軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

国立大学農学科(5)

だからさっき、温室育ちではないキウイの側を通った時、「食べますか?」とも聞かずにスルーしようとして、温室育ちのイチゴを積極的に試食させてくれたのか?

だいたい『水蜜』の製作者に敬意を表する、というのなら生キャラメルを送ってくれたら、それですむ話だ。わざわざ呼び出して、持ち運びに不便なイチゴを食べさせてくれたのは、温室代を出して欲しいからではないの?

教授は自らどっかから学生が持って来たキウイの皮を剥き、切り分けてくれた。学生が皿とフォークを用意してくれる。

「どうぞ。」

と教授は言った後

「エーレンフロイト様とレーリヒ様は、農業には興味ございませんか?農学科にぜひとも来て頂きたいです。」

と言った。教授自ら勧めてくださるとは、もしも大学に入学したい。と言ったら裏口から入れてくださるのだろうか?

私はキウイにフォークを刺した。キウイは蔓に近い上半分の方が下半分よりはるかに甘い。私は遠慮なく上半分の方を選んでフォークを刺した。

「キウイもおいしい!私、農学科に入ろうかな。」

「それは、まあ、お母様も交えて家族で考えようね。農学科に入らなくてもレベッカが、農学科の研究のスポンサーになってあげたら珍しい果物をわけてもらえるのでは、と思うよ。」

とお父様が言った。

やっぱり、そうか。温室建設のスポンサーにならないか、という理由でここに私達は呼ばれたんだ。

「すごく綺麗な果物ですね。こんな綺麗な緑色の果物初めて見ました。」

ユリアがびっくりした表情で、キウイを見ている。

そう言われてみたらそうだなあ。日本だったらメロンとかアボカドとか、シャインマスカットとか緑色の果物もいっぱいあったけれど、ヒンガリーラントに緑色の果物は無いかも。

「エーレンフロイト様は、異国の食べ物にもお詳しいと聞いておりますが、何か食べてみたいと思われる食べ物がありますか?」

と教授に聞かれた。

こういう質問をされた時、返事は決まっている。

「豆で作った発酵調味料です!」

「・・・え?」

なんか教授をポカンとさせてしまった。

もしかして、侯爵令嬢という人種はこういう時「おほほ、思いつきませんわねえ。何かご存知の物を教えてくださいませ。」とか言わなきゃダメだったのかな?

でも

「豆で作った、発酵調味料が欲しいです。」

言論は自由だ。

「発酵調味料ですか?」

「はい。外国にはあると聞きました。エーレンフロイト領には海があるので魚や貝で発酵調味料を作ったりするんですけど、豆で作った発酵調味料というのも食べてみたいです。」

というか、農学科で作ったりしていないのだろうか?

醤油作りはけっこうハードルが高いらしいが、味噌は素人でもけっこう簡単に作れると聞いた事がある。誰に聞いたのかというと、文子と同じ児童養護施設に住んでいて農業系の高校に行った子だ。高校の文化祭で、手作りのジャムや味噌を売ったりしたそうだ。

その子に味噌の作り方を聞いておけば良かったと、レベッカになってしまった今すごく思う。というより、私も農業高校へ進学すれば良かった!

「発酵調味料ですか。なるほど。」

と教授は考え込んでいらっしゃる。この反応からして、作っていないのだろうなあ。

「それと、他には緑茶が飲んでみたいです。」

「お茶ですか?」

「はい。お茶の産地では酸化発酵させていない、フレッシュなお茶が飲めると聞きました。一度飲んでみたいです。」

「『チャノキ』でしたら、薬学科が確か温室で育てているはずです。」

と教授が言った。

「そうなのですか⁉︎」

「ええ、茶の葉は消毒の効果があって、口臭やむし歯、風邪を予防するそうです。喉の痛みにも効くと言われています。何よりも、壊血病の予防や治療に効くらしく、薬学科が作っている壊血病の治療薬の主成分は、お茶とケールだと聞いています。」

「すごい!薬学科のスポンサーになったら、緑茶が飲めたりするんでしょうか⁉︎」

・・・そう口を滑らした途端、四人の学生達が絶望的な顔をした。

「薬学科ばっかり・・・。悔しい。」

「僕らだって、温室さえあれば。」

そう言って、うるうると目を潤ませ始めた。

やべえ。

農学科の生徒さん達の心の中のセンシティブなところを深く傷つけてしまったらしい。

「・・いえ、あの。」

農学科の方々の、薬学科の人達に対する嫉妬と羨望は想像以上のようだ。

サンルーム内の空気が地獄過ぎる。

「農学科が、温室を建てられる折には、是非とも援助させて頂きたいと思います!」

私は宣言した。しなければ、極悪悪役令嬢と思われてしまいそうな空気だった。

「私も、父に援助するよう提案してみようと思います。ですから、農学科でもチャノキを育ててくださいませんか?」

とユリアも言ってくれた。

・・おかげで空気がなんとか持ち直した。

そして、帰り道。

私達はお土産に、キウイと生キャラメルをもらって帰途についた。

「でも、なーんか納得がいかないなあ。農学科の人達あんなに頑張っているのに、何で国が予算をもっと出してあげないんだろう?薬学科には出してるんでしょう。」

私がそう言うとお父様が

「仕方ないよ。薬学科の研究は命に直結するからね。」

と答えた。

「食べ物だって、命に直結するじゃない。私達の体は食べた物でできているのよ。何を食べているかで、将来かかる病気や平均寿命がある程度決まるって本に書いてあったよ。」

「・・実は、農業大臣と財政大臣があまり仲が良くなくてね。」

「へっ?」

私は間の抜けた声をあげてしまった。