作品タイトル不明
王都の攻防戦(19)(フランツ視点)
「・・・えっ?」
とアルベルが言った。
「あ、違うんです!」
リーシアが慌てふためいて言った。
「・・『東行記』という本の作者が『東大陸でいろんな肉を食べたけど、クマの手が一番おいしかった』って書いていたのを思い出して。どんな味なのかな?と一瞬考えただけで・・。」
「私、食べた事あるよー。」
と、メグ殿が言った。
「確かに、すっごいおいしかった。」
「そうなんですか。」
リーシアが尊敬するような目でメグ殿を見る。そしたら
「私もありますよ。」
とアルベルが言い出した。
「えー!」
と、レベッカが驚きの声をあげる。
「何ですか、突然大声を出して?」
「いや、お母様はそーゆー変わった肉は食べない主義の人かと思ってました。」
「シュテルンベルク領では、ごく一般的な食材でした。クマの多い領地だったので。」
「私もクマ肉は食べた事あるけど、『手』は無いわよ。あなた達いつ食べたの?」
とリエ殿が聞いた。
「確か、ペトロネラの社交界デビューのタイミングで領地に帰った時だったよね。」
「そういえば、リエはいなかったわよね。エレンは一緒だったけど。」
「ずるいー!」
とリエ殿が言い出した。
「あなた達だけ希少な食材を!」
「希少ってそんな。」
「でも、まあ希少だよね。一頭から四個しかとれない部位だし。」
メグ殿が、自分の手のひらを眺めながら言った。
「クマ肉自体おいしいものね。特に脂の部分。クマの脂に比べたら、ブタやイノシシの脂なんてねえ。」
「「へー。」」
レベッカとリーシアの声が揃った。ニュアンスはかなり違ったが。
レベッカは、げんなり。リーシアは、うっとり、という表情をしている。
というか、今の一連の話を聞く限り・・・。
「シュテルンベルク騎士団は、クマ狩りをした事があるのか?」
と私は聞いた。
「毎年、十頭以上駆除してます。」
と支団長が答えた。
「・・そうなんだ。」
私は一回咳払いをした。
「実は私は一回もクマ狩りをした事が無いんだ。エーレンフロイト領にはクマは出ないから。だから。」
私はもう一回咳払いをした。
「うちの敷地にクマがいる以上、放置はできない。駆除するのに協力して欲しい。・・というより、駆除して欲しい。」
「もとよりそのつもりです。」
と支団長は言ってくれた。
「だから、カモの血を撒いて私達の痕跡を誤魔化したんです。クマに記憶されないように。」
「『肉まんじゅう』の側に?」
とレベッカが聞いた。『肉まんじゅう』。何だ、それは?
「あー、えっと、クマが食べかけの獲物に土をかけて隠すのを、そういうふうに呼ぶ地域もあると聞いた事があったような、なかったような。」
レベッカが目を泳がせながら言った。
「というか、皆さんが無事で良かったー!クマは埋めた獲物のすぐ側に離れずにいて、人間や動物がそれに近寄ったら飛びかかって襲って来る。って聞いた事があったから。」
「はい。気配は感じました。しかし、こちらの数は十人以上です。クマの方が引き下がったのです。」
「その肉まん・・じゃなくて、シカの死骸って、ここからどれくらい離れた場所にあったんですか?」
「直線的には五百メートルくらいです。」
「えーっ!」
私もびっくりした。そんな近くにクマが潜んでいたのか⁉︎
何度も森に入った私達がクマに出会わなかったのは、ものすごくラッキーな事だったのだ。
「しかし、最初の捜索でクマを見つけるってすごいですね。」
とユリアが言った。
「入ってすぐ痕跡を見つけたので、それを辿って行ったらシカ・・ニクマンジュウを発見したのです。」
「『痕跡』って何ですか?」
それは私も知りたい。
「クマが縄張りを主張する為、立木につける跡です。」
それがどんな物なのか、後からじっくり聞いてみよう。
「クマ狩りって、どうやって狩るのですか?シカの死骸の風下で待ち伏せとかするんですか?」
とレベッカが質問した。
「そうする時もありますが、今回は地形的にそれが困難です。木の根が入り組んだ、足場の悪い場所だったのです。なので、こちらに有利な場所までシカの死骸を移動させようと思います。」
「あー、クマは自分が狩った獲物にすごく執着するって言いますもんね。それこそ、襲われた『人』をきちんと弔ってあげようと思って集落に運んだら、集落が襲われた。って話があるくらい。ところで、有利な場所というのは?」
「一番有利な場所は屋敷の側です。人間が身を隠せて、二階から監視もできます。お嬢様の畑は絶対に荒らさせないように追い詰めます。」
「それは気にしないでください。てゆーか、クマがそんなにシカに執着するなら、シカの死骸にパッパッと毒を振り撒いておけば良いのではないですか?」
「服毒死した動物は食べられないわよ。」
とメグ殿が言う。
「別にいいんです!騎士のみんなの安全の方が大事です!」
「野生動物の嗅覚の鋭さは、人とは比べ物になりません。毒を仕込んだ肉を食べる事はまずありません。」
と支団長が言った。
「心配されなくても大丈夫です。お嬢様。我々はクマ狩りには慣れております。必ずお嬢様達に、クマ肉と手をお捧げ致します。」
そーだ、そーだ。と言わんばかりにシュテルンベルク騎士団員が胸を張った。
「わかりました。でも、絶対無理をされないでくださいね。」
不安そうにレベッカが言った。
「じゃあ、騎士以外は全員敷地から出るんだ。」
クマの手がどうの、とかいう話題でつい盛り上がってしまったが、今ここはとても危険な場所なのだ。早く非戦闘員を逃がさないとならない。
私は、子供達と女性を家へと帰し、騎士の皆と細かく作戦を打ち合わせていった。