作品タイトル不明
大陸歴318年(2)
騒動の発端は、私の従兄弟のシュテルンベルク伯爵と従姉妹のリナさんが電撃婚約した事だ。
実は、伯爵には国王陛下の妹のクラウディア殿下が結婚を迫っていた。
自分が呼ばれなかったパーティーで他の女との婚約を発表してしまい、クラウディア殿下は怒り狂った。そして、兄である国王陛下に二人の婚約を認めないようにと詰め寄った。
だけど王様はクラウディア殿下の要求を却下した。
シュテルンベルク家はヒンガリーラントの庶民に最も人気のある家門だ。その姓を名乗る二人が婚約した。邪魔をすれば王室が悪者になるだけである。ヘソを曲げたシュテルンベルク家に反逆でもされたらたまったものではない。
「伯爵の方も結婚に乗り気だとおまえに聞かされていたから、まあ良いか。と思っていただけだ。あの家は長男が我々の従姉妹の娘と婚約した。それに伯爵の従妹のレベッカとルートヴィッヒが結婚をする。だから、これ以上あの家と王室が結婚によって結び付く必要はない。独身の王女としておまえには、もっと王室の利となる相手と結婚してもらいたい。」
と王様は冷たく言ったらしい。
怒りが収まらないクラウディア殿下のその怒りにエリーゼ様はガソリンを注ぎ込んだ。
ルートヴィッヒ殿下の立太子パーティーに二人で出席したシュテルンベルク伯爵とリナさんに、クラウディア殿下が喧嘩を売りに行こうとしたのに割り込み、殿下の目の前で笑顔で「おめでとう」と言ったあと
「伯爵閣下のように魅力的な方に、決まった相手がいないなんて誰も思ってはいませんでしたけどね。いたとしたら、ものすごく空気が読めない人ですよね。」
とけらけら笑いながら言ったのだ。
クラウディア殿下は激怒し、クラウディア殿下の取り巻き達は皆真っ青になった。
怒ったクラウディア殿下は、エリーゼ様が18歳なのにまだ婚約者がいないという事を馬鹿にした。
「あの身持ちの悪いヒルデブラント令嬢でも、上手いこと元婚約者を丸め込んだのに、同い年のあなたにまだ婚約者がいないなんて惨めなこと。」
「私は家の為、王家の為最良の相手を選びたいと思っていますわ。叔母様。お分かりでしょうけれど、今王家の血を引く女に求められているのは天然痘終息後、新たに男爵となった新興貴族と王家の結束を強める事ですよ。そういえば新しく男爵になったアルト同盟の組合長は60歳で男やもめなのですって。腐るほどお金を持っている方ですし、叔母様の再婚相手にぴったりではありませんか。」
あのディスカッションの様子を思い出すだけで、いまだに震えが来るほどだ。招待客の皆さんもあの舌戦ばかりが記憶に残って、ルートヴィッヒ王子が何色の服を着ていたのかも覚えていないのではないだろうか。少なくとも私は覚えていない。
60歳の男爵なんかと結婚させられたらたまらない。と思ったのだろう。クラウディア殿下はその直後シンフィレアの王太子と婚約しヒンガリーラントを出て行った。
婚約と言っても、シンフィレアは一夫多妻制の国でクラウディア殿下は第五夫人になる。
それでも、男爵夫人にだけはなりたくなかったのだろう。
シンフィレアは大火と天然痘とで、国力がどん底まで落ちてしまっていた。お騒がせな王女であっても莫大な持参金を持って来てさえくれればかまわないと、引き受けてくれたのだと思われる。
クラウディア殿下がヒンガリーラントを出て行って少しヒンガリーラントは平和になった。
というか、その話の流れなら国王陛下の姪であるエリーゼ様は新興貴族と結婚するべきではないのだろうか⁉︎
エリーゼ様の婚約者候補を略奪し、60歳のじーさんを代わりに押し付けてやった。と思っているであろうクラウディア殿下が、エリーゼ様とうちのヨーゼフが婚約したと知ったら、きっとまたものすごく怒り狂うぞ。
『一周目』では、エリーゼ様はヨーゼフと婚約はしなかった。
ヨーゼフは11歳で天然痘で死んでしまったし、エリーゼ様はルートヴィッヒ殿下と愛人関係にあると噂されていたのである。
なのに何故二周目では二人が婚約なんて事になったのか?いつの間にそんな関係になっていたのか?お姉ちゃんは知らなかったぞっ!
婚約に関して両親は
「ヨーゼフが相手は自由に選べば良い。」
と常日頃から言っていた。
でもってヨーゼフが
「喜んで。」
とブランケンシュタイン家の申し込みを受けたのだ。
そしてヨーゼフの15歳の誕生日が過ぎたタイミングで、デビュタントパーティーを行う。なので、姉である私よりも先にヨーゼフの方が社交界にデビューするのだ。
とにかく今の我が家は、ヨーゼフの社交界デビューの準備でてんやわんやだ。私の社交界デビューは完全に忘れ去られている。
そして私とルートヴィッヒ王子の婚約話は、私の社交界デビューが済んでから進めよう。という約束になっているので、こちらもさっぱり進んでいない。
一周目と違って、私とルートヴィッヒ王子がはっきり婚約をしていない状態で私はXデイを迎える事になる。
その日を私は生きて超える事ができるだろうか?