作品タイトル不明
王都の攻防戦(17)(フランツ視点)
私は中に入れて欲しい。と頼み
「畑での作業を手伝ってくれている子供達には感謝しているのだ。」
とまず伝えた。
「昨日の事なんか何にも気にしてないわよ。今日は、みんなにプレゼントを持って来たの。」
と、レベッカは言った。
「プレゼントですか?」
「うん。じゃじゃじゃーん!シカのお肉とイノシシのお肉です。」
そう言って、お肉を出すと、遠巻きに見ていた子供達が「わー!」と言って寄って来た。
「すごい量⁉︎何キロあるんですか?」
「もしかして昨日のシカですか?」
「昨日のシカさんではないんだなー。」
とレベッカは答えた。
「君達を帰らせた後、エーレンフロイト騎士団の皆が森を捜索したの。オスのシカは見つからなかったらしいのだけど、メスのシカ達の群れが見つかってね。更に超大きいイノシシも見つけて襲って来たから捕まえたんだって。」
「すごーい!」
「ありがとうございます。レベッカ様!」
「レベッカ様大好き!」
「いやいや、私は何にもしてないよ。捕まえたのも、解体したのもみんなこちらのおじさんと騎士達だからね。お礼を言うならこのおじさんに言ってね。」
「ありがとうございます!おじさん。」
十数人の子供達が声を揃えて言った。ユーバシャール院長が真っ青になって叫んだ。
「おじさんじゃないっ!エーレンフロイト侯爵様だ!」
すみません、すみません。と院長がぺこぺこ謝る。でも、院長は悪くないし、子供達も悪くは無い。レベッカが『おじさん』と言ったから子供達は素直にそう言ったのだ。だいたい私は『おじさん』なのだ。『おばさん』ではない。
子供達の後ろの方で、エンヤ嬢が目をこぼれ落ちそうなくらい大きく見開いてこっちを見ていた。そういえば彼女とは、身分を隠していろいろ話をしたのだよな。私の正体を知って仰天しているのだろうなあ。
大量のお肉を見た子供らは、文字通り踊り上がって喜んでいた。
「ありがとうございます。レベッカ様!」
と言って、何人かの女の子が抱きついて来た。
「昨日はごめんなさい。わがままを言って。」
「ちゃんと、説明しなかった私の方が悪かったよ。でも、あの段階では、騎士団がシカ退治をしてくれるかどうかわからなかったの。騎士団の人達もいろいろと忙しいから。」
別に、たいして忙しくはない。どちらというと暇である。勿論、ガルトゥーンダウムが暗殺者を送って来ないかとか、警戒するべき事はいろいろあるが。
「シカをやっつけたのなら、また畑に戻れますか?」
と子供の一人が聞いた。
「いや、まだ無理かな。ツノのあるシカが捕まってないし、まだまだシカはいっぱいいるみたいだから。もう少し数を減らして、残ったシカに『畑の側に近づくのは危険』という事を覚えさせた後でないと。」
「どのくらいかかりますか?」
「んー。仕留めるのも大変だけど、その後解体してお肉にするのもけっこう時間かかるからなあ。まあ、もうしばらくはかかるかな。」
「僕、解体するの手伝います!」
と、一人の男の子が言った。
「僕、学校から帰った後、焼き鳥屋さんで働いているんです。だから、お肉を切ったり、内臓に触ったりするの慣れています。手伝わせてください。」
「僕も手伝う!」
「私も!」
子供達が口々に言い出した。
「・・どうします?お父様。」
とレベッカが私に尋ねた。
鳥肉と獣肉は違う。騎士達だけで、手も十分に足りている。
だけど、子供達の必死さを見ると胸が詰まった。
この子らは、リーシア達と同じだ。『お役に立ちたい』『見捨てられたくない』と思っている。世の中が混乱状態にある事もわかっている。先の見えない不安の中で『生きたい』『生き残りたい』と望む事を誰が批判できるだろう。
「じゃあ、五人ほど手伝ってもらおうかな。」
レベッカが畑を始めた時、最初に手伝いを頼んだのが五人と聞いている。
それに解体は刃物を使う危険な作業だ。細菌感染などの危険もある。騎士達に見守らせながらの作業で、安全を確保できるのは五人くらいが限界だろう。子供達は飛び跳ねて喜んだ。
「じゃあ、またシカがとれたら連絡するね。」
私達はそう言って、孤児院を後にした。
第二地区の別邸に戻ると、客が来ていた。
リーシア達が先に戻って来ていたので、お茶を出したりと客を接待していた。
客は、エリザベート・フォン・ブランケンシュタイン嬢だった。
「シカを捕まえたんですって?」
挨拶もそこそこに、エリザベート嬢はズバッと聞いてきた。
「何で知っているんですか?」
とレベッカが聞く。
「そりゃあ、あなたエーレンフロイト騎士団がずらりと大人数で、街を練り歩いていたら注目を集めるわよ。てっきり私、ガルトゥーンダウムの屋敷を襲いに行くのだろう。って思っていたわ。だけど目的地は、この別邸で、中の様子を伺わせていたら、中から『ピュイィー、ピュイィ』とシカの鳴き声が響き渡ったっていうじゃない。あー、シカ狩りをしているのね。ってすぐわかったわ。晴れ晴れとした表情で戻って行ったと報告を受けたから、それなりに成功したのでしょう。」
すごい情報網だ。私とガルトゥーンダウムが大揉めに揉めた事まで既に知っている。
「シカ肉ちょうだい。」
と、エリザベート嬢は笑顔で言った。
レベッカが眉をしかめた。
「王族の関係者は、王都内の王室御用牧場で飼われている牛や羊の肉が手に入りますよね。」
「好きなの。シカ肉。勿論、ただで寄越せなんて言わないわよ。」
そう言ってエリザベート嬢は同伴させていた侍女に視線を移した。侍女がソファーの側にあった大きなカゴをローテーブルに乗せた。
上にかかっていた布を取ると、その下からレタスやルッコラ、それに私の知らないたくさんの葉物野菜が現れた。
「どうしたんですか⁉︎これ?」
「ブランケンシュタイン家の庭にあるガラスの温室で育てたの。温室育ちだから、路地栽培ほど虫の影響を受けないのよ。物物交換でどうかしら?」
「喜んで!お父様良いよね。」
「ああ、かまわないよ。」
というか、エリザベート嬢が相手じゃ「タダで寄越せ」と言われてもそもそも逆らえないし。
「では私は。」
と言って私は席を外した。
「いいなあ、温室。」
「表の野菜畑もすごいじゃないの。」
「何か欲しい物があったら、持って帰っていいですよ。」
「じゃあ、エスカルゴ。」
「エスカルゴはダメです!」
話が盛り上がっているようだ。
医療ボランティアの家族の家に行っていた騎士達や、実家に帰っていた子供達も一人、また一人と戻って来た。
今日も空は晴れ渡っている。狩り日和だ。
森に入ってシカを追う為の準備を私は騎士達と始めた。