作品タイトル不明
ヘレーネからの手紙
婚約式。
なるものがあるという事を最近知った。
今まで、見た事も聞いた事も、呼ばれた事も自分が開催した事もなかったので。
私はまだ社交界デビューをしていないので、見た事も聞いた事も呼ばれた事もないのはまあ仕方ないかもしれない。でも、開催していないのはおかしくないだろうか⁉︎私には一応婚約者がいるはずなのに。
そこで、私は衝撃の事実を知る。私とルートヴィッヒ王子の婚約云々は単なる口約束で、私と王子はまだ正式には婚約していないんだって。
そうだったのか!
私、レベッカ・フォン・エーレンフロイト、17歳。中身年齢40うん歳。それだけ生きてて、今初めてそれを知った。
「なんでーー!どゆことっ⁉︎」
私はお母様に詰め寄った。声が大き過ぎたのだろうか。お母様が手で耳を押さえて顔をしかめている。
「ルートヴィッヒ殿下から申し入れがあった時、二人共まだ幼いからと旦那様が返事を保留になさったのです。あなたが社交界デビューをする年齢になった時改めて考えましょう。という事にしていました。」
「という事は、断ってもかまわないって事なの?」
「あなた、断るつもりなの?」
「絶対、100%断れないってのと、断れないわけではない、ってのとでは心情が違う!」
「一ヶ月前ならばともかく、今はもう断れません。あなたの従兄のリヒャルトが国王陛下の妹君との結婚を拒絶したのよ。それなのにあなたまで王族との縁談を断ったら、一族の反逆を疑われます。」
なんてこったい!
どうして人生というものは、引き返せない段階になって、ちょっと前なら引き返せたという事に気づくものなのだろう?
頼むから、もう一回時間に巻き戻って欲しい!
私がこんな、今更知りたくもなかった事実に気づかされたのはまさに『婚約式』のせいだ。
私の従甥であるコンラートと、私の幼馴染のジークルーネが『婚約式』をあげるのである。
だから、私は母に聞いたのだ。『婚約式』ってなんぞや?と。
まあ、意味は読んでそのままの意味だ。婚約した二人が「婚約しました」と親類縁者にお披露目する式らしい。
普通は、婚約が成立した時にするものだが、ジークルーネ達の場合婚約が成立した時というのは、ジークルーネのへその緒がチョッキンと切られた時だった。なので、また後日。と言っていた間にいろんな事があったものだから結局18年間ずるずると開かれる事がなかった。
それで、ようやく婚約式を開催する事になったらしい。
まあ、めでたい話だと思うし二人には幸せになって欲しいと私は心から思っている。
思ってはいるが、少々めんどくさくも思っている。
親戚の家とはいえ別な家なのだから、式の当日にちょっと良い服を着て、おめでとうと言って、タダ飯食べて帰ればいいのでは?と思われそうだし、実際私も思っていた。舞踏会じゃないからダンスを踊る必要は無いし、友人代表として余興をお願いするとも言われていないし、本当に親しい人達しか呼ばないこじんまりとした式にすると聞いていたから、気楽でいいなと思っていたのだ。だが、婚約式が行われるという噂がたった途端、我が家の玄関が埋まるのでは?というくらい手紙が来たのだ。『婚約式に私も呼んで』って。
シュテルンベルク家に頼んでくれよ!
一ヶ月ほど前、我が国の王太子が廃嫡されるという大事件が起こった。
そしてその代わりに、第二王子のルートヴィッヒ殿下が新たな王太子に任命された。
なので世間の人々はルートヴィッヒ殿下と仲が良い(?)我がエーレンフロイト家とシュテルンベルク家を今王都でイケイケの家門のツートップだと思っている。
そんな両家に擦り寄りたいと思っている貴族達が『婚約式』に来たがっているのだ。
更に言うとシュテルンベルク家は歴史の長い家門で、博物館に飾られるクラスのお宝をたくさんため込んでいる。それが見たい!という人達もいっぱいいるらしい。
なるほど納得した。したから、シュテルンベルク家に頼んでくれ!
と思って、手紙を全部シュテルンベルク家に転送していたのだが、無視できない手紙が婚約式の二週間前に届いた。
訳あって隣国ヴァイスネーヴェルラントで暮らしている友人のヘレーネから
『王太后、カサンドラ陛下が参列を希望されているのですが可能でしょうか?』
という問い合わせが届いたのだ。
ヘレーネが誰で、何でヴァイスネーヴェルラントで暮らしているのか忘れたという読者の方には是非とも第八章の『ヘレーネの追想』と『ヘレーネの旅立ち』を読み返していただきたい。
今現在のヘレーネは、ヴァイスネーヴェルラントの王太后で西大陸で最も影響力を持っている女性権力者、カサンドラ王太后陛下の侍女をしている。
ヘレーネは大切な友人だ。ヘレーネの頼みなら私個人としては叶えてあげたい。
でもこれは、うちやシュテルンベルク家が良いとか悪いとか、返事していいケースじゃない。王室に問い合わせるべき案件だ。
「本当は、カサンドラ陛下は今年の夏に我が国を訪問する予定だったんだ。だけど、ジークレヒトの事件のせいで中止になったんだよ。」
とお父様が教えてくれた。
「公式訪問が中止になったから非公式で来たいと言うの?そんなにも、うちの国に何しに来たいの?」
「迷惑そうな顔をするな。陛下の訪問は名誉な事なのだから。」
シュテルンベルク領はヴァイスネーヴェルラントと国境を接している。なのでシュテルンベルク領の後継者問題にヴァイスネーヴェルラントは興味があるのだと思われる。
だが、それだけでなく、カサンドラ陛下が訪問したいのはルートヴィッヒ新王太子とパイプを繋ぎたいからではないか?とお父様は言った。だけどそれは、ルートヴィッヒ殿下にとっては名誉な事なのだそうだ。逆にカサンドラ陛下が
「ルートヴィッヒ王子は王太子に相応しくない。」
とか言い出したりしたら大変な事になるらしい。政治ってほんとめんどくさいわー。
「王室には私が問い合わせるから、レベッカはシュテルンベルク家に話をしに行ってくれ。」
とお父様に言われ、私はヘレーネの手紙を握りしめシュテルンベルク家に向かった。
既に、ブラウンツヴァイクラントの王女達が婚約式に出席する事が決まっている。他の国の王族が次々と「来たい」と言い出したりしないだろうな。とちょっと不安になった。