軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

6

「では、エルヴァン嬢、お願い致しますわ。」

マナーの授業、教師にお手本をと言われ、にこりと微笑む。差し出された手にそっと自分の手を置くと、相手の眉がピクリと動く。

(私だってやりたくてやるわけじゃないのに。この人の態度、ほんと癪に障るわ。)

ゼインは授業中だというのに、不機嫌な顔を隠そうともしない。その態度にため息をつきたくなるが、微笑みながら「お願いします」と言っておいた。

向かい合ってホールドを組み、曲がかかるのを待つ。ゆったりと流れた曲に合わせて、ステップを踏み始めた。あまり難しくない中級者用のこの曲は、幼い頃に何度も練習をしていた。同じ動作を繰り返すだけなので、姿勢や手の角度に気をつければいい。

私は慣れたように体を動かしていると、曲が少しづつテンポアップするにつれて、少し違和感を感じた。

(……なんだか、ぎこちないわね。)

チラッとゼインの顔を見ると、私の視線に気づいたゼインに睨まれる。その様子に呆れた私は、視線をゼインから外した。

(この人、運動が得意じゃないって設定だったけど、ダンスもなのね。どこかでそんなエピソードがあったのかしら?もうあれから何年も経ったし、この人のルートは一周しかしてないから、あまり覚えてないのよね。)

考え事をしながら、区切りのいいところでほんの少しテンポを変え、さりげなくリードを促す。すると踊りやすくなったのか、足が自然に動くようになっただろう。

驚いたように私を見るゼインが横目に映るが、面倒だと思い、微笑んだまま無視を貫く。

「素晴らしいですわ!皆様、これがお手本となります。」

私は踊りを終えると、拍手をくれる教師と生徒に礼をして、足早に後ろへ下がった。

(私が公爵令嬢だからって、気を遣わなくていいのに。)

確かにダンスは得意な自信はあるが、高位貴族だからと、わざわざ贔屓しなくてもいいのにと文句を垂れる。

それから、教師が前でゆっくりと説明をしながら、授業が進められていった。私は流れる曲を聴きながら、幼い頃、シリウスと踊りたいと、練習したことを思い出して、懐かしさに浸っていた。

授業が終わり、今日もお昼は売店で買ったものを、中庭で食べようかしらと考えていると、ふいにざわざわとした空気がした。

「リア。」

シリウスの声に顔を上げると、手招きをされる。周りからの視線を感じて、振り払うように小走りで駆け寄った。

「シリウス?どうしたの?」

「やっと落ち着いてね。一緒に昼食、食べない?」

ルークお兄様から、忙しくしているのだと聞いてはいたが、お昼の時間もだったと考えると、大変そうだなと感じてしまう。そう考えて違和感に首を傾げる。

「あれ?お兄様は?」

「ああ、先に食堂にいるよ。席を取ってくれてると思う。」

シリウスの言葉に納得した私は、是非と言ってシリウスと食堂へ向かった。初めて来た食堂にキョロキョロとすると、シリウスにクスクスと笑われる。

「……笑わなくてもいいじゃない。」

「ごめんね。リアが可愛かったから。」

そう言って私の頭を撫でると、人が多いからと手を引かれる。甘やかしてくるシリウスに、ずるい人だと感じた。

シリウスは、お兄様が取ってくれた席に着くと、メニューはどうするか聞かれる。この食堂は日替わりしかないそうで、Aランチは肉、Bランチは魚、Cランチが野菜となっているそう。

「私はBかな。」

そう言うと、さっと立ったシリウスが「待ってて」と行ってしまった。私もと立ち上がったが、お兄様に席を取っててと言われると、動けなくなってしまった。

周りをキョロキョロとしながら座っていると、ふと耳に入ってきた名前に、意識が引き寄せられた。

「あっ、今日はシリウス様がいるわ。」

「いつ見てもお美しいわよね。」

「レオン殿下も素敵だけど、ミステリアスな雰囲気がいいわよね。」

周りにいた令嬢たちの会話に共感していると、聞こえてくる内容にピタリと動きが止まる。

「でも、私は少し怖い時がありますわ。」

「何言ってるの。ニコリともしないあの態度がいいのよ。」

表情がないシリウスを私は見た事がなかった。

だから気にしたこともなかったが、ゲームでのシリウスは誰にでも優しく、困ってる人を助ける人なのだ。

(……やっぱり、私のせい?)

ゲームでは、アメリアを失ったシリウスは、二度とこんな事にはならないようにと、完璧であろうとする。誰にでも分け隔てなく接し、困ってる人には手を差し伸べるが、常に一定の距離を保ち壁をつくる。その矛盾した態度をヒロインが気づいて、癒していくストーリーなのだ。

私が俯いて考え事をしていると、戻ってきた二人にどうしたのと聞かれるが、なんでもないと笑って答える。

もやもやとしていた私は、シリウスがじっと見つめていたのに気づくことが出来なかった。