが、気のせいかと笑って頷いた。すると、シリウスは私の頬に手を当て指ですりっと撫でると、綺麗な顔を近づけた。

突然の事で、頬に口付けられたと気付いた時には、既にシリウスの顔は離れ、ニコニコと微笑んでいた。

「……っ!」

顔に熱が集まり、赤くなった頬を押さえると、私の様子にシリウスは気分を良くしたのか、ふふっと笑う。

「どうしたの?顔赤いよ?……もう時間だから、その可愛い顔はやめてね。」

揶揄う様なシリウスを睨むと、それすらも可愛いと言われ、どうしたらいいか分からなくなる。

むくれる私を微笑ましげに見たシリウスは、「戻ろう」と私の手を取って歩き出した。

雨のひんやりとした空気で頬を冷ましながら、シリウスの手の熱を感じていた。