作品タイトル不明
王宮にて(4)
「もう嫌・・・。」
と女は言った。
目に一筋涙が伝った。
「帰りたい。」
その時だった。
女の体が急に痙攣し始めた。突然の事に私達皆に動揺が走る。
「毒か!」
とコンラートが言った。口の中に手を入れて吐かそうとしたが
「もう遅いわ。」
とエリーゼが言った。
「何かをした気配はなかった。遅効性の毒を前もって飲んでいたのよ。」
成功しても失敗しても死ぬつもりだったという事だ。私は
「死んじゃダメ!」
と叫んだ。
「さっき言ったセリフもう一度言って!最後の方聞き取れなかった!」
パソコンとスマホというワードは、はっきり聞き取れた。ライ◯とイ◯スタも聞き取れた。だけど後はよくわからなかった。まあただ単に私の知らないワードだったのかもしれないが。文子はSNSの類の知識はからっきしだった。
というか、そのワード知ってるって事は間違いなくこの人元地球人だろ!
「死なないで!あなたは何者なの?どうやってここへ来たの⁉︎お願いだから答えて!」
その疑問に答える声は無かった。女の瞳孔は完全に開いていた。
コンラートは女から手を離し立ち上がった。
「誰かーーー!」
とジークルーネが大声をあげた。
「おーい、おーい、おーいっ!」
しばらくすると近衞騎士が数人駆けつけて来た。
「どうしました?」
「この女がいきなり刃物を振り回して、エーレンフロイト姫君に襲いかかって来ました。」
「えええ!」
襲われたのはあんたやろ!
と思う。
いや、逆に襲ったというべきだろうか?
「エーレンフロイト様、大丈夫ですか⁉︎」
「大丈夫なわけないでしょうが。愉快な発言は慎んで頂けますか?」
とジークが毒を吐く。
「王宮の警備はどうなってるの?」
とエリーゼもひっくい声で言った。その声に騎士達が震え上がる。
「と・・とにかく、姫君、どうぞこちらへ。お話を伺わせて頂きたい。他の皆様も・・。」
「嫌です。こんな場所にとてもいられないわ。帰ります。」
「それにはまず、王太子殿下の許可をとりませんと。」
「あの馬鹿がとろとろしているからこういう事になったのでしょうが!」
その発言は思いっきり不敬罪・・。
私の顔色は十分蒼かったと思うけど、それでもまだ更に血の気が引いたよ。
「前もって毒を服用してから、襲撃して来たみたいよ。徹底的に背後関係を調べてちょうだい。」
とエリーゼは騎士達に命令した。
「じゃあ帰りましょう。ルネ。ベッキー。」
そう言ってエリーゼは 踵(きびす) を返した。
良いのだろうか?とちょっと疑問に思う。私達が殺した。と後々因縁をつけられないだろうか?騎士様達の事情聴取に協力するべきではないだろうか?
でも結局、私はついて歩き出した。名前も知らぬこの女が死んだ以上、いったい何がどうなっているのか、事情を知っていそうなのはエリーゼ様だけだ。ついて行けばもしかしたら殺されるかもしれない。だけど好奇心に勝てなかった。
「エリーゼ様!」
「ここでは人目と人の耳があります。後で話しましょう。」
「はい・・。」
「エーレンフロイト家の別邸に行きましょう。あそこなら、人目を気にせず話ができるわ。」
「わかりました。」
私はそのまま芳花宮には顔を出さず、王宮を出て行った。
手続きをして王宮を出て別邸に着くまで30分くらいかかった。
そのおかげで少し落ち着く事ができた。
目の前で人に自殺されるのは恐ろしいし不快でもあるが、見るのが二度目だった事もあり一度目の時よりはショックを受けなかった。
最初に見たのはシュテルンベルク邸で、死んだ女はアウグスティアンだった。今回もあの時と同じ服毒死だった。という事はあの女もアウグスティアンなのだろうか?もしくは、アウグスティアンが背後にいるかだろう。
だけどあの女がアウグスティアンかも、という事より元地球人かも、という事の方がはるかに気になった。
あの女には、この世界ではない世界の記憶があった。
そしておそらく。エリーゼにも今の時間軸ではない世界の記憶がある。
私はそう確信していた。