作品タイトル不明
新しい家族達(2)(アルベルティーナ視点)
「・・・・は?」
私は10秒以上声が出ませんでした。
「え⁉︎」
という顔をして、同じ食卓についていた、ヨーゼフ、リエ、メグ、メグの息子で6歳のルナーリオが私を見ます。
「何を言っているの?おまえは何を根拠に・・。」
「とある国で、お医者様が複数の妊婦さん達を相手に実験したんだって。悪阻で苦しくてたまらない時何なら食べられるか?って。いろんな料理を目の前に出して実際に食べてもらったの。お医者様としては、酸っぱい果物とか野菜のピクルスとかが人気だろうと思って、でも正確なデータをとる為『これはないわー』という物もいろいろ用意したそうなの。その一つが油と塩でギトギトの揚げ芋だったんだけど、何と揚げ芋は、これだけは何とか食べられるという食べ物のTOP3に入ったんだって。何で、揚げ芋なら食べられるのか?理由は不明らしいのだけど。」
「・・・。」
確かにそうです。今私の目の前には、焼きたてのパン、スモークした鴨肉、グラッセしたニンジン、腸詰の入ったスープが並んでいます。でも、どれも吐き気がして喉を通らないのです。なのに鴨肉に添えられた揚げ芋だけは何故かおいしいと感じて喉を通るのです。
だけど・・・。
「そんな事あるわけないでしょう⁉︎私を何歳だと思っているの?」
私は急に顔がのぼせて熱くなり、扇子を広げて顔をパタパタとあおぎました。
「いや、知らないけど。お母様って何歳なの?」
「・・・。」
「お母様って、もうそんな年なの?そんな事あるわけないって、もしかしてもう生理止まってるの?」
「レベッカ様!」
私の護衛騎士のビルギットが、レベッカをかばうように手を伸ばしました。
私は、はっ!としました。
私はつい、怒りの余り手にしていた扇子をレベッカに投げつけようとしていたのです。
レベッカをかばうビルギットの姿に、遠い日の記憶が甦りました。
私も昔、食事の席で義姉に無礼な口をきき、フォークを投げつけられそうになったのです。その時も同じように、ビルギットが私をかばってくれました。(エーレンフロイト侯爵夫婦の昔話11、での話です。)
ショックでした。
私は、絶対に義姉のような母親にだけはならない。と、心に決めて生きてきました。
子供の事を無視しない。絶対に暴力は振るわない。そう決意していたはずなのに!
なのに今、私は娘の話を無視し、あまつさえ暴力を振るおうとしました。自分がこんな事をしてしまうなんて!自分のしようとしていた事が、信じられません。
私は
「わあっ!」
と泣き伏してしまいました。
「奥様!アーベラ。お嬢様を部屋に連れて行って!」
とゾフィーがアーベラに叫びます。
「ヨーゼフ様も部屋にお戻りください。」
とビルギットが言いました。
「ルオもお部屋に戻りなさい。」
とメグが息子に言う声も聞こえてきます。私のせいで、ダイニングはめちゃくちゃです。でも、わかっているのに涙が止まりません。
「う、ううっ・・。」
「奥様。」
と言って、ゾフィーが私の背を優しく撫でてくれました。
「申し訳ございません、奥様。お嬢様よりも先にわたくしが奥様の異変に気がつくべきでした。奥様の月のものが遅れている事も気づいていましたし、奥様が急に泣き出したり怒ったり、お心が不安定になっているのもわかっていましたのに。奥様。医者の診察を受けましょう。」
「わ・・私、違うと思うの。だって。うっ、ぐすっ。」
「そうでないならそうでないで良いではありませんか。その時は二人で、お嬢様の事を叱りとばしてやりましょう。」
「私も、一緒に叱りとばしてやるわよ。」
「そう、そう。」
とリエとメグが言います。
「でも、確かに今のあなたはメグを妊娠していた時のお母様に似てるかも。いつもイライラしてるみたいだし、感情的になったり。」
「あの人が感情的でなかった時なんて一秒でもあった?」
メグがリエの発言に抗議しました。
私は涙を拭いました。さっきはあんなにも頭に血が上ったのに、今はひどく冷静になって、どうしてあの瞬間あんなにも腹が立ったのかがわかりません。
もしかして、本当に?
私は、お腹をそっと手でおさえました。
ゾフィーがすぐに離れに住んでいる、エーレンフロイト家の主治医のエデラーを呼びに行きました。トーマス・エデラーは、ひょうたん半島の病院で開業しているエデラーの息子です。彼には息子が二人いて、二人共医者になり、長男のトーマスは王都の屋敷で主治医をしていて次男は他の国を見てみたいと言って、ブルーダーシュタットの商会が所有する船の船医になりました。
トーマス・エデラー夫婦には子供はおらず、両親を亡くした親戚の娘のフローラを養女として引き取っています。
そのフローラも、国立大学の医学部に通っている医者のタマゴです。
「うーん・・・。」
と、エデラーは首をひねりました。
「話を聞く限り御懐妊だと思いますが、私は産科は専門ではないのでよくわかりません。まだ聴診器で心音が聞ける月齢でもありませんし。申し訳ございません。」
エデラーは正直にそう言いました。
「国立大学の大学病院で検査されたら確実な事がわかると思いますが。」
「・・病院には行きたくないわ。」
「そうですよね。今は天然痘が怖いですし。」
エデラーが、うんうんとうなずきます。そうではなくて、勘違いだったら恥ずかしいからです。
しかし。
「奥様。病院へ行きましょう!」
「私もついて行ってあげるから。」
ゾフィーとリエが圧をかけてきます。
「と言うか、医者を呼びつければ・・。」
「でも、検査機器がないと。」
「別に行かないから。」
と私が言うと
「駄目です!」
とゾフィーとリエの声がそろいました。
「ほっといて何かあったらどうするの⁉︎」
「そうですよね。本当に妊娠しておられたら、今が一番安定していない時期なんですよ!」
「そんな・・もう若くもないし。初産でもないし。」
「もうお若くないからこそ気をつけないといけないのです!」
ゾフィーとリエがぐいぐい来ます。
というか。思うにたぶん二人共暇なのです。
メグはまだルオの世話という、やる事がありますが、天然痘が流行って以来客も来ないしどこにも出かけられないし、生活にメリやハリがなく、新聞を読めば暗いニュースばかり。そんな中、ささやかな事ながら生活に変化がありそうな事が起こって二人共盛り上がっているのだと思います。
本当に赤ちゃんが産まれたら、きっとすごく可愛いだろうし、でも痛い思いをするのも命をかけるのも自分ではないのですから。
「行った方がいいって。」
「結果がわからないままだと、お嬢様がいろいろとうるさいですよ。」
それは確かに、想像するだけで鬱陶しくなります。
というか、既にゾフィーとリエが鬱陶しいです。
「わたくしもお共しますわ!」
フローラがキラッキラした目でそう言いました。
ここにも、大学が休校になって暇な者がいるようです。
「わかりました。行きますよ!」
私はやけになって叫びました。
「では、今すぐに!」
「待って、心の準備が!」
「何の準備がいるというのですか⁉︎お金だけ持って行けば良いのです。」
と言ってゾフィーが手を引っ張りました。
そして。
「おめでとうございます!御懐妊です。」
私は満面の笑みの産科医にそう伝えられました。