軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

エーレンフロイト領の戦い(27)(フランツ視点)

王都からやって来る使者にろくなのがいなくて、げんなりしていたが、ある日嬉しい便りが届いた。

新聞記者のデリクと弟子のハーラルトが王都から手紙を届けに来てくれたのだ。

アルベルティーナとレベッカとヨーゼフからの手紙を受け取っただけで、私は号泣しそうになった。

カイにもゾフィーやゾフィーの母親からの手紙が届いている。私宛に執事からの手紙もあったが、それよりもまず私は家族からの手紙を開いて読んだ。

内容はあっさりした物だった。

こちらは皆元気にしている。アカデミーは休校になったので子供達は皆家にいる。皆で毎日お父様のご無事を祈っている。私達の事は全く心配しないで、頑張ってください。

三人共同じような文面なのは、アルベルティーナが子供達の手紙を検閲したのかもしれない。

甘えたり心配させるような事は全く書いていない。本当は、早く会いたい。とか書いてくれていたら嬉しかったのだけど。でも、みんな心の中ではそう思ってくれているはずだ。そう信じたい。

手紙には詳しい近況や、王都の様子は全く書いてなかったので、私はデリクに質問してみた。

デリクはアルベルティーナやゾフィーには全然会っていないらしいが、レベッカやヨーゼフとはしょっちゅう会っているという。それというのもレベッカが

「伝染病が流行ると流通が止まり生鮮食料品が手に入らなくなる。」

と言って、私がいなくなった後すぐ王城特区の館で大量のアヒルとウズラを飼い始め、更に第二地区の別邸の庭に、国立大学の農学科生や孤児院の子供達の協力の元、野菜畑を作ったのだという。その畑にデリクもハルもマルテもレントも度々手伝いに行っているという。なので、レベッカやヨーゼフとしょっちゅう顔を合わせるのだそうだ。

「レベッカお嬢様は本当は、レタスとかキャベツとかコマツナみたいな葉物野菜が植えたかったみたいです。日持ちしない葉物野菜が真っ先に手に入らなくなってしまいますから。しかし、農学科生に『素人に葉物野菜は絶対無理!』と言われ、根菜かせめて果実野菜を植えるよう言われて、泣く泣くレタスを諦められました。」

そんな、どうでも良い情報でさえ嬉しくて泣けてくる。

「そんなに葉物野菜は育てるのが難しいのかい?」

「野菜には虫がつきますから。畑で野菜を育てたら、おそらく今までの人生で見た以上の数の虫を見る事になる。と学生が言って、それが貴族のご令嬢には厳しいのでは、との事でした。虫を駆除するのに大学ではタバコの葉などから作る農薬を定期的に散布しているそうですが、猛毒で取り扱いが非常に難しいのでお嬢様には勧められません。ちまちま殺すのでは殺しきれるものではありませんので、比較的虫の影響を受けにくい根菜を勧められたみたいです。」

レベッカの性格なら、虫くらいに怯みはしないだろうが、畑が広かったら管理が難しいのは確かだろう。

でも、エーレンフロイト領でもロックダウンを行ったら一番に不足したのが新鮮な野菜と卵と牛乳、そして生肉だ。レベッカの賢さには本当に感心する。

実際、王都でもそれらの物は不足し、手に入らなくなっているという。手に入るのは干し肉や干し魚干し野菜ばかりだそうだ。

「物価は上昇の一途です。麦の値段も四割上がりました。」

エーレンフロイト領は、それよりもはるかに値段が上がった。その程度なら、と思ったが、ギリギリの生活をしている貧しい人々には打撃だろう。

「王都は、かなりの数の穀物を備蓄しているはずなのにな。」

「一部の金持ちが、麦や芋を買い占めてそのせいで値がつり上がったのです。国が備蓄穀物を急いで市場に流しましたが、それさえも買い占められました。食料の買い占めを禁止する法が施行されましたが、密売人の暗躍で法が役に立ちませんでした。」

「・・・。」

「国王陛下が大規模集会を禁止されたので、学校は全て休校になりましたし、貴族家が主催するサロンも閉鎖されました。カフェやレストランも閑古鳥です。学校が休みになると教師は職を失いますし、サロンが開かれねばドレスやアクセサリー、菓子も売れなくなります。遍歴商人や観光客が来なくなったので、宿泊施設にも人が入りません。王都では次々と店が閉店し、失業者が街に溢れています。」

王都ではまだ天然痘が流行っていないのに、そんな状況とは。

もしも天然痘が流行ったら、どういう事になるのだろうか?

「種痘はどのくらい普及している?」

「全く、と言ってよい状況です。医療大臣の身内である自分達がまず受けなくては、と言ってシュテルンベルク伯爵のご姉妹方やレベッカお嬢様はお受けになりましたが、他の貴族家の間では全くです。アルト同盟系の商人達は受けていますが、平民の間でも接種はほとんど進んでいません。私とハルは勿論受けていますけど。」

「病気よりも先に、お金が無くなって平民は死んじゃいそうな感じです。マルテさんの知り合いの帽子屋さんは、商品が売れなくなって銀行に貸しはがしをされて、お店が潰れて一家心中してしまいました。マルテさん泣いていました。銀行はいろんな所で貸しはがしをやっていて、そのせいでいっぱいお店が潰れてみんな銀行やディッセンドルフ公爵を恨んでます。」

とハルが言った。

「まあ、銀行が取り立てなくても店が潰れていくので潰れる前に銀行は回収しているのでしょうけれど。でも、そのせいでまだ潰れなかったはずの店まで潰れています。平民向けの商業区なんてもうひと気も全然無くて寂しい物ですよ。普通の商家のお嬢さんや下級貴族の娘達が花街に売られていく有り様です。」

短期間でそこまで王都の状況が悪化するとは、と悪寒が走った。

「ルーカス君の店は大丈夫なのか?手紙には、どう書いてあった?」

と私はカイに聞いてみた。カイの義弟のルーカスは仕立て屋の店主をしている。

「エーレンフロイト家からの仕事が命綱だそうです。レベッカ様もヨーゼフ様も成長期で新しい夏服を何点か作ったのと、後ゾフィーやレベッカ様が支援してくださっているそうです。卵や野菜をしばしば届けに来てくれるのでありがたいと、義母の手紙に書いてあります」

「そうか。なら良かった。」

私はデリクが届けてくれた他の手紙をひょうたん半島に届けに行く事にした。リヒトやコンラートには、リーリエ殿やマルガレーテ殿から、ジークレヒトにもエリザベート令嬢からの手紙が届いていた。レベッカとヨーゼフがコンラートやジークレヒトにも手紙を書いている。そして、コール医師にはリーゼレータ嬢からの手紙が届いていた。

ひょうたん半島で取材をしたい。とデリクが言ったのでデリクとハルを連れて行った。

途中の道々、私はデリクに他にもいろいろと質問してみた。

「エーレンフロイト領で起きている事が、レベッカ達の耳にも入っていたりするのかな?」

「はい。ハインリヒ・フォン・ガルトゥーンダウム卿の事は王都でも大きな噂になっていて、レベッカお嬢様も大変ショックを受けておられました。」

「そうか。」

「天然痘の疑いがある人間がいるというので診察に行ったら、ホテルのスイートルームのベッドの上に全裸男がいるとか、マジでありえないわ。診察してあげたトゥアキスラントの医学生の女の子は女神だよ。私だったら、手に持った救急箱投げつけて走って逃げてるね。とおっしゃっておられました。」

「・・・。」

言われてみればその通りだ。あの頃は、もう頭の中がいっぱいいっぱいで考えが働かなかったけど、私は一回ハインリヒを殴っても良かったかもしれない。

「食料の供出についても、領地民が飢える事はないだろうか?と気にかけておられました。」

「ヒンガリーラントの高額納税領地のTOP 10って、どこなのかわかるかい?」

デリクは、ちゃんと知っていた。

一位 ヒルデブラント侯爵家

二位 ディッセンドルフ公爵家

三位 ブランケンシュタイン公爵家

四位 エーレンフロイト侯爵家

五位 オーベルシュタット公爵家

六位 ローテンベルガー公爵家

七位 ハーゼンクレファー公爵家

八位 ファールバッハ伯爵家

九位 シュテルンベルク伯爵家

十位 ツァーベル子爵家

なのだそうだ。すごいな。ヒルデブラント家。

うちを含め、騎士団を所有している五つの家門は全部入っている。大陸公路を有しているので莫大な通行税が入るのが大きいのだろう。

三位のブランケンシュタイン家は宰相家で領地も広いし、炭坑を持っている。ローテンベルガー領は海の側で大きな港があって塩もとれる。ブドウの栽培が盛んでワインの名産地でもある。ファールバッハ領は、大穀倉地帯で、エールの名産地だ。意外だったのは、十位のツァーベル家だった。

「ツァーベル家は、製紙業が順調ですから。作っている紙が王室御用達になって、かなり儲かっているらしいです。」

とデリクは言った。

ただ、ギリギリTOP 10に入ったばっかりに食料の供出をさせられるなんて、お金が儲かるのも良し悪しである。

皆、届いた手紙をとても喜んでいた。レベッカやヨーゼフが、コンラートとジークレヒトに書いた手紙の内容も気になったが、正直私が一番気になったのは、エリザベート令嬢から届いた手紙だ。宰相閣下の娘で国王陛下の姪であられるエリザベート嬢は、私の家族や平民のデリクとは違う視点の情報を持っているかもしれない。

エリザベート嬢からの手紙を読んでいるジークレヒトに私は

「どういう事が書いてあるんだ?」

と聞いてみた。

聞いた後少し後悔した。甘々の恋文とかだったらどうしよう?

ジークレヒトは真面目な顔をして言った。

「ベッキーの様子がおかしいそうです。」

言った後、しまった!という顔をした。