軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

揚げ物天国

私は昨日と今日とで、一つ悟りを開いた事がある。

人間はいつ死ぬかわからない。

実際、昨日、詰んだ、終わったと思った瞬間があったのだ。だったら食べられる時に我慢しないでおいしい物を食べとかなくちゃ!

今までは、ヒンガリーラントにない料理を作り出すと「どこで、そんな料理を知ったの?」と聞かれて、変な目で見られると思って我慢していた。でも、それが何だというのだ。死ぬ直前に見る走馬灯の全てが、日本で食べていた食事ばかりだった、というのではあまりにも悲しいじゃないか!

私はタビタに頼んで、自由に台所を使わせてもらう事にした。

海賊の残党に誘拐されたら一大事という事で、私も外出禁止にされているのである。だったら、日本で好きだった料理を作りまくってみせる。まずは、私が全ての料理の中で1番好きだった料理、『コロッケ』だ。

私はイモの皮を剥いて四分割し、ぐつぐつと鍋で茹でた。その間にみじん切りにしたタマネギをバターで炒める。ミンチ肉を入れると味がワンランク上がるのだが、海の側の街なのだし、代わりに刻んだマグロを入れた。柔らかくなったイモは熱いうちに潰し、炒めたタマネギとマグロを入れて、塩胡椒で味をととのえる。それを丸めて、小麦粉、溶き卵、パン粉をつけて、油で揚げるのだ。

見た事の無い調理法に、タビタもユリアもジークもエリーゼも目をまん丸にして見入っている。ちなみに、これらの調理は、半分以上カレナが手伝ってくれた。現在無職のカレナは、レーリヒ家にいてもやる事がないのだ。なので、私の身の回りの手伝いをしますと言って、カルガモの親にくっついている子ガモのようにずっと私の側にいる。イモの皮剥きもタマネギのみじん切りも、固くなったパンをおろし金ですってパン粉にするのも全部やってくれた。

キツネ色にあがったコロッケを、最初に毒味するのはもちろんアーベラである。口に入れるとザクっという、とても良い音が響いた。

「すっごいおいしいです。実は私、それほどイモが好きではなかったのですが、これは本当においしいです。」

そうであろう、そうであろう。私も児童養護施設で出るおかずの中でコレが1番好きだった。

レベッカの体になってから、イモのスープやマッシュポテトを食べるたび、どんなにコロッケが懐かしかったか。よく、1年半我慢したよ、私!

せっかくパン粉をカレナに作ってもらったのだ。私は他の揚げ物にも挑戦する事にした。エビフライ、アジフライ、イカリングフライ、白身魚フライ。本当はね。あらゆるフライの中で私はカキフライが1番好きなんだけど、牡蠣は手に入らなかった。この辺りでの旬は冬らしい。冬になったらまたこの街に来たいなあ、と思った。野菜も食べなきゃだよね、と思って、ミニトマト、アスパラガス、ハムを巻いたインゲン豆も揚げてみた。

まるで料理番組のアシスタントのように、カレナとタビタがアジやイカの処理をしてくれた。魚料理がそれほど得意ではないジークやエリーゼの為に豚肉や鹿肉も揚げてみた。

更に、魚やエビをカレナにすり身にしてもらって塩と卵白を混ぜた物も油で揚げてみた。それを作ると卵黄が余るので、牛乳と砂糖小麦粉を使ってカスタードクリームも作ってみた。生クリームを泡立てるのはとても大変なのに、こんなに簡単にクリームが作れるなんて!とタビタがとても感動していた。

カラリと揚げた揚げ物に1番合うソースはやっぱり、タルタルソースだろう。タビタにマヨネーズと、タビタ特製キュウリとタマネギのピクルスを分けてもらい、刻んだゆで卵を入れてタルタルソースを手作りした。

ここまでいろんな物を揚げてきたのなら、やっぱりアレも作りたいね。と私は思った。その名は『カラアゲ』だ。

本当は、醤油味のカラアゲが好きなのだけど醤油が無いから仕方がない。私の中で魚醤は醤油ではないのだ。

マクシーネの店で調合してもらった、塩胡椒、生姜、ニンニクの粉を肉に揉み込んで味付けをした。カラアゲが作るのが上手な人は、小麦粉でカラッと揚げられるらしいけど、私はいつもスーパーで売っているカラアゲ専用粉しか使った事がないので、小麦粉で上手に揚げられる自信が無い。なので、米粉で揚げてみる事にした。もちろん、お米を粉に挽いてもらうなんてめんどくさい事はカレナにお任せである。

だけど、正直言ってカラアゲはビミョウな出来だった。ミックススパイスに罪は無い。諸悪の根源は鶏肉である。

皆様ご存知ですか?日本のスーパーの精肉コーナーに並んでいる鶏肉って、生後数ヶ月、下手すりゃ数週間の若鶏達だって。そしてその若鶏達はケージに入れられていてほとんど身動きしないって。

それに比べてヒンガリーラントで出回っている鶏は卵を産まなくなった老鶏だし、そこら辺を自由に走り回っているので、とっても筋肉質なのだ。そんな鶏肉って、めちゃくちゃ固いの!冗談抜きでゴムの塊を噛んでいるような感じ。どんなに頑張っても噛み切れないの。すごいカチカチなの。そういう鶏肉は、煮込み料理なら何とか食べられるけど、カラアゲにするとますます固くなってしまう。

なので、鶏肉のカラアゲは食べられたもんじゃなかった。むしろ、おいしかったのは台所にまだ残っていたウミガメの肉で作ったカラアゲだった。トリのササミみたいにちょっとパサっとしてたけど、生臭さとか全然無くて、柔らかくて鶏肉のカラアゲより断然おいしかった。

そうやって、延々と揚げ物を作り続けていた私とカレナなんだけど、エーレンフロイト騎士団に1番評判の良かった揚げ物は、何とフライドポテトだった。イモを拍子切りにしてカラッと揚げて塩振っただけの物だ。

コロッケとか、アジフライとかけっこう手間がかかっているのに、イモ揚げただけの物が1番人気って正直「えー。」って思ったよ。

ちなみに、みんなには

「これは外国のお祭りで売られる屋台料理で、飲み物を多めに売りたい時は塩を多めに振る。」

と説明しておいた。

タビタにはこの料理のレシピを売って欲しい、と頼まれたし、シュザンナにも自分が経営するカフェで出したい、と言われて私は喜んで許可を出した。タビタは、さっそくパン粉に粉チーズを混ぜたり、刻んだパセリを混ぜたりと、自分なりに改良を加えていた。

「ベッキー様が、好きな魚はアジやマグロと言っておられた意味がわかりました。とってもおいしいですね。ベッキー様は本当にいろいろと博識で尊敬致します。」

と、ユリアに言われた。

ちょっと、心配になったのは、つい数日前あれだけ激しくお腹を壊していたダニエルも、「おいしい、おいしい。」と言ってパクパク揚げ物を食べていた事だ。またお腹を壊さないといいけれど・・・。

油は熱し過ぎると火柱が立つし、天かす的な物を大量にまとめておくと、自然発火する事がある。それだけは気をつけてね。と念押ししておいた。

そうして幸福な『揚げ物天国』を満喫していた私だったけれど。

事件から4日後。7月11日。

地獄が待っていた。