作品タイトル不明
王宮にて(2)
まさか『私!』
そそそそそんなバカな!
私はカニの様に横っ飛びして、通路の右側の 灌木(かんぼく) に身を潜めしゃがみ込んだ。綺麗に整備された通路の両側には、ツツジくらいの高さと密度の灌木が植えてあるのだ。
「何をしているのですか、お嬢様⁉︎」
「しー!」
私は人差し指をくちびるに当て、護衛二人とユリアを手招きした。その手がカタカタと情け無いくらい震えている。
実際のところ「何をしているのか?」と聞かれても答えようがない。理性に従ってとった行動ではないからである。自分でも自分の考えがわかっていない。
でも本当にこれってどういう事⁉︎
もしかしてドッペルゲンガーっていう奴?
それとも何か時空に歪みが生じて、一周目の世界と混じり合ってしまったとか?
私と私が顔を合わせたら、どっちかが消えたりなんかするの⁉︎
石段の上にいる人物は、こちらに背を向けているので顔が見えない。大きな扇子を持って日差しを避ける様に顔の前にかざしているので、正面に回っても見えないかもしれない。
「あの人。」
とユリアが呟いた。
「ベッキー様に雰囲気似ていませんか?・・まさか!」
「何⁉︎」
「王太子殿下がベッキー様にそっくりな女を愛人にして、芳花宮で囲っているのでは!」
「少し黙ってて、ユリア。」
だけどユリアのおかげでちょっぴり落ち着いた。
あれが一周目の私であるはずはない。私は一周目ではアカデミーには通っていない。殺された時も普通に令嬢らしいドレスを着ていた。カエルのカバンも持っていなかった。
というか冷静に考えれば、あれは私ではなくちょっと私に似ている人だ。そうに決まっている。アカデミーにあんな黒髪直毛の人いたっけ?とは思うけれど、もしかしたら編入生かもしれない。ほんとに私は何をしているのか?
「アーベラ。」
「ええ、わかってます。」
ティアナとアーベラがうなずきあっている。
「どしたの?」
「お嬢様。道の向かいの灌木に誰か潜んでいます。おそらく二人。」
「え?」
私はぞっとした。もしかして殺人犯人が!
「カップルが仕事サボって御休憩しているのですかねえ。」
とユリアが言った。私は思った。疑ってごめんよ。きみは絶対に殺人犯人ではない。
「不審者ではありますが、潜んでいるのがもし高位貴族だったら 誰何(すいか) するのはまずいので近衞騎士を呼んで来ましょうか?」
とティアナが言う。
「お嬢様。散歩は中止して芳花宮へ戻りましょう。」
とアーベラにも言われた。この二人はアカデミーの制服を着た黒髪少女には全く関心が無さそうだった。
「そうだね。」
と言った時。足音が聞こえて来た。小さな足音だったが、神経が過敏になっていたので気がついたのだ。足音は階段を登って来た。
しゃがみ込んでいる私達四人の姿を見られたら、間違いなく不審者認定されるだろう。私達は灌木の陰に隠れた。もしも気づかれたら、アクセサリーを落としたので探している、とでも言って誤魔化すしかない。
黒髪の少女は、一周目のレベッカが死ぬ前の時期いつもそうしていた様に、扇子で顔を隠している。少女と登って来た人物がすれ違った。そしてその人物は振り返った!
「よけて!」
という大声が響き渡った。