作品タイトル不明
第6話 いでえええええええええええ!!
孤児院の一室で、ゴールはマガツヒ教の教祖、そして聖女と向かい合う。
自分の側には、部下が何人かいるが、交渉事はすべて自分がやる。
どうにも頭が足りないので、自分がやる羽目になっているが、まあ美味しいところも全部いただくことができるので、悪いことでもなかった。
「(随分と見た目が整っているが、見た目も重要なんだろうな。人の心を集めるには、容姿も武器になるし)」
ライアーとユーリエを見ながら、ゴールは薄く笑った。
二人とも、容姿がとても整っている。
異性からはもちろんのこと、同性からも不快に思われることはないだろう。
宗教は人の心を奪う、集めることも大事だ。
トップの二人がこれだけ整った見た目をしていれば、話すことにも説得力が出る。
天使教一強の時代にマガツヒ教が小さいながらも確立しているのは、彼ら二人の力が大きいのだろう。
「(ただ、こういったことには慣れていない様子だな。こりゃ、いいカモだ)」
二人とも、随分とお人よしそうな顔だ。
こちらのことも疑っている様子はない。
見るからに善人そうだが、そんな人種こそ、自分たちにとってのカモとなる。
半ば勝利を確信しながら、ゴールは話し始める。
「いやー、立派だなぁ、教祖様」
「何がですか?」
「こうしてガキどもの生活支援をしていることだよ。あんたらだって、別に余裕があるわけじゃねえだろ? 余裕があったら、わざわざこんなところに拠点を構えないだろうからな」
「(それが分かっていて納税を求めてくるとか、なめてんの?)」
ゴールの言葉に、ライアーは薄く笑みを浮かべるのみ。
当たり前のことをしていると言いたげだ。
本当に、心の底から善人なのだろう。
でなければ、スラムなんて場所で、子供たちのために孤児院なんて開くはずがない。
金もかかるし、正直ゴールからすると、メリットが何も感じられない。
本来なら、国や街がしなければならない公共福祉だ。
それを、どうして個人でやろうと思うのか。
色々と活動して小金が貯まっているが、それを他人のために使おうとは微塵も思えない。
「ガキどもも、随分とあんたらを慕っていたようだ。あくどいことをしている孤児院も多い中、本当にまともな孤児院を開いているんだな」
「そう言ってもらえると嬉しいですわ(将来、自分たちを養ってくれるかもしれない人材を育てているだけなんだけど)」
ニコニコと、これまた嬉しそうに笑うユーリエ。
子供は純粋で、そしてバカではない。
自分たちのことを真に考えてくれる大人のことは、子供ながらにしっかりと区別できる。
色々とつらい目にあっているはずの孤児たちが懐いていることから、目の前の二人は心の底からの善人なのだろう。
自分とはまったく違う人種に、思わず苦笑いを浮かべそうになる。
「それに、俺たちも本当はガキどものことをちゃんと支援したいと思っているんだけどなあ。どうしてもリソースが足りなくてよ」
「心中お察しします(嘘つけ。だとしたら、『ガキども』なんてこと言わないだろ。俺が心の中で言っていることと同じ言葉じゃないか)」
ゴールは思わず笑いそうになるのを、何とかこらえた。
目の前の男は、自分の言葉をあっさりと信じたらしい。
子供に対する支援なんて、考えたこともない。
自分のために行動し、自分の利益のみ考える。
それが、人間らしい生き方だと信じていた。
「しっかし、まあよくも新興宗教を信じようとしたよな。いや、教祖と聖女に言うことじゃねえかもしれねけどさ。この天使教が最強の時代に……下手をしたらつぶされるぞ?」
驚きながら言った言葉は、純粋な好奇心があった。
天使教が世界中で信仰されているこの世界。
そして、他宗教に対して非常に非寛容的であるため、他の宗教が勢力を伸ばす土壌はない。
マガツヒ教ほど小さく拡大意思を持っていなければ、天使教も暇ではないから潰しに来ることはないだろうが、逆を言えば、暇さえできればつぶされるということである。
よくもまあそんなことをしたものだと思う。
天使教の連中ほど面倒臭い奴らはいないだろうに。
「神託を受けたのですよ。マガツヒ様のご意思のもと、力のない人々の助けになれ、と」
ライアーは人を安心させるような笑顔を浮かべる。
「それに、私たちは何も天使教と敵対しようとか、天使教の信者を奪い取ろうとか、そういうことは一切考えていませんよ。だからこそ、天使教も私たちを見逃しているのでしょう」
「ええ。わたしたちは、ただ困っている人が一人でも救われるのであればと……そう思っているだけです(嘘だけど)」
それが本気で言っているということは、ゴールもわかっていた。
だからこそ、驚愕した。
こんな人間がいるなんて、思ってもいなかった。
「かーっ! マジでそんな風に考えてやってんのかよ? それが本当だとしたら、とんでもない善人だな。ただ、善人なら同じように善行をしてもらおうか」
だから、本題に移る。
自分たちがここにやってきた理由。
それは、至極簡単だった。
「善行、とは?」
「納税しろよ」
「…………(俺の金を税金に……? バカなの? 誰がそんなことするんだよ、死ね)」
顔を苦々しいものに変える二人。
それは、面倒くさいことを言いやがって、というようなものではなく、もともと負い目を感じていたことを指摘された子供のようだった。
こういう後ろめたさや罪悪感を抱くタイプは、簡単に取り込むことができるから、ゴールにとってはありがたい存在だった。
「良識のある一般市民なら、誰もがやっていることだ。今まで目こぼししていたが、ガキを養うことができる程度には稼いでいるんだろ? なら、納税しろよ。お前らが納めた税金で、もっと多くの人を救うことができるんだ。悪い話じゃねえだろ?」
「そうは仰いますが……わたしたちも余裕があるわけではありません。それに、これは商売などをして稼いだお金ではなく、恵まれない子供たちのためにと、信徒が善意で寄付してくれた大切なお金なんです」
「その金は、ちゃんと貴族様がいいように使ってくれるさ。あんたらの力だと、小さい範囲しか人を救えないだろ? だが、この街全体のことを考えるのであれば、納税することが一番恵まれない奴らを救うことにつながるぜ」
そう言えば、二人は申し訳なさそうに顔をゆがめていた。
やはり、こういう攻め方をするのは正解だった。
こういう手の者は、痛めつけるような脅迫をするよりも、良心や罪悪感をつつく形の方が効果的だ。
実際、目の前の二人はひどく揺れている様子。
今なら、簡単に自分の思い通りに誘導できそうだった。
「それに、そもそもお前らに拒否権なんてあると思ってんのか? 今まではこっちが黙って見逃してやっていただけ。それをやめるっていうだけの話だ。お前らに断ることなんてできねえんだよ」
「…………(うっせーわよカス。わたしの金よ。誰にも渡さないわ。ライアーにもね!)」
さらに申し訳なさそうに下を向く二人。
今がチャンスだ。
ゴールはにやりと笑い、先ほどとは打って変わって優しい声を出す。
「ただ、俺らも鬼じゃねえ。『準備する期間』が必要だって言うなら……考えてやらねえこともねえ」
「ほ、本当ですか?(そのうちに財産隠そう)」
希望を見出したように顔を輝かせる二人。
ゴールはそんな彼らを突き放すように笑った。
「なぁに、ちょっと俺たちに寄付してくれたら、それでいいんだよ」
「そ、それは……(賄賂やんけ! それするほどお前に価値あんの?)」
「いい提案だと思うぜ? こんなスラムの中に入ってくる官憲なんて、俺たちくらいだろ。つまり、俺たちを黙らせられたらそれでいいんだ。それに、その寄付だって納税するよりもちょっとは安い。お前らには、得しかねえと思うぞ」
にやにやと笑うゴールたち官憲。
決して治安を守る者が浮かべていい顔ではないが、ここには善良な市民はいないので、問題ない。
目の前にいるのは、滞納する悪い市民なのだ。
むろん、この提案を飲んだら、あとは完全に骨までしゃぶりつくすつもりだ。
「さあ、どうするよ? 俺たちは別に構わねえんだぜ? ちゃんとお前らから税金を搾り取ってもよ」
時間を与えることはせず、一気に詰め寄る。
冷静になって考えられたら困るのだ。
頭が混乱しているうちに、一度でいいから賄賂を渡させる。
一度出させれば、そのあと何度も続けるのは容易だ。
崩れてしまえば、二度と取り繕うことはできなくなる。
ゴールは勝利を確信し、さらに言葉をつづけようとして……足に小さな衝撃を感じた。
大したものではない。ダメージなんて当然ない。
だが、無視することはできない程度の力だった。
ゴールの足に当たって地面に落ちたのは、子供が遊ぶ玩具だった。
そして、それを投げたであろう孤児が、強い目でにらみつけているではないか。
「教祖様と聖女様をいじめるな!」
「あー……なんだよ。孤児院なんて開いているくせに、ガキの教育もできてねえじゃねえか」
ゆっくりと立ち上がるゴール。
威勢よく啖呵を切った孤児であったが、大柄な男がにじり寄ってくると、さすがにおじけづく。
先ほども確認したが、ダメージなんて微塵もない。
だが、攻撃を受けた。つまり、なめられたのだ。
官憲は決してなめられてはいけない。
侮られては、お仕事ができなくなってしまう。
今のように、善人を騙して自分の私腹を肥やすこともできなくなるのだ。
孤児の前に立つゴール。
一般的な大人よりも、さらに大柄なゴールが目の前に立つと、子供の身長の低さが目立つ。
おびえる子供を前に、ゴールはゆっくりと足を振り上げた。
「俺はおまわりさんだからな。代わりに教育してやる、よっ!」
「…………っ!!」
容赦なく子供を蹴り飛ばそうとするゴール。
大柄な男の攻撃に、子供は来るべき苦痛に耐えるために目をぎゅっとつむる。
大怪我は避けられない大人の暴力。
しかし、それはいつまでたっても子供を襲うことはなかった。
ガッ、と重たい音が響く。
恐る恐る子供が目を開けば、自分の前にかばうようにして立ちはだかる男がいた。
「ぐっ……!」
「きょ、教祖様!?」
苦し気に顔をゆがめつつ、しかしすぐに子供を安心させるために柔らかい笑顔を浮かべたライアーが、子供の前に立っていた。
「(いでえええええええええええ!! ふざけんなよクソごみカス野郎がああああああああ!!)」
なお、ユーリエは見えないところでにやにやしていた。