軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

王宮にて(3)

登って来た人は王宮の侍女だった。

年齢は20代半ばか後半くらいだろうか。金色の髪に茶色い瞳で、絵本に出て来る魔女の様な見事な鷲鼻をしていた。会った事はない人だと思う。

その侍女さん。手にナイフを持っていたのだ!

そのナイフを振り返ると同時に振り上げた。

唖然とする私の耳にエリーゼ様の声が響いた。

「よけて!」

だが、黒髪の女性はよけなかった。代わりに肩にかけていたカエルのカバンを振り抜いたのだ。カバンはナイフを持った侍女の頭にクリーンヒット!

ガキイッ!

とすごい音がして、侍女が1メートルくらい飛んだ。

カバンの中に何を入れていたんだ⁉︎ダンベルかっ!

私は倒れた侍女を見て黒髪の女性を見てエリーゼ様を見た。

黒髪の女性は、黒髪のカツラを被ったジークルーネだった。勢いよく体を回転させたせいでカツラがずれている。

そしてエリーゼはコンラートと一緒に向かいの灌木に隠れていたのだ。今はコンラート共々立ち上がって、潰れたカエルの様にうつ伏せに倒れている侍女を見ていた。

状況がわからない⁉︎

コンラートが長い足で灌木を超え、地面に転がったまま呻いている侍女を押さえつけた。

本当の本当に状況がわからない!

「ジークルーネ様、どうしてアカデミーの制服を着ておられるのですか?」

とユリアが聞いた。

「他に聞く事があるでしょ。」

とエリーゼが言う。エリーゼ本人は灌木の側から動かず

「誰の指示なの?」

と侍女に聞いた。

「答えろ!」

と言ってコンラートが首を押さえた手に力を入れる。

「誰の指示でもない。私の考えよ!」

侍女は苦しそうに息をしながら叫んだ。キンキンと甲高い耳障りな声だった。

「クサーヴァーとエノックの復讐よ。おまえの父親が二人を殺したから!だから、あの男から娘を奪ってやろうと思ったのよ!」

「何やらかしたんだ?あの親父は。」

とジークルーネが首をひねる。違う!その二人を殺したのは、たぶんあなたではなく私の父親だ。

『エノック』の方は誰かわからないけれど『クサーヴァー』の方は覚えているから。

『クサーヴァー・フォン・ツァミューレン』は人身売買をやっていた悪虐孤児院を支援していた貴族の名前だ。六年前の事だ。(第二章での話です)孤児院長や他の仲間の貴族諸共、クサーヴァーは悪事がバレて死刑判決を受けた。

だけどクサーヴァーは『身代わり屋』を使って刑を免れたのだ。私のお父様が司法大臣にならなかったら、そのまま無事逃げおおせただろう。だけど新たに司法大臣になったお父様は部下達を使って刑を免れた人達を徹底的に捜索したのだ。

そして悪い奴というものは、探せばけっこう見つかるものなのである。

骨の髄まで贅沢を満喫して生きて来た貴族達である。平民に身をやつして平民のふりをして生きていけるわけがない。逃亡先で潜伏に協力する人間はかなりの財産家だ。更に言うとスネに傷持つような輩だ。そういう人間は限られる。

更に言うと、罪を犯して罰を受けずに逃げおおせたような奴は反省をしていないのでだいたいにおいて罪を繰り返す。情報を丁寧に収集すれば、似たような事件の情報が聞こえて来るのだ。

クサーヴァーは捕らえられ、国王陛下と父の命令で処刑された。

それについて、父の判断は全面的に正しいと私は思っている。

何の罪も無い幼子を金で売り、その金で贅沢をして生きていたのだ。売られた子供達は違法闘技場に売られ、生きたまま野獣の前に放り出された。私としては同じ方法で犯人共を処刑をして欲しかったくらいだ。

だが、コンラートに押さえつけられている女の考えは違ったらしい。

「親に捨てられて、のたれ死ぬのが当たり前の子供達を生かしてやっていたのよ。それを売ったからって、どうしてそれが罪なのよ!生かしてやっていた事が褒め称えられるべき慈悲であって、殺すのが普通の事なのよ。何もしないで孤児を無視していた輩に何を言う権利があるというのよ!」

「エーレンフロイト侯爵は『何もしてない輩』じゃないわよ。」

エリーゼが冷たい声で言った。

けれど女は聞いていなかった。

「エノックの事だって。一介の門番が貴族の命令に逆らえるわけないじゃない!それなのに、死刑だなんてあんまりだわ。それも外国人の女なんかのせいで。ヒンガリーラントの男に声をかけられて光栄だ、とありがたがってりゃいいのに大騒ぎなんかしやがって。あの小娘こそヒンガリーラント人を侮辱した罪で、死刑にしてやれば良かったのよ!」

エノックという奴が誰なのかわかった。きっと『ジークレヒト事件』で男子の寄宿舎の門番をしていた男だ。

そしてこの女の認知が歪みきっている事もわかった。反論する気にもなれやしない。物の道理を説いて改心するタイプに見えなかった。

これ以上聞いていると耳が腐りそうだった。

この女と死刑囚達がどういう知り合いだったのかは知らないが、王宮の侍女をしているという事はこの女は貴族なのだろう。

貴族ってこういうものなのかね?とため息をつきそうになった私の耳に、耳を疑うような単語達が聞こえて来た。

「この世界がそもそもおかしいのよ!こんな世界もう嫌‼︎食事はまずいし、馬車は馬が臭くて不快だし、パソコンもスマホも無い、ラ◯ンもイン◯タも、※※※※も※※※も※※※※も無いし!」

・・・・え?