軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

婚約式(1)

そして、時は流れ『婚約式』の日がやって来た。

その日は朝から良い天気だった。婚約式はガーデンパーティーなので、実にめでたい話だ。私は朝早く起きて支度を始めた。

朝早くユーディットに叩き起こされたのは、支度に時間がかかるから。というのもあるがエスコートの都合もあるからだ。ちなみに、相手はルートヴィッヒ王子ではない。私がエスコートされるのではなく、私がブラウンツヴァイクラントの王女であるカトライン様とフェルミナ様に付き添うのである。

ルートヴィッヒ王子は、ヴァイスネーヴェルラントの王太后カサンドラ様をエスコートする事になっている。今日の私達の立ち位置は、お客様ではなく主催者サイドなのだ。

あくびをしながら身支度を整え、私は馬車に乗って王女様達を迎えに出発した。二週間前までは、王女様達はエーレンフロイト家の別邸に住んでいた。だけど今は王宮内の小宮殿に住んでいらっしゃる。なので会うのは二週間ぶりだ。

王女様達は、革命が起こったブラウンツヴァイクラントからヒンガリーラントに亡命して来られていたのだが、つい先ごろ行方不明だったブラウンツヴァイクラントの王太子様がゴールドワルドラントという国にいる事がわかった。王太子様はゴールドワルドラントの王様と伯父と甥の関係らしい。

その王太子様からヒンガリーラントの王族に『妹達をくれぐれもよろしく』と連絡が来たそうだ。ゴールドワルドラントはヒンガリーラントよりも大きな国なので、ヒンガリーラントに『逆らう』という選択肢はない。それで急に王女様方は『国賓』扱いになり、王宮に召喚されたのだ。

今現在、王宮の小宮殿には四人のブラウンツヴァイクラントのお姫様達が住んでいる。『 琥珀(こはく) 姫』『 瑠璃(るり) 姫』『 珊瑚(さんご) 姫』『 瑪瑙(めのう) 姫』である。

『瑪瑙姫』ラウミドア殿下はつい三日前、王宮にやって来た。彼女もまた『森の賢者の会』という、ウルトラうさんくさい団体に拉致されていたらしい。

珊瑚姫をジークルーネ様と私が救出した後、監禁していたハーゲンベック子爵家に王様の命令で司法省の手が入り、『森の賢者の会』の内情が白日の元にさらされた。

女性の誘拐、監禁、虐待について捜査するのは、司法省機動第五課だ。第五課の人達は捕らえた会員達を徹底的に拷も・・じゃなくて尋問し、関係者を洗い出していった。その過程で、ブルーダーシュタットの金持ちが監禁していた瑪瑙姫が発見された。

彼女は屋根裏部屋に監禁されていたそうだが、閉じ込められていたわけではなく、「妾になれ」というセクハラがひど過ぎて身を守る為に閉じこもっていたようだ。

そして新聞で、琥珀姫や瑠璃姫が王都で王族に保護されている事を知り、側近達と一緒にブルーダーシュタットの司法省の支部に逃げ込んで来たのだという。

自国民がブラウンツヴァイクラントの王族を酷い目に遭わせていたという負い目があるので、尚更「妹達をよろしく頼む」という王太子の要請を拒否できないというのもあるようだ。まあ私的には、遠慮なく『森のバカ共の会』のメンバーには地獄に落ちて欲しいと思う。

小宮殿にお姫様達を迎えに行くと、カトライン様もフェルミナ様もティナーリア様も準備を終えて待っていた。

ドレスやアクセサリーはジークルーネ様が用意してあげたそうで、豪華だけど趣味が良い。

二週間ぶりに会う皆様は、顔の色つやも普通に良かったのでそれなりに良い暮らしができているようだ。良かった、良かった。

フェルミナ様が普段よりもテンションが高いのは、仲が良いお姉様の水晶姫様が見つかったからというのもあるらしい。

「お姉様はシンフィレアという国にいらっしゃったそうなの。」

とフェルミナ様は嬉しそうに言われた。私は

「良かったですね。」

とフェルミナ様に言いつつ、従姉のエマさんに

「森のバ・・なんちゃら会が関わっていたんですか?やっぱ?」

と小声で聞いた。

「ええ、そうみたいです。」

エマさんの表情は少し暗かった。森のバカ会が関わっている以上、あまりろくな状況ではないであろう事がわかっているからだろう。

自力で逃げる事が叶わず、司法に救い出された人達は自力で逃げられた人達よりも苦境に置かれていた事は容易に想像できる。

その反面、バカ会を完全に押さえ込み逆に脅して好き放題やっていた人もいたようだ。我が国に亡命して来ていたララ公女である。

バカ会会員だったガルトゥーンダウム伯爵は司法省に呼び出されて状況の説明を求められ、明らかに安堵して泣いていたとの話だ。

そんなバカ会だが、捕らえられるのは末端ばかりでなかなかトップにはたどり着けないらしい。国を跨いで活動していた秘密クラブなので全体像がまるでつかめないそうだ。というか、主宰は末端の会員を切って既に足取りを消しているらしい。

不幸なお姫様達が無事助け出される事は良い事だと思うが、何となくモヤっとする。

だけど、私にできる事は何もないし。とりあえず今日は、心からコンラートとジークルーネの事をお祝いしてあげようと思うのだった。

私達がシュテルンベルク邸に着いた時、既にかなりの数のお客様が到着していた。

まずは、コンラートとジークルーネに挨拶だ。今更「おめでとう」もないような気がするが、貴族社会は形式が大事なのである。というか日本の庶民にだって大事であろう。何より先にお菓子が並んでいるテーブルに駆け寄るような事は許されない。

しばらくの間、おほほ、うふふ、美しい朝ですね。と普段の私達の会話では絶対使わない丁寧語を連発する。

私一人で王女様二人を見守っているのは荷が重いので、ここでカトライン殿下の付き添いはジークルーネに交代だ。本日の主役のジークルーネの側にカトライン姫がいる事で、カトライン殿下が場の重要人物である事を周囲に示せる。という効果もある。コンラートはカサンドラ王太后に着くことになっているらしいが、支度に時間がかかっているのだろうか?まだカサンドラ陛下もルートヴィッヒ王子も会場には来ていない。

しかし、ステファニー妃とアンゲラ王女はもう来ていた。

アンゲラ王女は私を見ると嬉しそうに抱きついて来た。正直、数えるほどしか会った事がないのに、この愛想の良さに逆に驚く。生来、そういう性格なのであろう。ちょっと羨ましいな。

そういうお姫様なので、すぐに初対面のフェルミナ殿下とも打ち解けていた。そういえば、この二人は同じ年なのだ。母親同士の方が緊張しているようだった。同い年の娘を持つとはいえ、ステファニー妃とティナーリア妃は親子くらい年が離れている。なにせ、ルートヴィッヒ王子とティナーリア妃が一歳違いなのだ。

「私の事はアニーって呼んでね。フェルミナは皆に何て呼ばれているの?」

フェルミナ様がフリーズしてしまった。おそらく「フェルミナ様」としか呼ばれた事がないのだ。だけどすぐに

「ルミよ。」

とフェルミナ様は言った。こういう時の幼子の機転のききようは大人顔負けである。

「ルミ。これから人形劇が始まるのよ。一緒に観に行きましょ。」

そう言ってアンゲラ王女がフェルミナ様の手を引っ張って走り出す。エマさんや護衛騎士達が慌てて後を追って行った。

「わたくし達も行きましょう。」

ステファニー様がそう言って微笑まれ、私とティナーリア様はついて歩き出した。