軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第2話 それは大丈夫です

薄い黄緑色のふわふわとした長い髪を持つ女が、俺たちを見て慌てて駆け寄ってきた。

マガツヒ様。俺たちの信仰する女神である。

……まともに祈ったこととかないけど。

「……今、おかしなこと考えていなかった? 信仰している女神を売ろうとしていなかった?」

「まさか。俺たちがそんなことを考えるはずないじゃないですか」

「ええ、まったくその通りです。御身のことが最優先で、安全を確保させていただきます」

「嘘だ! 僕は君たちの女神なんだから、考えていることも何となくわかるんだからね! 二人そろって、僕を生贄にしようとしていた!」

ちっ。この考えが読まれるというのは厄介だな……。

色々と謀略を考えても、行動に移す前に叩き潰される。

というか、ユーリエも同じことを考えていたのかよ。最低だな。

聖女としての誇りと責務はどうした。

「といっても、マガツヒ様は逃げられないでしょ。どうしても縛り首ですよ、マジで。神が死ぬかどうかは分かりませんけど」

「ねー」

「ひ、ひどい! 二人して僕のことを見捨てる気だ!」

何なら、信者全員見捨てて逃げるつもりですけど?

俺の命とその他数百人の命。

比べるまでもなく、俺のほうがはるかに重い。

「いやいや、そんなことはないですけど。まあ、今回なら大丈夫かもしれませんがね。ほら、俺たちは貴族に喧嘩を売っている形になっているだけで、天使教に逆らっているわけじゃないですから」

貴族側からしても、女神を殺そうとは思わないだろう。

いくら信仰していないとはいえ、神だ。

バカ以外は神殺しなんて、したくもないだろう。

おそらく、人間の首謀者をつるし上げて終わりだな。

そうなると、危ないのは教祖である俺と聖女であるユーリエとなる。

……やはり、ここはすべての責任を背負ってユーリエに死んでもらうしかないな。

彼女も本望だろう。一瞬とはいえ、甘い汁をすすることができたのだし。

すべて俺のおかげだ。なら、恩返しをしてもらわないとなあ……。

「……あいつらね」

「たまに闇を見せるのやめてくれません? ユーリエが半泣きになるので」

ずおっと黒い瘴気をあふれさせるマガツヒ様。

天使教の信仰対象に対する怒り恨み憎しみがとんでもない。

過去に何かあったのだろうが、怖くて……面倒くさくて聞けていない。

何に対しても甘っちょろ……優しいマガツヒ様をここまで怒らせるのは、なかなか大したものだ。

そんな女神の怒りに触れて、ガチでビビッて半泣きになりながら俺の背中に顔をうずめてくるユーリエ。

やめろ。俺だって怖いんだぞ。

「まあ、どっちかというと、今回の件でやばいのは俺たち人間のほうですよ。ほら、貴族も人間だから、処罰しようとするなら同じ人間にしますよね。神を罰しようとはしないと思います。同じ神の命令がない限り」

「……じゃあ、君たちが危なくない?」

先ほどまで強い怒りを示していたマガツヒ様は、俺たちを気づかわしそうに見る。

本当に甘い……じゃなくて優しい神だ……。

そんな心配に対して、俺は安心させるように、柔らかく微笑んだ。

「それは大丈夫です。ユーリエが聖女として、すべての咎を引き受けてあの世に行くと、先ほど高らかに宣言していました」

「!?」

ありえないものを見る目で俺を見るユーリエ。

失礼だぞ、お前。

「ぎょっとしているけど……」

「ふっ……。ユーリエとの付き合いは、俺のほうが長いんですよ。これは、その通りだと言っている顔です」

「そんなわけないでしょうが!!」

「なんだやんのか!?」

後ろから首を絞めてくるユーリエ。

あ、ちょっと待って。死ぬ死ぬ。

卑怯だぞ! 正面から殴り合いしようぜ!

「そもそも、これはあなたが始めた物語でしょうが! ちゃんと責任をとれ!」

「俺の嫌いな言葉の一つが責任だ。二度と俺の前でそんなこと言うな!」

「このクズ男!」

「うるさい! クズ女!」

ぐおおおおおおお! 酸欠、酸欠になる……!

首が……締まる……!

「……なんで僕、この子たちの口車に乗せられちゃったんだろう……」

マガツヒ様の言葉を受けて、俺もどうしてこんなことになったのかと、ふと思い返すのであった。

スラム街の一角。

そこには、表にいる人々はまったく寄り付くことはない。

好んで治安が最悪のスラム街に来る者はいないし、面白半分で首を突っ込んだ者は、そもそも中枢に来る前にスラムの住人たちに食い物にされてしまう。

たいていは少々痛い目を見て表に逃げ帰るものだが、最悪の場合は死体となって転がっているのが、この場所だ。

だが、スラム街で起きる犯罪行為を、表の官憲はまともに捜査しない。

そもそも、犯罪が起きる場所であり、犯罪を抑止する必要性を感じていないのが、アリドーラの施政である。

しかし、それが悪いことのなのかと問われると、少なくとも表の人々はまったくそう思っていない。

何せ、スラムの人々は税を納めていない。

ならば、ちゃんと税を納めている自分たちにそれらが還元されるべきであり、他人に慈愛の精神で施しを与えるなんて許されない。

そんな余裕のある生活を送っていないのだ。

それが分かっているからこそ、スラムの住人はアリドーラに救済を求めることはしない。

その代わり、街に彼らが住み着くことくらいは認めている。

それが、この街のスラム街であった。

だが、近時、その誰もが食い物にされる弱肉強食のスラム街で、異色の存在が現れた。

そこは、決して立派で大きくはなかった。

天使教の教会に比べると、質素というほかない。

しかし、スラムの一部にあるとは思えないほど清潔に維持されている教会だった。

そこに、一人のシスターが入っていく。

彼女は教会の中で静かに祈りをささげる男を見て、ほうっと熱い息を吐いた。

その祈りの姿は美しく、これ以上敬虔な態度はないと言えるほどだった。

邪魔してはいけないと思いつつも、どうしても自分を見てほしくて、彼女は声をかけた。

「ただいま戻りました、ライアー教祖」

そう声をかけると、祈りをささげていた男は、ゆっくりと振り返って優しい笑顔を見せた。

「おかえりなさい、ダリア」