軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

外伝2 第二十一話 ひどい兄

「それなら……」

俺の言い分を聞き、アレンは真っすぐに俺を見据えた。

「パトリシアさんが助けてって言えば……あんたは動いてくれるのか?」

「彼女が本気でそれを望むならば、な」

倒せるかどうかはわからない。

だが、助けてと言われて見捨てるわけにはいかない。

少なくとも、その声に応えてここまでやってきた。

助けてという声を無視したら、SS級冒険者シルバーを否定することになる。

それだけはできない。

「なら、俺が説得してくる」

アレンは外に出る準備をすると、乱暴に部屋の扉を開けた。

だが。

「外出は認められない」

「退けよ……こっちは急いでるんだ!」

「認められない」

立ち塞がったのはサディアスだった。

その表情に苦悩が見え隠れしているが、アレンは気付かない。

「自分の妹が大事じゃないのかよ!?」

「……エルフのためだ」

「そうやって問題を先送りにして、何人犠牲になった!? 今ならシルバーさんがいる! 今、動かなきゃ、また千五百年の間に犠牲者が出るぞ!?」

「……〝長きもの〟は恐ろしい化け物だ。どれほどの犠牲を払っても、世に放つわけにはいかない。討伐できる保証はどこにもない」

「そんなこと言ってたら……何も変わらないぞ!?」

「変わらなければ犠牲は増えない。それがエルフの決定だ」

「このっ……! 分からず屋! もういい!!」

アレンはサディアスの横を通り抜けようとするが、サディアスはそんなアレンの腕を掴んで止めた。

「放せよ」

「行かせるわけにはいかない」

「なら押し通るだけだ」

そう言ってアレンは剣に手をかけた。

そんな二人に対して、俺は言葉を発する。

「行かせてやってくれ」

「……どういう風の吹き回しだ?」

「どうしても行かせないというなら、転移でも何でも使って送り届ける」

「……」

「アレンには彼女と話す権利がある。友人だからな。それを俺は尊重したい」

俺の言葉を聞いたサディアスはしばし迷ったあと、アレンの腕を離した。

それを見て、アレンは急いで走り始めた。

勝てると踏んで、サディアスに挑んだわけじゃないだろう。

完全に暴走している。

だが、時に暴走することも大事だ。

「……兄弟はいるか?」

「……ああ」

「そうか……私はひどい兄だろうか……?」

「どうだろうな。兄弟の間柄は他人が評価することではないだろう。弟や妹にとって……良い兄や良い姉であれば……それでよいと思う」

今は亡き兄や姉を思い出しながら俺は呟いた。

世間の評価は関係ない。

兄弟の間柄は、兄弟が決めることだ。

少なくとも、亡くなった兄や姉は、俺にとっては良い兄であり、良い姉だった。そういう記憶がたくさんある。

パトリシアにとって、サディアスもそうなのだろうことは見ていればわかる。

「……結界の更新は三百年から五百年に一回。アグネス様の子孫の中で、逸材が出てきたときに行われる。エルフの出生率は低いが、婚姻政策により、アグネス様の子孫はそれなりに多い。その中でも……私は逸材だった。しばらくの間、私は生贄として育った」

「……」

「私はエルフの国のために……この命をささげるのだ、と。そう信じて生きてきた。特例として旅にも出してもらえた。外の世界も見てきた。後悔がないように。そして……パトリシアが生まれた……私など比べ物にならない逸材だった」

たしかにサディアスはエルフの中でも優秀だ。

しかし、素質という点ではパトリシアがはるかに上だ。

保有している魔力量が違う。

大賢者アグネスの血をより色濃く受け継いだ、ということだろう。

「国の方針が変わり、生贄は……パトリシアに決まった。私とパトリシアの力の差が誤差で収められるレベルではなかったからだ。その時……私はどう思ったと思う?」

「どう思った?」

「……良かった、と思った。安心した。私はまだ生きていけるのだ、と思った。一瞬でもそう思った自分が恥ずかしかった。そんな風に思った自分を隠したくて、自分を磨いた。強くなれば……そんな自分から逃げられると思ったのだ。けれど……心の底にいる弱い自分は消え去らない」

「そんなものだろう。生者が生きたいと願うのは当たり前だ」

「だが、兄としては失格だ。今も……消え去りたい。どうして私はあの少年のように説得にいけない? 逃げろと妹に言えない? どうして私は……こんなにも恥知らずなんだ?」

サディアスは壁に寄りかかり、弱弱しく呟いた。

抱えてきた苦悩を打ち明けるのは、きっと俺という存在が可能性を見せてしまったから。

無理なら諦められた。

しかし、いけるかもしれないと思った。

思ってしまった。

「あなたは強い……懇願すれば妹を助けてくれるか……?」

「答えは変わらない。彼女が望むかどうか、だ。助けを求めない者を助けるほど暇じゃないんでな」

「そうか……では……無理な相談だな。パトリシアの決意は固い。あの子はこの国を守る気だ」

「それも一つの生き方だ」

すべてを決めるのは本人だ。

そして本人に影響を与えられるのは、きっと今は一人だけ。

俺はその結果を受け止めよう。

たとえ、どんな結果であったとしても。