作品タイトル不明
春の輝き(2)
「ディルスさん達も偉い、偉いよ!感動した!」
と私は言った。
「ところで、今ニンジン持っているんだけど、ロバさん食べるかな?というか、みんなも食べる?生だけど。」
今背中に背負っているカゴに、森で拾った薪とニンジンが入っているのだ。
とゆーかね。麻の農作業着を着て、カゴを背負ってる日焼けで真っ黒な女の子を見て、侯爵令嬢と思わなかったエリフさんは何も悪くないって。自分で言うのも何だが、私、オーラが無いもん。
「お嬢様、口調が砕けすぎです。それと泥まみれのニンジンを人間に勧めないでください。」
とアーベラに叱られた。
せっかくなので、私は地方の村々についての話を聞いた。恐ろしい伝染病が流行っているという噂は光の速さで流れている。
まともな村や街は、入り口を封鎖していて旅人を一切入れないらしい。入れてくれる村は、足を踏み入れるのを躊躇うような、うさんくさい村ばかりだそうだ。
もうこれ以上、旅から旅の生活は無理かな?と思って、エンヤ達兄妹は王都へやって来たらしい。王都に来るのは初めてなのだそうだ。王都で仕事を見つけたいな、と希望しているという。
エンヤの話を聞いて。私は、旧アイヒベッカー領の村を思い出していた。村で行われる『雨乞いの儀式』で生贄にされていたのは、コミュニティーの嫌われ者や村にやって来た旅人だった。
「荷車に積んでいるのは、麻布って言ったっけ?」
「はい。懇意にしている村の女性達が内職で織った物なんです。亜麻を畑で育てていて。」
「売りに行く先はもう決まっているの?」
「いいえ。これから買ってくれる商会を探します。」
「私が買うよ。全部買ったらいくら?」
私がそう言うと「ええっ!」とエンヤとエリフは大声をあげた。
「エーレンフロイト様の家では商会を経営しておられるのですか?」
「ううん。」
「・・あの、決して品質が悪いわけではありませんが・・その、貴族のご令嬢が身につけられるレベルではないのです・・が。」
「麻は、通気性に優れているからパジャマやシーツにするのにピッタリだよね。パジャマをたくさん作って医療省に寄付しようかなと思って。もしも天然痘が王都で発生してたくさんの病人が出たら、たくさんのパジャマやシーツが必要になるから。勿論、出ないといいなと思っているけれど、でも備えはしておかないと。」
というか、必ず王都で流行するという事を私は知っている。だから備えは必要なのだ。
「それに、チュニックみたいなのも作っておきたいの。天然痘に感染した人の衣類や持ち物は全部燃やさないといけないんだって。天然痘になって入院して回復した人に、退院おめでとう、じゃあ家まで全裸で帰ってね。とは言えないから。」
こんな風に考えるのはエーレンフロイト領での騒ぎを聞いたからだ。
ハインリヒ・フォン・ガルトゥーンダウムという男の話だ。その男は王都から使者としてエーレンフロイト領に赴いた。
その男は、夜ベッドで全裸で寝て、全身をダニに噛まれたそうだ。別に、全裸で寝るのは悪い事じゃない。そういう人はたまにいると聞く。良くなかったのは、その部屋が二年間誰も使わずろくに掃除もされていなかった部屋だった事だ。
その男は、天然痘を発症してしまったのかもしれないと思い医者を呼んだ。その時ふと考えた。天然痘を発症した者が身につけていた服は燃やされる。自分の持っている服は全て高級な一流品だ。その服を燃やされたくないと思った。男は良く言えば物を大切にする人で、悪く言えばしみったれだった。
結果。男は全裸のまま医者を迎えた。彼を診察する為に部屋に入った18歳の女子医学生とジーク様には心から同情する。
そのような悲劇を繰り返さない為にも、パジャマと着替えは必要なのだ。
「だったら、あたしパジャマ縫います。」
と私と手を繋いでいた女の子が言った。
「僕も。」
「私も」
と、口々に子供達が言ってくれる。
「前に作った時の型紙がまだありますから。」
「たとえ伝染病が流行らなくったって、あれば助かりますよね。腐る物じゃないし。」
「ありがとう、みんな。」
と私は言って、子供達の頭を撫でた。
そんな様子を村から来た子供達はじーっと見ていた。
「・・・あの。」
ローティーンの女の子が、ユーバシャール院長にぽつりと言った。
「さっき、みんなが歌っていた歌。すごく綺麗だった・・・。」
言いたい事がもっとありそうな表情をしていたが、上手く言葉にできないようだった。
人見知りする性格なのに、無理して話しかけたのか、それとも自分の気持ちが上手に言葉で言い表せないのか。
初めて会った頃のコルネがこんなだったな。と思った。自分の気持ちを伝えるだけの語彙力が無いのだ。実際、少女は続けてこう言った。
「よく意味のわかんない言葉もあったけど、でもとても綺麗な曲だった。」
そんなに難しい単語は無い歌だ。幼い子供でも歌いやすいよう、女男爵はわかりやすい言葉で詩を書いてくれた。それでも難しいと感じるのは、この少女があまり教育を受ける事ができなかったからではないだろうか?人口の少ない村には学校が無かったのかもしれない。それに貧富に関係なく、ニコールの親のように『女に教育は必要ない』という考えの人は一定数いる。
「本当に⁉︎嬉しいな。あの曲はね、孤児院にいる子が作った曲なんだ。」
院長はそう言って、ユリアと並んで歩いていたアメリーを呼んだ。アメリーが飛び跳ねるような歩調で少女の側に寄って行った。
「みんな、もう一回歌おうか?」
と私が言うと、孤児院の子供達は声を揃えて
「はーい。」
と言った。
夕陽に染まる西の空に、カラスが何羽か飛んで行っている。その夕陽の下で、私達はまた声を揃えて『春の輝き』を歌い始めた。