軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

春の輝き(1)

収穫したニンジンは一旦ユーバシャール孤児院へ持って行く事にした。

私やユリアやコルネが乗って来た馬車にニンジンを積み込むと、人間が乗れなくなったので、子供達と一緒に孤児院まで歩いて帰る事にした。孤児院までは、徒歩15分だ。農作業で疲れていてもそれくらいなら問題なく歩ける。

私は子供達と手を繋ぎ、歌を歌いながら歩いた。

歌っている歌は、孤児院の子供の一人アメリーが作曲したものだ。

私は以前孤児院にハンドベルをプレゼントした。子供達は私が教えた曲や自分達が知っている曲を最初は奏でていたが、そのうち子供の一人であるアメリーの音楽のセンスが開花した。アメリーには、絶対音感があり、豊かな感受性があった。自分の頭の中に浮かぶ音楽をアメリーは楽譜に書きおこし、皆でハンドベルで演奏した。祭りの時に広場で演奏されてそれらの曲はたくさんの人の心をうった。

そして、ヴァイスネーヴェルラントのカサンドラ王太后が孤児院を慰問した時。同行していた、ヴァイスネーヴェルラントの小説家ドレッセル女男爵とユング女男爵がその曲の為に詩を書いた。

今私達が歌っているのは、ユング女男爵が詩を書いた『春の輝き』という歌だ。季節はもう初夏だが、私がこの歌が一番好きだからだ。

どんなに冬が長く思えても、時は移り春は必ず来る。雪のように重く積もった悲しみも苦しみも溶けて、キラキラと輝く木漏れ日に混ざっていく。みたいな内容の詩だ。春の歌であると同時に希望の歌だ。世の中の閉塞感に押しつぶされそうに思える時にこの歌を歌うと元気が出る。

才能あるアメリーの事を支援したいと言っている貴族はたくさんいる。主に私のハンドベル仲間の保護者達だ。アメリーは私と同じ年だ。天然痘さえ発生しなければ、『音楽の王国』と呼ばれるシュテファリーアラントに、誰かの支援で留学していただろう。

天然痘が終息したら、留学できるものなら留学したい。とアメリーも言っている。外国に留学する時の注意事項について、よくニコールやリーバイに質問している姿を畑で見た。

孤児院の周辺の人達は孤児院の子供達の事をよく知っているので、ぞろぞろと歩いていても、大声で歌を歌っていても誰も気にしない。

だが、通りすがりの旅商人一向みたいな人がいて、その人達は私達をガン見していた。

私の方も「変な集団だなあ」

と心の中で思った。

アラフィフの女性が一人。20代くらいの男性が一人、ハイティーンの女の人が一人、ローティーンの女の子が二人。そして幼児が五人。ロバ一匹。

男の人とハイティーンの女の人とローティーンの女の子が着ている服は、安っぽい生地だけどまあ、それなりの服だ。でも、ローティーンの女の子が着ている服は明らかにサイズがあっていない。

そして、残りの人達の着ている服は令和の日本の小学校で、使い込まれた雑巾よりまだ酷かった。

キング◯ムという映画を観た事のある方は、映画の冒頭で主人公とその幼馴染が着ていた服を思い出して欲しい。そのレベルのボロさなのだ。

映画に出ていた子役さん達は、服はぼろぼろでも髪の毛はツヤッツヤだった。しかし、この集団は髪も肌もヨレヨレだ。

最初、若夫婦と姑と自分の子供と親戚の子供、という集団なのかと思ったが、服のテイストからして二つの集団が偶然一緒にいるという感じのようだ。

どちらにしても、幼い子供達を含む子供らがヨロヨロと歩いている姿に胸が痛くなった。

話しかけようかどうしようか?と悩んでいたら、向こうから声をかけてきた。声をかけてきたのは男性だ。

「ちょっと、いいかな。この辺りにユーバシャール孤児院という孤児院があると聞いたんだけど、どこにあるか知ってる?」

「誰に聞いたの?あなた誰?借金取り?」

と私は聞いた。旧日本人としては、人様の個人情報を簡単に教えるつもりはない。

「違うよ。僕はエリフ・ディルス。旅商人をしていて、麻布を王都に運んで来たんだ。この子は妹のエンヤ。後はレンバー村という村から来た人達なんだ。孤児院について教えてくれたのは、クリューガーさんという女の人だよ。」

「バリーさん?」

「そうそう。カリンが彼女の事バリーって呼んでた。」

デイム・クリューガーとカリンの知り合いか?だったら変な人達じゃなさそうだ。

「孤児院なら知ってるよ。というか、この子らはユーバシャール孤児院の子供達なの。今、農作業していた畑から帰る途中。」

「ああ、やっぱりそうか。子供がたくさんぞろぞろと歩いていたから、もしかして孤児院の子供達じゃないかと思って、それで声をかけたんだ。良かったら連れて行ってくれないかい?・・えーと、君の名前は?」

「レベッカよ。」

「そう。レベッカ、お願いしてもいいかな?」

「ウォッホン!」

とものすごく大きな咳払いが二人分聞こえてきた。どうやら、ユーディットとアーベラが咳をしたようだ。

「こちらは、第二王子殿下の婚約者であられるエーレンフロイト侯爵令嬢レベッカ様です。名前呼びはおやめください。」

と言ってアーベラが凄んだ。

「え⁉︎ええっ!ひぇっ、え・・と申し訳ありませんでした!」

エリフが蒼ざめて後ずさる。私は慌てて言った。

「そんな、気にしないで。」

「気にしてください、お嬢様。」

とアーベラが怒鳴る。

「カリンさんの事を愛称呼びって事は、あなたもそれなりの立場なんでしょう?」

「・・カリンは、平民ですよね?侯爵家で住み込みで働いているそうですが?」

「カリンさんは侯爵令嬢ですよ。」

「・・・え・えええええっ!」

エリフの大声に通りすがりの人達が振り返った。

「・・お嬢様。今のカーテローゼ嬢の御身分は平民ですよ。先代のアイヒベッカー侯爵はアレな人でああいう事になりましたから。」

とアーベラに言われた。そういえばそうだった。でも、どっちかと言うと『アレな人』だったのは侯爵夫人と息子と娘じゃなかった?

「ははははは。まあ、どうでもいいや。それより、どうしてユーバシャール孤児院に?」

と聞いても、エリフは呆然としていて口を開けて呆けている。

ユーバシャール院長が前に出てきて名前を名乗った。

ようやく話し出したのは、妹のエンヤだった。ナントカ村の子供達は、皆怯えたように俯いている。

私達は帰る道すがら、エンヤから話を聞いた。

私は話の途中の辺りでブチ切れそうになった。

無論、捨てられた子供達にではない。貧しい親達にでもない。腐れ外道な旅商人にだ。

そいつが今目の前にいたら、頭蓋骨砕けるくらいの勢いで踵落としを喰らわせてやるのに!

「みんなを助けてあげてください!」

と言ってエンヤは頭を下げた。

「勿論です。長い旅をして来て大変だったね。よく頑張ったね。」

院長は、後半のセリフを子供達とアラフィフのご婦人に向けて言った。