作品タイトル不明
外伝2 第二十話 残酷な真実
「な、なぁ……あんたって弟子とか取ってるのか?」
二日目の夜。
今日もパトリシアと出かけていたアレンは、そんなことを聞いてきた。
「一人だけ弟子を取ったことがある」
「え? どんな弟子を取ったんだ?」
「分類でいえば魔法剣士だな」
「そ、それじゃ! 俺も弟子にしてもらえば魔法剣士になれるかな!?」
「お前には向いてない」
アレンは素質がある。
そんなことは見ていればわかる。
窮地にあっても冷静だし、目的を達成するために必要なこともわかっている。
モンスターに追いかけられているときにも、弱点を教えられるし、民を逃がすために自分に注意をひきつけるといった行動がとれる。
胆力もあるし、向上心もある。
あとは実力だけ。良い師に恵まれれば、大成するだろう。
だが、魔法の才能は別だ。
「どうしてだよ!?」
「魔法は素質だ。そしてお前に素質はない。大人しく剣の道を極めろ」
そのために鬼姫レイナにアレンを鍛えるように言ったのだ。
俺ではアレンを育てられないから。
「頼むよ! そこをなんとか!」
「急にどうした?」
「いや……今日、パトリシアさんと将来、冒険をしたいって話になってさ……今の俺じゃそれは難しいから。魔法を使えたら、いろんな状況に対応できるだろ?」
「……」
少し黙ったあと、俺は深くため息を吐いた。
アレンは不思議そうに俺を見つめてくるが、俺は何も言わない。
言えないの間違いか。
なんと言えばいいかわからない。
アレンは今、強いモチベーションを持っている。
それはパトリシアという存在だ。
どんな感情かはわからない。
けれど、彼女との将来のために強くなりたいと思っている。
だが、しかし。
彼女は、明日の早朝には生贄として結界に捧げられる。
「な、なんだよ……? 怒ったか? たしかに安易に魔法を教えてほしいってのは失礼かもしれないけど、こっちも真剣なんだ!」
「……怒っているわけじゃない」
静かに告げると、俺は天井を見上げる。
どうするべきか。
今最善と思えるのは、アレンには黙っておくこと。
すべて終わったあと、知ったほうがアレンのためだ。
何もかも、俺やエルフの国のせいにできる。
けれど、ここで話を聞いてしまえばアレンも関係者だ。
知っていながら助けられなかったという無力感を味わうことになる。
それは避けたい。
避けたいが……。
優先すべきは俺が思う最善ではない。
アレンならどう思うか、だ。
自分がアレンの立場なら……教えてほしいと思うだろう。
どれだけ無力感を味わっても、どれだけ無駄であっても。
それを判断するのは自分でありたい。
「――アレン」
「え……?」
「何も質問せず、選べ。聞くか、聞かないかを」
「ど、どういうことだよ? 内容によるだろ……」
「その程度の覚悟なら聞くな」
はっきりと告げると、アレンは困惑した表情から真剣な顔つきへと変わった。
俺が本気だとわかったからだ。
そして。
「あんたがそこまで言うなら大事な話なんだろうな……聞くよ。聞かないほうが楽だろうけど、逃げたくない」
「……心して聞けよ」
「ああ」
アレンは頷く。
一度、口を開いた後、俺はまた閉じた。
どうにか傷つけないで伝える方法を頭で考えていたからだ。
しかし、それは諦めた。
どう伝えたって傷つく。
ならばはっきりと伝えるべきだろう。
「千五百年前、エルフはモンスターを封じた。その結界は血によって維持されている。生贄といってもいい。結界を発動させた大賢者アグネスの血筋。それが生贄の条件だ」
「ちょ、ちょっと待てよ……」
「……明日の早朝、儀式が行われる。結界を更新する儀式だ。そこで生贄が結界に捧げられる。その生贄は――」
「嘘だ! なにかの間違いだろ!?」
矢継ぎ早に入ってくる情報に耐えきれず、アレンはそう叫んだ。
荒い息を吐きながら、アレンは嘘だと呟く。
「そんなことあるもんか……そんなはず……」
「事実だ。残念だが……生贄はパトリシアだ。だから……お前と彼女は旅には出られない」
「このっ……! 知ってたのか!? なんで黙ってた!? 時間があれば!」
「二日じゃ時間は足りない。なによりエルフ側の要請だ。邪魔はしないでほしい、と」
「従うのか!? モンスターが封印されているからってなんだよ! あんたなら!」
「倒せるかもしれないし、倒せないかもしれない。倒せない場合、エルフの国は亡びる。他の国も、だ。その危険は冒せないからエルフはずっと結界を維持してきたんだ。好き好んでやっているわけじゃない。彼らには彼らの矜持がある。俺はそれを尊重する」
「尊重……? 女の子を犠牲にして生き延びる選択を尊重するのか!? パトリシアさんは……旅に出たがってた! 彼女は死にたいだなんて思ってない!!」
「かもしれないが……俺は直接、助けを求められたわけじゃない。俺が受けたのはエルフの総意として、何もするなという要請だ」
「助けてほしいに決まってる! 俺が保証するよ!」
「お前の保証に意味はない。どれだけ死にたくなかろうと、どれだけ旅に出たかろうと、彼女は自分の役目を受け入れている。それが国を守るためだと信じているからだ。他人がそこに介入するのは身勝手というものだ」
彼女が俺に助けを求める機会はいくらでもあった。
アレンを通じて、助けを求めることは可能だっただろう。
けれど、彼女はそれをしなかった。
ならば、俺から何かをすることはできない。
「そんなことって……」
「彼女には彼女の決意がある。〝俺〟にはどうすることもできん」