軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

私の夢 お父様の夢

「国立大学の予算って、財政省が決めるの?」

「大学全体の予算は教育省が決めて、各科に公平に分配するけど、追加予算は財政省が出すんだ。」

財政省というのは、日本で言うところの財務省。教育省というのは文科省みたいな物だろう。

「農業大臣がいるのなら、商業大臣や工業大臣もいるの?」

「工学省に工学大臣というのはいる。でも、商業大臣はいない。財政省の中に通商局というのがあって、そこが国内の商業については統括している。」

え?財政省って、日本でいうところの財務省と経産省を兼ねてるの?それって、最強の省じゃないの?

「農業省は、5年前にできたばかりの新しい省なんだ。それができた時、誰が大臣になるかで貴族派閥と大学派閥が争った。大学派閥が推挙した大学教授は、研究熱心で農業を愛する人だった。だけど貴族派閥が推していたのは、虫が嫌い、ミミズが嫌い、家畜は臭いから嫌い、泥で靴が汚れるのも嫌。という人だった。政治家としての才能もイマイチだった。良いのは血筋だけだった。国王陛下が、どちらを選ぶかなんてわかりきった事だった。」

むしろ、貴族推しの人が本気で大臣になれると思っていた人がいたのか?とツッコミたくなる話だった。

そんな人が大臣にならなくて良かったよ。でも。

「財政大臣って王妃様のお兄様なのだよね。自分が推していた人が大臣になれなかったから、農業大臣や大学の農学科に意地悪してるの?」

「直球で言わないように。まあ、でもそういう事だよ。」

人間が小せえ!

おいしい果物の背景に何て汚い話があるんだ。農学科の人達が可哀想だ。

でも、だからこそ私にあれほど強くプレゼンしてきたのか。

財政大臣は第一王子の伯父に当たる人だ。そして私は第二王子の婚約者なので、ようするに我が家は反財政大臣派閥の筆頭みたいな家だ。

だから、我が家に後ろ盾になってもらえるよう必死で頑張っていたのだろう。

でも、お父様が一歩間違えば反逆罪で密告されかねない『水蜜』の秘密をバラしたり、今日私とあの人達を引き合わせたりしたって事は、お父様はあの人達を支援したいって思っているって事だよね。だったら私だって、支援するのはやぶさかではない。支援したら、レアな果物を食べさせてもらえるというのならば尚更だ。

「私、農学科のスポンサーになります!で、珍しい果物を分けてもらったり、栽培の仕方を教えて欲しい。私、夢があるの。」

天然痘に感染するかもしれない。

18歳で殺されるかもしれない。

そう思うと、夢なんか見てる場合じゃないと思う時もある。でも私には夢がある。

「お菓子の学校を作りたいの。」

お父様が首をひねった。

「建物の壁がビスケットで、窓が飴で出来ている学校かい?」

『ヘンゼルとグレーテル』に出て来る魔女の家じゃないんだから。

もしも現実にそんな学校建てちゃったら、とんでもないほどの数のアリがたかってしまうよ。

「そうじゃなくて、お菓子の作り方を教える学校。」

つまり、日本でいうところの製菓学校だ。

「初等科と高等科に分かれてて、初等科では卵の割り方とか、果物の皮の剥き方とか、初歩の初歩から教えるの。高等科では、お店で売れるくらいのレベルの物のレシピを教えるの。砂糖の値段が高いし、バターや卵も貴重品だから今まではそんな学校無理と思っていたけれど、『水蜜』が作れるようになって甘味料の値段が下がったら、できるんじゃないかと思うんだ。学校内で新しいお菓子のレシピとか開発してさ。そのレシピをレシピ本にして売って、学校の運営費の足しにしたりするの。」

「ははは、可愛い夢だねえ。」

とお父様は優しいから笑って言ってくれるんじゃないかと思ってた。

しかし、お父様はすごく真剣な顔になり

「興味深い話だと思う。」

とガチな口調で言った。

「実はお父さんは、昔から領地に大学を作るのが夢だったんだ。」

「大学を?」

「うん。大学があれば学生が集まる。学生が集まれば、下宿屋や料理屋、文房具の専門店など、学生向けの新しい雇用ができる。人や店が増えたら商人も集まって来る。領地を気に入ってくれたら、大学を卒業してもそのまま領地に住み続けてくれるかもしれない。ヒルデブラント領には薬科大学があるし、ローテンベルガー領には海洋水産大学がある。それがとても羨ましかったんだ。何かエーレンフロイト領にも大学をと思っていたけど、もう既にある大学と同じ物を作っても頭の良い学生は歴史のある大学の方へ行ってしまう。だから今までに無かったような大学を作りたいと思っていたのだけど、お菓子作りの大学というのは良いかもしれない。そんな学校、他に聞いた事が無い。」

私としては、王都のビルの一室でこじんまりとやる、カルチャースクールみたいなのを連想していたのだけど、お父様には別な大きな野望があったようだ。

「農学科と同じで、作った物を売ればそのお金で奨学金が賄えるかもしれない。そうしたら、貴族や富豪の関係者だけでなく、普通の庶民も入学できる。大学でしか売っていないという珍しい菓子があれば、商人や観光客も集まってくるはずだ。」

「そんな学校があったら、絶対我が家の料理人を入学させます。大学にも出資します!」

とユリアが言った。

「貴族の方々ならみんな、そんな大学があったら使用人を入れたがりますわ。今でさえバウムクーヘンやアイスクリームの作り方を教えて欲しいと、いろいろな貴族家の方に言われますもの。」

とユーディットも言った。

「ベティーナも入りたがりそう。ベティーナは、料理長のセナさんに憧れているんです。今でも台所にしょっちゅう出入りしてお菓子作りの手伝いをさせてもらっていますから。」

「『水蜜』だけじゃなくて、バターとかも作れたら良いな。その為に大学で牛を育てて、エサとかも考えて。卵をとる為にニワトリやアヒルを育てたり、うちの領は柑橘類がたくさんとれるけれど他の果物も植えたいね。その為には、国立大学の農学科に協力してもらわないと。ローテンベルガー領の海洋水産大学は、アズールブラウラントの海洋水産大学と姉妹校提携しているんだ。もしも、同じようにできるなら・・。」

「卒業した後商売をするなら、経済学や税金についての勉強もいりますよ。数学科がいると思います。」

とユリアが言う。

「レシピ本を作るなら、読み書きも出来ませんと。外国語の読み書きが出来れば外国でも本が売れますわ。甘い物は、どの国に住んでいる人だって大好きで、食べたら幸せな気持ちになりますから。」

とユーディットも言った。

話が、どんどんと大きくなってゆく!

でも、なんか嬉しかった。

考えてみたら、お父様だってまだ30代だもんね。夢とか、あるよね。

それを教えてもらって、なんだか自分が少し大人の仲間入りをしたような気がした。

みんなで夢を語り合うのはとても楽しかった。

たとえこれから困難な時代が来るのだとしても、『夢』があれば、踏ん張れそうな気がする。

たくさんの夢と希望をのせた馬車は、ガタゴトドッタンガッタンと、帰りの道を進んで行った。

寄宿舎に着いて。

お父様と私は、お土産のキウイと生キャラメルを半分こした。

更に、それをユリアと半分こする。

ユリアは

「私は、別にいいですよ。」

と遠慮したのだが

「カレナやリーゼレータに食べさせてあげなよ。」

と言って私は半分押し付けた。

リーゼレータは、ユリアの同室者だ。ローテンベルガー公爵の姪に当たる子である。

元々、私と部屋が別れた後のユリアの同室者は、ブルーダーシュタット出身の商人の子だった。地元では我儘と有名な子だったので、ユリアは「とほほ」と嘆いていた。そしてその子はアカデミーに編入して来た次の日、マナー講師のシュトラウス先生と大げんかをし、ブルーダーシュタットに帰ってしまった。そして、そのまま退学をした。

ユリアは、一人になってしまったので、今度は10月に編入して来たリーゼレータと同室になったのである。

「父親が平民とはいえ、ローテンベルガー公爵が溺愛しているという噂の姪です。誇り高くプライドの高い娘かもしれませんが、ベッキーと上手くやっていた貴女なら、まあ大丈夫でしょう。」

とエリーゼ様に言われたらしい。私の誇りは、マリアナ海溝よりもまだ下にあるんですけど。

しかし、編入して来たリーゼレータは、庶民派なあっけらかんとした性格の少女だった。

おしゃべりが大好きで声が大きく、誰にでも気さくに話しかける。陽気で口を大きく開けてゲラゲラと笑うので、一部の意識高い系の方々からは、アカデミーの品位を下げる、と眉をしかめられているが、本人がまるで他人の視線を気にしない。

明るく素直で正直者なうえ、輝くような金色の髪と若葉色の目をした美しい少女なので、あっという間にアカデミーの人気者になった。

地頭が良く、気の利く性格なのでアカデミーの授業も難なくこなす。正直、彼女があまりにも上手くやっているので、同じ時期に編入したコミュ障のコルネは、ますます追い詰められたのである。

ユリアとも、まあまあ上手くやっているようなので私もほっとしている。

ちなみに、今年の秋ブルーダーシュタットからは三人編入生が入って来たのだが、残りの二人のうち一人はホームシックでベッドから起き上がれなくなり、1ヶ月でアカデミーを辞めた。残りの一人は今も通っているが、なぜかものすごくユリアをライバル視している子なので、ユリアの側にも私の側にも一切近寄って来ない。

3階に上がり部屋へ戻ると、コルネはまだしくしくと泣いていた。

楽しかった気分がダダ下がって行く。

でも、コルネの事を放っておく訳にはいかない。何せコルネは、レントから私へと任されている子なのだ。レントが命をかけて私を守ってくれたのだから、私もそれなりの仁義を通さなくてはならない。

「コールネ。お土産だよ。とってもおいしいお菓子だよ。一緒に食べよう。」

キウイの方は、まだ少し固いのでもう少し追熟させてから食べるよう言われている。

「ぐすっ、うっ。ユリア様とどこ行ってたんですかぁ?」

「国立大学の農学科。」

「何の用で行ったんですかぁ?」

水蜜についてはまだ話してはいけないだろう。そもそも『水蜜』の存在を知っていたのは、我が家でもごく一部の人間だけで、今年から我が家に住むようになった、コルネにドロテーア、カレナは知らないのだ。だからたぶん、今日の外出はユリアとユーディットだけ。と言われたのである。

「農学科のスポンサーにならないか?って頼まれたの。農学科は、ガラスの温室が建てたいらしいけど、国がお金出してくれないんだって。スポンサーになったら、温室で実る珍しい果物を分けてもらえるらしいの。でも、ガラスは高価だし、だから親が大金持ちのユリアを連れて来いって、お父様に言われたの。」

「わ・・私だって、お金ならあります。・・だいぶ使っちゃったけど。」

「そのお金は、コルネの将来の為のお金でしょう。大事に使わないと。ユリアんとこは、お父さんが働いて稼いでいるんだから。」

・・って、今、つい頭の中で『大仏買っちゃった』って変換してしまったけれど、この世界に『大仏』なんか売ってない!

えっ?いったいいつの間に、何にお金使ったの⁉︎

10代の子供が大金を一瞬で消費するとしたら、日本で真っ先に思いつくのはゲーム課金だ。

でも、この世界にネトゲは無い。ドロテーアの悲劇を知っているコルネが、ギャンブルとかをする訳がない。ずっとアカデミーにいるのだから、ホストクラブでシャンパン注文しているはずも無い。

なのに何に使ったの?

でも、ぐすぐすと泣いているコルネを責め立てるわけにはいかない。そもそもコルネのお金はコルネに自由に使う権利がある。

一旦保留にしよう。と思った。法に触れてさえいなければどうだっていい。

と思ったが、ユリアに責められて追い詰められたコルネは、ギリギリな事をしでかしていたのである。

一旦放って置いて、今はガラスの温室にどれくらい出資するか考えよう、と思っていた私だったが、翌日の新聞を見て叫び声をあげてしまった。西大陸で使われるガラスの8割を製造し、通称『ガラスの王国』と呼ばれるシンフィレア国で、大事件が起こったのである。