軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

外伝2 第二十二話 説得失敗

「パトリシアさん!」

アレンは息を切らして、パトリシアの部屋を訪ねていた。

護衛によって止められるが、構わず声を上げる。

「事情は聞いたから! 君が……死ぬ必要はない! シルバーさんがなんとかしてくれる! 俺も頑張るから! だから!」

「去れ! 人間!」

「巫女様の最後の夜だぞ!」

「ふざけんな! 夜なんてこれからいくらでも迎えられる! 迎えさせてみせる! 退けよ!!」

二人がかかりで取り押さえられたアレンは、振りほどこうと暴れる。

だが、それは部屋の中から聞こえてきた声によって収まった。

「乱暴はしないでください」

「パトリシアさん!」

扉の向こう。

そこにパトリシアがいる。

それを察して、アレンは扉に近づく。

パトリシアに制された護衛は、困惑しながらもアレンを止めたりはしない。

「パトリシアさん! シルバーさんに助けを求めよう! あの人ならなんとかなるから!」

「……それについては考えていました」

「なら!」

「ですけど……これはエルフの問題であり、この国の問題であり、この大陸の問題です。偶然、この場に来たシルバー様にすべてを背負わせるわけにはいきません」

「だ、大丈夫さ! あの人は強い!」

「ええ、シルバー様はお強い。助けてといえば助けてくださるでしょう。しかし、もしも倒せなければ、エルフの国は滅ぶ。エルフ以外の生物も死ぬでしょう。多くの命が失われます。私は……自分が生きたいからといって、多くの人たちに死の可能性を与えられない。そして……あなたの憧れの人に命をかけてほしいとも言えません」

「そ、そんなことあの人は気にしない! あの人は助けてと願う人を助けてくれる! それがあの人の信念だからだ!」

「かもしれません。ですが、あの人が私を助けるとしたら……それは私のためではありません。意味もなく、エルフや大陸の運命を背負い込んだりしない。きっと……あの人はあなたのために動くのでしょう。だからこそ、私は頼れない。あなたと仲良くなったのは……そんなことを意図したものではないから」

アレンにはパトリシアの言っていることが理解できなかった。

何に拘っているのかがわからなかった。

「パトリシアさん……!」

「あなたを利用した。そう思われるのも耐えられない。そう見られるのも耐えられない。私にできた最初の人間の友達。私は……あなたも守りたい。ごめんなさい、一緒に旅へ出られなくて」

シルバーに頼るのは簡単だ。

しかし、頼ってなんとかなる保証はどこにもない。

勝ったとして、シルバーが無事な保証はどこにもない。

国が、大陸が無事な保証はどこにもない。

自分はきっと罪悪感に耐えられないし、その引き金を引いたアレンも耐えられない。

だから、パトリシアは現状を維持するための犠牲を受け入れた。

希望に満ち溢れた未来。

アレンと共にそれを迎える可能性が見えてしまったから。

せめて、その未来にアレンがいる世界を守りたかった。

自分が現状維持すれば、シルバーに無理な戦いを強いることはせずに済む。

余計な被害を大陸に出さずに済む。

それがパトリシアの結論だった。

「細かいことはどうだっていい! 俺は君に生きててほしいし、みんな、本当は君に生きててほしいって思ってる! そうに決まってる! なら、助けてって言いに行こう!」

「……ありがとう。アレン様」

その言葉を最後に、扉の前から人の気配が消えた。

それを許せば、もう会えない。

もう引き留める機会はない。

それを察して、アレンは叫んだ。

「パトリシアさん! パトリシア!!」

しかし、もう返事はかえってこない。

説得は失敗。

その現実にアレンは茫然としながら、護衛によってその場から連れ出されたのだった。

■■■

部屋に戻った時。

そこにはシルバーの姿はなかった。

どこに行ったのか。

それを気にする元気はアレンにはなかった。

部屋の隅で膝を抱えて座り込み、頭をがくりと落とす。

失敗するなんて考えてもいなかった。

パトリシアも本心では生きたいと願っている。そう信じて疑わなかった。

けれど、パトリシアは生きたいという気持ち以上に、守りたいという気持ちが強かった。

運命だからとあきらめているわけじゃない。

それが一番だと自分で選択していたのだ。

守りたい人の中に、自分も入っている。

それを知り、アレンは無力感に苛まれていた。

知らず知らずのうちに涙が流れてくる。

どうして自分はこんなにも無力なのか。

助けたいと思う人を迷わず助けられる力がない。

「やっぱり……英雄にはなれないか……」

幼い頃に夢見たこと。

語り継がれる英雄になるという夢。

なんの才能もない、ただの村人の息子。

それは過ぎた夢だった。

心が折れる音がした。

自分なんて、という思いが胸の内を支配していく。

自分なんかには無理だった。

大人しく村に帰るべき。

そんなマイナスな思考が溢れかえってくる。

「説得は失敗だったか?」

「……」

いつの間にか、シルバーが部屋に戻ってきていた。

声の調子的に、やっぱりか、という感じだった。

そうだ、そのとおりだと、アレンは軽く頷いた。

「ずいぶんと落ち込んでいるな? 数日、仲良くなっただけの人だ。切り替えろ」

「……日数がそんな大事か? 数日しか一緒にいなくても……俺にとっては大切な友人だ! 切り替えられるわけないだろ!!」

シルバーの物言いにアレンは目に涙をためながら怒気をあらわにした。

しかし。

「なら、いつまでも床を見て泣いているのか? それに何の意味がある?」

「他人事だと思って……!」

「他人事だ。当たり前のことを言うな。それで? お前はどうする? 説得を断られて、めそめそ泣いているのか? 優雅な時間の使い方だな」

「……俺に殴られたいのか?」

「殴る気力があるのか?」

問い返されて、アレンは視線をそらした。

そんな気力が自分にはないと、よくわかっていたからだ。

「やれやれ、その様子じゃ仕掛けは無意味か」

「仕掛け……?」

「大変そうな相手なんでな。少し仕掛けをしてきた。だが、やり合わないなら無意味だな」

「……戦う気なのか?」

「理由があれば、な。今の俺には理由がない」

シルバーにそう言われて、アレンは自問する。

シルバーの言う理由。

自分はまだ持っているのか、と。