軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

婚約式(6)

「硬貨に穴を開ける事で、使用する金属の量を節約する事ができます。それに、真ん中の穴に紐を通したら、50枚、100枚、200枚と簡単に束にする事ができ硬貨を数えやすいのです。」

まさにその為に日本人は5円玉と50円玉に穴を開けたのだ。

第二次世界大戦で負けた日本は、金属が不足していた。なので、硬貨に穴を開け金属の量を節約しようと考えた。

地球上の国々で、通貨に穴が開いているのは日本だけであるという。なので、外国人へのプレゼントに5円玉や50円玉をあげると珍しいと言って喜ばれるのだそうだ。

硬貨に穴を開けるのを思いつくなんて、絶対王女様は日本人だ。日本人に決まっている!

「その王女様はいつ頃、こちらの世界にいらしたのですか?」

「6年前・・のはずです。私がお会いしたのが5年前の秋で、もうじきここへ来て1年になると言っておられましたから。」

とグラハム博士は言った。

私は少しドキッとした。私がレベッカの体に戻って来たのも6年前の秋だったからだ。

「王女様はお幾つなのでしょう?髪や目の色は何色なのですか?」

「セシル様の髪色は綺麗な黒髪でした。瞳の色は茶色でした。年齢は知りませんが、おそらく20代の半ばのはずです。」

息が止まった。

『セシル』様!

それは、文子の一番の親友の名前だった。ちなみに純日本人だ。漢字で世記と書いてセシルだった。

農家の次女で罠猟免許を持っていて、文子に捕まえた動物の捌き方を教えてくれた。アニメが好きで、二次創作とコスプレが好きで旅行が好きだった。

そして『あの日』東京行きのバスに、文子と一緒に乗っていた。その親友と同じ名前だった。

いや、でもせっちゃんは私と同じ年だ。だけどセシル王女はもう20代半ばである。だから、せっちゃんのわけがない!

そう考えてはたと気づいた。18歳だった文子は11歳だったレベッカの体の中に戻って来た。だけど18歳で『異世界転移』したのなら。6年経った今年齢は24歳である。

まさか、まさかせっちゃんがこちらの世界にいる!

でも、確かにせっちゃんなら異世界転移したとしても生き延びれそうな気がする。体は健康で、イノシシと戦える勇気があり、異世界に対する造詣も深い。

そして料理上手だった。一番の得意料理はカレーだった。

どんなに気を使って処理をしても、発情期の獣は生臭い。そんな獣臭い肉をおいしく食べるには、カレーこそが無双と言ってよくカレーを作ってご馳走してくれた。肉の臭みを取る為にスパイスなどもかなり凝っていたはずだ。

そして、せっちゃんはコミュ力が鬼高だった。

これは、せっちゃんの妹の 笑里(えみり) ちゃんに聞いた話だ。

せっちゃんのお姉ちゃんがワーキングホリデーでオーストラリアのシドニーに行き、せっちゃんと笑里ちゃんはシドニーに遊びに行った。

シドニーには街中を巡回するモノレールがあり、乗り放題で一人4ドルだった。せっちゃんは10ドルを機械に入れ乗車券代わりのコインを2枚買おうとしたが、コインが1枚しか出て来ず、なのにお釣りは2ドルだった。

せっちゃんはすぐさま駅員に詰め寄り

「10ドルイン!コイン、ワン!」

と迫った。あまりに下手な英語に駅員さんは目を白黒させたらしいが、それでもめげずにせっちゃんは

「ジュウドルイン!コインワンオンリー!」

と叫び続けた。そこで4ドルを諦めるという気の弱さはせっちゃんには無縁だった。ひたすらオウムのように駅員に猛抗議を続け、それを聞いていた妹の笑里ちゃんはたまらずこう言ったという。

「お姉ちゃん。テンダラーと言わなければ通じないよ。」

せっちゃんの発言は通じなかったが、気迫は通じた。駅員さんはせっちゃんと妹に「入っていいよ」的な事を言って中に入れてくれたそうだ。

せっちゃんの外国人が相手でも一歩も引かない度胸と、4ドルを諦めないスピリットがあれば、きっと異世界でも達者に生きていけるだろう。

というか、その稀人さんは小国のとはいえ『王女』になったのだ。凄いよ。

もし、その王女様がせっちゃんなのだとしたら。会いたかった。ものすごく会いたかった。せっちゃんには私が文子だってわかってもらえないだろうけれど。それでも会いたかった。泣きたいくらい会いたかった。

今すぐ、豚の貯金箱を抱えて北大陸に行きたかった。

正直、今まで北大陸に行きたいと思った事はなかった。男尊女卑がひどいらしいし、医学も科学も西大陸より遅れてそうだし、何より寒そうだし。

もし将来亡命しなくちゃならなくなったとしても、行くなら東大陸と思っていた。

だけど今、ものすごく北大陸に行きたかった。今すぐここを駆け出して北大陸行きの船に飛び乗りたかった。

いろんな思いが胸の中を錯綜し、胸が詰まって言葉が出なかった。

そんな私を、同じテーブルについている人達がじーっと観察している事を私は気がついていなかった。

そして私の後方で、精悍な顔立ちの青年が私の様子をじっと見ていた事を。