軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

雪白宮

私を呼び出したのは、エリーゼ様だ。エリーゼ様は今現在、お城の雪白宮でお暮らしなのである。

「大丈夫。王室から呼び出しでも来ない限り、絶対どこにも出ないから。」とお父様に言った数日前を私は思い出した。余計な事を言うのではなかった。私ってば、知らず知らずのうちにフラグを立ててしまっていたのね。

正確に言うとエリーゼ様は『王族』ではない。エリーゼ様の御母上は王様の妹だが、臣下の家に降嫁して貴族になった。我が国で王族と言えるのは王様と王様のお妃様達と五人のお子様達。そして王弟であられるアーレントミュラー公爵とその家族だけだ。

でも、私の中ではあの人は王族と変わんないのよ!王族と同じくらい逆らえない人なのよ‼︎

呼び出しを無視する事はできず、私は指定された日時に会いに行くことにした。一応お父様には、騎士に頼んで行く事を伝えておいた。ついでにドレスコードが『アカデミーの制服』だったので、制服も取って来てもらった。

今回の同伴者には、モニカ先生とアルテ先生にヘレンとミレイを選んだ。護衛騎士はアーベラとティアナだ。

ヘレンとミレイを選んだのは、二人がエリーゼの親戚だからだ。そもそも彼女達はエリーゼ派閥の人達で、現在出向中なのである。

「お城に行くなんて緊張しますー。」

「・・わ・わわ私無理です。」

ミレイとヘレンは二人共テンパっている。

「二人とも大丈夫ですよ。最初の頃に比べてとても成長しておられますよ。」

とモニカ先生が言った。私も言った。

「別に会う相手は、王様でもステファニー様でもないから。エリーゼ様だから。エリーゼ様なら、二人が少々ドジな事をしたって怒りゃしないから。」

「それは、そうですけど。」

「エリーゼ様だって、ヘレンの腕の腫れは治っただろうか?ミレイの髪はだいぶ伸びただろうか?って心配していると思うよ。顔を見せてあげな。」

というか、私だって不安だよ!手紙に用件書いてないし。この非常の時に、お茶飲んでおほほ。ってだけの可能性はゼロだと思う。

なんか、ろくでもない事にならないと良いが。

そもそも。王宮は一周目の私が殺された場所で、エリーゼ様は犯人候補の一人なのだ。それを考えると不正脈起こしそうなくらい不安だよ。

なんか行きたくないなー。と思いつつ私はその日を迎えた。

そして、王宮へ行く日。

なぜかじとーっとした目で涙ぐんでいるユリアとコルネに見送られ、私達は王宮へ出発した。

馬車が止まって私は深呼吸をした。今日はヨーゼフがいないので、私が真っ先に出ても問題無い。

馬車のドアの向こうに近衞騎士が百人いようとも、ルートヴィッヒ王子がいようとも、落ち着いて降りるぞ!

と思って、馬車から出たが騎士も王子もいなかった。いたのは、アカデミーの寄宿舎にも同伴しているエリーゼ様の侍女のクーニグンデだ。

「お久しぶりでございます。レベッカ様。」

と、懐かしそうな表情で言われた。

そして「どうぞ、ついて来てくださいませ。」と言われて雪白宮の中に案内された。

この前、芳花宮に招かれた時は庭のガゼボでお茶を飲んだので、芳花宮の中には入らなかった。だから、芳花宮と大きさや内装が違うのかは私にはわからない。

ただ、雪白宮というのは広くて豪華な造りだな、と思った。柱や壁紙、絨毯やカーテンなどもものすごく高級感がある。

部屋か?というほど広い廊下には一メートルごとに、豪華なお宝が飾られていてまるで博物館のようだ。

元王女だったナディヤ妃の住んでいた宮殿だから、特別豪華なのだろうか?それとも、四つあるという側妃用の宮殿は皆こんな感じなのだろうか?だとしたら王妃様が住んでいる宮殿ってどんな感じなのだろう?

すごい!を通り越してむしろ怖い。

文子だった頃に、ヴェルサイユ宮殿とかシェーンブルン宮殿とかをナマで見た事があったなら、もう少し落ち着いていられたのだろうけれど、テレビ画面越しにしか見た事なかったのでさすがに緊張した。

「すっごーい!」

と言ってミレイは、キョロキョロ周囲を見回している。緊張の為かヘレンは右手と右足が一緒に出ていた。

案内された応接室も、とても豪華だった。

フリードリア夫人もご一緒だったらドキドキするな。と思っていたが公爵夫人はいらっしゃらなかった。

「久しぶりね、ベッキー。ヘレンもミレイも元気だったかしら?」

さすがはエリーゼ様。「元気そうね」などと言われる事はない。

「美しい午後の日でございます。お呼びと伺い参上致しました。」

「座ってちょうだい。ヘレンとミレイも。そちらのご婦人方も。」

とエリーゼは席を薦めてくれた。

「別に王城内だからといって緊張しないで。私達しかいないのですもの。アカデミーの談話室と同じ感覚でいてくれていいから。雪白宮に呼んだのは、レオンをベッキーと会わせてあげたかったからなの。あの子、あなたが書いた『三つのお願い』や『お仕事図鑑』の大ファンなのよ。『王様の馬』も、とても面白がっていたわ。魔法みたいって。さすがに『この赤ちゃん、誰の赤ちゃん』の方は見せてないんだけど。」

「・・そうですか。」

「でも、あの子今朝になって熱を出してね。医者が言うには、上気道炎ですって。なので、部屋で休ませているの。あの子もとても残念に思っているとは思うわ。私やお母様には全然わがままを言わない、聞き分けの良い子だから本心が見えないのだけど。」

「そうですか。誰か、わがままをぶつけられる相手がいると良いのですが。」

「いるわよ。ルーイ。」

そう言って、エリーゼはくすっと笑った。

「陛下は勿論、私にもお母様にもクラウスにもわがまま一つ言わないお行儀の良い子だけど、ルーイの前では悪い子なの。『お母様はどこに行ったの?』とか『おまえがお母様をいじめたからお母様に会えなくなった』とか言ってね。ルーイがまた大人気ない人だから、本気で喧嘩とか始めたりして。自分にだけ態度がひどいから『もう自分はレオンに会わない方がいいかも』なんて言って落ち込んでるけど、私は違うと思うの。レオンにはルーイが必要なのだと思うの。」

「私もそう思います。」

「あなたを今日呼んだのは、ルーイの『仲間』のあなたと会う事がレオンにまた違う影響を与えるのでは、と思ったのよ。だけど、その計画は延期ね。レオンもかなり熱が高くて今日はゆっくり休ませるようと医者が言っていたから。」

「伝言をくだされば、後日来ましたのに。」

「そんな悠長な事を言っている場合ではないの。レオンに会わせたい。というのはついでよ。本題は別にあるの。」

「・・何ですか?」

「天然痘がついに王都の中に入って来たでしょう。」

沈痛な表情でエリーゼは言った。

「日を追うごとに患者の数が増えているわ。医者や医療省の職員も努力してくれているけれど、人手は全く足りていない状況よ。だから。」

「はい。」

「アカデミーに通う女子生徒の中から、医療ボランティアを募ろうと思っているの。なので、あなたも自分の派閥の中から希望者を募りなさい。」