軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

王都の攻防戦(18)(フランツ視点)

リエ殿から相談を受けたのは、シュテルンベルク邸にシカ肉を差し入れした翌日だった。

「シュテルンベルク騎士団も、シカ狩りにぜひ参加させて欲しいのですって。」

「はあ。」

「彼らもヒマなのよ。リヒトとコンラートはブルーダーシュタットから帰って来ないし、私とメグはずーっとエーレンフロイト邸にいるし、そもそももう嫁に行っているんだから私らはシュテルンベルクの人間じゃないでしょ。自宅警備と訓練しかする事ないのよ。最近はトカゲもカメもさっぱり迷い込んで来ないらしいし。」

「まあ、いいけど。」

こんな御時世だから、来客も来ないしどこにも遊びに行けないのは何処も同じだ。

ストレスが溜まっているだろう騎士達の気持ちはよくわかる。

リヒトは友人だし、エーレンフロイト領ではあの親子には本当にお世話になった。第二地区の別邸の庭(森)はとんでもなく広いし、シカの駆除に協力してもらえるならむしろ助かるというものだ。昨日もあれから三匹シカを仕留めたのだが、全部牝鹿で、レベッカ達が畑の側で見たという牡鹿が見つからないのである。

というわけで、シュテルンベルク騎士団が12人、駆除仲間に加わった。

シュテルンベルク騎士団はやる気で燃えていた。それを見つめるエーレンフロイト騎士団は微妙な顔をしていた。後から来た余所者に、牡鹿を捕まえられたくない。という気持ちがあるのだろう。しかも今日は孤児院の子供達が解体の手伝いに来てくれている。レベッカや孤児院の子供達に良いところを見せたい!というのは、両騎士団の共通の思いのようで、はっきり言ってライバル心でバチバチだった。

「事故と遭難には気をつけるように。」

と私は全員に言い、両騎士団は西と東に分かれた。

そして、残念な事にこの日はエーレンフロイト騎士団の方は一匹も獲物を捕まえられなかった。

まあ、狩りとはそういうものだ。今までが順調過ぎたのである。私達は手ぶらで館へ戻った。

時同じくして、シュテルンベルク騎士団も戻って来た。

シュテルンベルク騎士団もシカは捕まえてはいなかった。その代わり、四羽のカモを仕留めていた。

「わああ!」

と、レベッカは満面の笑みで喜んだ。

「すごーい。私、鴨肉大好きなの。」

そうだったのか。いや、まあ、そうだからアヒルを飼っているのだろう。

シュテルンベルク騎士団は、レベッカの喜びようにデレデレだ。それに比例して、エーレンフロイト騎士団の不快指数が爆上がりしていく。

「カモは、畑を荒らさないだろうが!」

不満の声をブツブツと呟いていた。

「じゃあ、カモの羽は専門家にむしってもらおうかな?」

とレベッカが言う。

「はい!」

とすぐさま、焼き鳥屋で働いているという少年が手を挙げた。

「大きな袋を持って来るから待っていてね。」

とレベッカは言った。すごいな。ちゃんとわかっている。鳥の羽は、袋の中でむしらないと、小さな羽毛がどうしようもなく飛び散って、呼吸器を傷めたりするのだ。そういう雑学をいったいどこで仕入れているのだろう?

「袋なら持っています。」

と、シュテルンベルク騎士団が用意周到なところを見せた。「わー、ありがとう!」とレベッカがますます喜んだ。

「牡鹿はどこに行ったのかなあ?」

と、不貞腐れたような声でエーレンフロイトの騎士が言った。

「牡鹿ならいましたよ。」

と、シュテルンベルク騎士団の支団長が言った。

「え!どこに⁉︎」

「何で見たのなら仕留めなかったんだよ!」

「取り逃したのか⁉︎」

エーレンフロイト騎士団の面々が抗議の声をあげる。

「既に、腐りかけていました。」

と支団長は言った。

「えっ?」

「もう死んでいたんです。」

「どうして⁉︎野犬か何かに襲われたのか?」

「死体には土がかけられていました。死因は喉笛を噛み切られたからではなく、頭部に痛烈な一撃をくらったからです。野犬や狼なら、急所である喉を狙います。死体に土がかけられていた事といい、あれはクマにやられたのです。」

「「クマ!」」

私とレベッカの声が揃った。

「はい。足跡も残っていました。足の幅は20センチ。ですから、体重は三百キロ以上あると思います。間違いなく雄でしょう。」

「み・・みみみ・みんな逃げるんだ。今度こそ畑を放棄する。一刻も早く、外へ。いや、あんな木製のちゃっちい門ではクマを防御しきれない。王都の外に逃げるんだ!みな、外に疎開を!」

レベッカが、がたがた震えながら子供達に向けて言う。

だが子供達は

「クマって見た事無い。」

「クマ見てみたいなあ。」

と呑気な事を言っていた。

「ななな、何を言っているのかね、君達は!クマというものはね。本来は木の実とか果物を食べて暮らしているんだよ。だけど、この近くにいるクマはお肉が好きな肉食グマなんだよ。そんなクマが今目の前に現れたら、私らなんて一瞬でお肉だからね!」

「まず、あなたが落ち着きなさい。レベッカ!」

アルベルがレベッカを叱りつけた。今日はアルベルとリエ殿とメグ殿も来ているのだ。

「とても、落ち着いてなんか!足幅が20センチもあるクマなんだよ。牛66頭を襲ったとも言われる、かの悪名高きOSO18(オソ18)さえも18センチなのに。もしもサンケベツなクマアラシでも起きたら!」

「だから落ち着きなさい。何を言っているのかわかりません!」

アルベルは「はー」っとため息をついた。

「王都の外に逃げる。って、どこに逃げるというのですか?あなた達はそれで良いとして、この館の管理人はどうするの?それに、あなたが言うようにこの屋敷の門は木製であまり頑丈ではありませんから、クマが体当たりすれば確かに壊れるかもしれません。そんな事になったら、近所に住んでいる方々はどうなるの?自分の事だけを考えないで。」

「なら、どうしたら⁉︎」

「それは、大人達が考えますから、とりあえず今日はあなたと子供達は帰りなさい。解体の続きは騎士達にさせます。カモは、ユーバシャール院に二つあげるわ。家に帰って羽をむしってくれる。」

アルベルは、羽をむしっていた少年に優しくそう言った。レベッカは「クマ・・クマ」とうわ言のように呟いていた。

正直意外だ。

レベッカの慌てようもだが、最近精神が不安定なアルベルの落ち着きっぷりも。

「クマ・・。」

リーシアが突然つぶやいた。

「の手。」