作品タイトル不明
エリーゼの命令
「ボランティアですか?」
「ええ、そうよ。やりたくないと言う者や、有償でなければ嫌と言う者は無理に誘う必要はないわ。そんな人間に来られてもむしろ邪魔だから。」
「わかりました。私も両親に参加しても良いか聞いてみます。」
「あなたは強制よ。当たり前でしょう。あなたは、聖女の血を引く子孫で現職医療大臣の従妹で王族の婚約者なのよ。あなたが行かなかったら、誰が行くと言うのよ。」
やりたくないと言う者は参加しなくても良い。と、さっき聞こえてきたのは幻聴だったんですかね?
「ルーイもクラウスも、天然痘が確認されてから寝る暇もないくらい駆け回っているのよ。あなたも協力しなさい。高貴な立場の者には立場に伴う責任があるのです。」
「嫌だ。とは言ってませんよ。疫病が流行っている場所でどれほどボランティアの助けが必要とされているかは、父から聞いています。」
コンラートやジークレヒトをはじめとする、たくさんの人達の支えがなければエーレンフロイト領は、とても持ち堪えられなかっただろう。
私達の領地が受けた恩を今こそ返すべき時だ。
その覚悟はあった。あったが。
「だけどそれなら、ぼさーっとしていて働いていない王族にも働いて欲しいもんですけどね。」
「まあ!誰も敢えて言わない事をはっきり言うわねえ。あなた、そのセリフを王妃派貴族に聞かれたら後ろから刺されるわよ。」
「王妃様達の事じゃありませんよ!フィリックス殿下の事です。」
「フィル?」
「『あの事件』から一年も経っているのに、まだ自宅謹慎中なのでしょう。だけどこの国難の時にこそ働いてもらうべきなのではないですか?外国には、軽犯罪者は収監するのではなくてボランティアを何十時間。って罰を与える国もあるらしいですよ。安心安全な自宅に引きこもっていないで、キツくて危険な仕事をやって欲しいもんですけどね。」
私がそう言うと
「それは全くもってその通りね。」
とエリーゼは言った。
「陛下にお伝えしておきましょう。」
「で、ボランティアはいつから始めるのですか?」
「今日からです。」
「はやっ!」
「ろくな看護を受けられず、苦しんでいる患者がそこかしこにいるのですよ!伝染病治療は時間との勝負なのです。今は患者の食事を用意する人手すら足りない状況にあるのです。」
あー。と私は心の中でつぶやいた。それは大変だ。食事は文字通りの生命線だ。食事がマズいと医療従事者と患者のモチベが下がると、シュテルンベルク伯爵も嘆いていた。何を食べるかで回復のスピードさえ変わるという。
「その代わり、こちらも無理を言っているのですから、ボランティアをする場所くらいは選ばせてあげます。国立医大の附属病院の離れ以外に、今現在三箇所隔離区域が作られています。」
「んじゃ、フェーベ街がいいです。あの街には知り合いも何人かいるので。」
「わかりました。では一時間後に迎えの馬車を別邸に向かわせます。食料や最低限の生活必需品はこちらで用意しますから着替えだけ持っていらっしゃい。」
と言った後、エリーゼはヘレンとミレイに視線を移した。
「ヘレンとミレイはどうしますか?強制する気はありません。ただ、ツェツィーリアもマルレーネもフィリピアーナもクリームヒルトも参加します。」
圧がすげえっ!
全員、エリーゼ派閥の幹部やん。彼女達が参加するのに「参加しません」と言ったら、ヘレンとミレイの家族が村八分にされてしまう。
ミレイはエリーゼと血のつながりはないし、エリーゼと血のつながりがある継父とは不仲らしいから、村八分にされてもいいかもしれないけど、ヘレンはエリーゼと血がつながっているし、父親の事を嫌ってはいない。ついでに言うとヘレンは気が弱い。
ヘレンは断れないな・・。と思ったが
「参加します!」
と即答したのはミレイの方だった。
「・・私も参加します。私なんかが役に立てるかわかりませんけれど。」
とヘレンも言った。
「そう。では五十五分後までに用意を済ませなさい。」
時間が五分減った。
「別邸に戻ろう。」
と私は同行者達に言った。