軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

国立大学農学科(4)

「・・可愛い花ですね。」

と、私は言った。大きさ的には桜や梅の花くらいだ。

「サクランボやリンゴの花に似ていますね。」

と、ユリアも言った。

「そうです。種族としては同じなのです。」

「じゃあ、これは成長して木になるのですか?」

と、私は聞いた。

「いいえ、この大きさのまま花びらが散って、実ができます。この果物はイチゴというのです。」

あやうく

「えーっ!」

と叫ぶところだった。あの、日本のスーパーでもお馴染みだったイチゴ!

こんな花なのか。知らなかった。

イチゴは野菜か果物か?という論争は、文子が子供の頃からあった。だから、イチゴは木にならない。というのは知識としては知っていた。だけどなんとなく、ミニトマトのような植物にミニトマトみたいな感じにできるのかと思っていた。

文子だった頃、『イチゴ狩り』という高貴な遊びをした事がなかったから全然知らなかったよ。

「イチゴというのは、非常に不思議な果物なのです。」

まるで生徒に教える教師のように、教授は語り始めた。

「ほぼ全ての果物が、皮に実が包まれ、種は実の中心部に存在します。オレンジや栗のように皮が二重になっている物もありますし、種がアプリコットやサクランボのように一つだけという物もあれば、リンゴやブドウのように小さな種が複数ある物もあります。しかし、外側が皮に包まれ、中心部に種があるという点で、全ての果物が共通しています。しかし、イチゴという果物には皮が無く、種は小さな物が複数実の外側に張りついているのです。」

・・・。

あれ?

言われてみればその通りだぞ。別にイチゴはそーゆー物だと思って、文子だった頃何も考えずに受け入れていたけれど、考えてみるとおかしくないか?

文子だった頃、友達が骨を折って入院した事がある。胃袋は無事だったので、病院食だけではご飯が足りず

「何か果物を買って来て。」

と頼まれた。なので、友人達とお金を出し合ってイチゴを買って病院に持って行った。

なぜ、あの時イチゴを買って持って行ったのか?

それは、イチゴに皮が無いからだ。そして、種が捨てずに食べられる果物だったからだ。ようするに、友人の為に皮を剥いてあげるというめんどくさい作業が発生せず、ヘタ以外に生ゴミが出ない果物だったからだ。

イチゴ以外にそんな果物無い!バナナにもメロンにもパイナップルにもスイカにも皮がある。サクランボやブルーベリーも皮ごと食べられるとはいえ皮がある。でも、イチゴには無い。実は極薄の皮が。という可能性すら無い。

そして種のある場所が明らかにおかしい!

もしかして、あれは種ではなく別な物?と思ったけれど、やっぱ種だよね。キウイと同じくらい存在感を感じない種だけど?

どういう事だ?明らかに作物として異端じゃないか?イチゴに比べたら、トマトやナスの方がまだ果物っぽいのではないだろうか?

私は頭がぐるぐるして来た。

なぜだ?どうして?という疑問で頭の中がいっぱいである。ユリアも

「それは不思議ですね。正直どんな果物なのか想像もできません。」

と言った。

そんな私達の様子に教授は満足そうだった。

教授は学生の一人に目で合図をした。学生がうなずき、ドアを開けて隣の部屋へ行く。そして鉢を一つ持って来た。

その鉢には、大粒のイチゴが四つ実っていた。

「まあ、可愛い!これがイチゴなのですか⁉︎」

とユリアが聞いた。

日本で、イチゴを見て「可愛いー。」と口走る女は、あざとい女というイメージがあるが、ヒンガリーラントでしかもユリアが言うと、全然あざとくなくむしろ微笑ましい。

「本当に種が外側ですよね。」

私もイチゴをじろじろと見ながら言った。

21世紀の日本だと、赤黒いイチゴとか白いイチゴとかあったけど、このイチゴは幼稚園児がイチゴの絵を描いた時色鉛筆で塗るような色の赤だった。

教授がその四つのイチゴを摘み、私達に差し出してくれた。

「どうぞ。」

「ありがとうございます。」

私は少しイチゴの観察をした後、パクッと一口で食べてみた。

しかし。

ユリアもユーディットも、お父様でさえ二口で食べているのを見て、貴族令嬢としての品が無かったかもしれない、と焦った。

イチゴはスーパーで売っているイチゴくらいの糖度だった。

と言うと、読者の皆様は

「ふーん。」

と思うかもしれない。

しかし、ヒンガリーラントで食される果物はどれもこれも、基本日本のスーパーで売られている果物より酸っぱいのだ。

巨峰のように甘いブドウや、ふじリンゴのように甘いリンゴは無いのだ。

柿やバナナのように酸味は無くて甘いだけ。という果物も無いのだ。

そんな中で、日本のスーパーで売られていてもおかしくない甘さの果物が存在するってすごい事なのである。

「甘くて、おいしい!」

とユリアも、悟りを開いた聖人のように瞳を輝かせて言った。

「暖かい地域でなければ実らない果実なのですが、皮が無いという特徴の為、輸送が困難なのです。なので、生食できるのは生産地だけで、それ以外の地域ではジャムに加工されて食べられています。」

確かに日本でも、ジャムコーナーで一番幅をきかせていたのはイチゴだった。

イチゴが一番おいしいから、というだけの理由ではなくて、生で運んだり保存したりが大変だからだったのか。

しかし、一粒だけ食べるともっと食べたくなってきた。

それもできる事なら、イチゴのショートケーキとか、イチゴ大福とかイチゴのアイスクリームが食べたい。

「おいしい果物ですね。この果物も、そのうち売りに出すのですか?私、買います。」

「温室があれば、量産できますが、今は困難です。より甘く、より大きいイチゴを作る為の研究用に育てている状況です。」

「温室さえあれば、たくさん育てられるのですが。」

と学生さんが言った。

・・さっきから、やたらグイグイ『温室』の話が出てくる。

もしかして、これは遠回しにお父様に、そして私とユリアに寄付を請願しているのか?