軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百二十七話 遊びの産物

城の中を守る近衛騎士隊は三部隊。

第一騎士隊は玉座の間を守り、そのほかの二部隊も宰相によって要所に配置されている。

となると城全体の守備を担当するのは軍に所属する兵士だ。

本来なら近衛騎士隊が大部分を占めるはずの城の守備だが、皇帝や城の要所を守るために使っている以上は仕方ない。軍を使わないわけにはいかないのだ。

宰相としても苦渋の選択だったんだろう。

軍部の多くはゴードンを後押ししている状況だ。出来れば使いたくないが、使わないわけにはいかないから比較的穏健派の将軍を城の守備につけた。

その将軍はエストマン将軍。年は六十過ぎの老将だ。

帝国中央部で部隊を預かる将軍の一人であり、常にニコニコしている好々爺という印象だった。

実際、その印象は間違っておらず、若い兵士を孫のように可愛がり、自分の培ってきた知識を兵士たちに伝える人だ。

周りの評判はすこぶる良く、兵士たちはもちろん民からも人気の高い将軍の一人だ。当然ながら父上からの評判も高かった。

しかし。

「ゴードンについたか……」

フィーネとミアと共に後宮に向かっていた俺は階段に集まる兵士たちを見て、そうつぶやいた。

このフロアの兵士たちは何かを探すように何人も行ったり来たりしており、階段をずっと見張っている。

しかも慌てた様子で。

警備ならば決められたルートの巡回と、数人が立っていれば済む。慌てて何かを探すのはおかしい。

「敵ですの? ならドーンっと」

「この段階でバレたら動きづらくなる。後宮に行くまで多くの兵士が立ちはだかるぞ」

「そうですね。なんとかやり過ごさないといけません」

「回りくどいですわ……」

俺とフィーネの意見にミアは口をとがらせる。

ミアの実力なら強硬突破でもいけるといえばいけるだろうが、後宮から母上たちを連れてこなければいけない。

せめて後宮前までは騒ぎを起こしたくはない。

「なんとかあいつらの視線を逸らせないか?」

「逸らしてどうするんですの?」

「通路の向こう側の部屋に入りたい」

「階段を降りれませんですわよ?」

「いいんだよ。考えがある」

「それならお安い御用ですわ」

そう言ってミアは唐突に近場の窓に向かって弓を構えた。

そして音もなく魔力で出来た矢を放つ。

一瞬、何をしているのか理解できなかったが、俺たちの反対側で甲高い音が響いたのを聞いてミアがなにをしたのか察しがついた。

「なんだ!?」

「急げ!!」

兵士たちの視線が音のほうへ向かう。

それを見てミアが合図を出す。

「今ですわ!」

すーっと通路を滑るように移動すると、ミアは目的の部屋の扉を音もなく開き、俺とフィーネを呼び込む。

俺たちはできるだけ足音を立てないように通路を渡り、無事部屋に入った。

「一体、ミアさんは何を?」

「外に放った矢を曲げて、別の窓から侵入させたんだ。それで何かを割ったんだろうさ」

「正解ですわ。向こう側の窓が開いているのは確認済みでしたもの。簡単ですわ」

そう言ってミアは次はどうするんですの? と問いかけてくる。

ミアは楽勝みたいに言うが、まったくもって簡単ではない。

魔弓と魔法は違いこそあれど、原理としてはあまり変わらない。

だからミアがやったことは魔導師でもできる。理論上は。

自分の視界から離れた魔法を消滅させず、城の外側にぶつけることなく反対側の窓に通すことができれば、だ。

繊細なコントロールと空間把握能力。消滅させない魔力量に加えて、絶妙な力加減。しかもそれをミアは一瞬で行った。

神技もいいところだ。

藩国が 朱月の騎士(ヴァーミリオン) を捕まえられない理由がよくわかった。

こんなのが前触れもなく夜中に襲ってきたら、防げるわけがない。

少しでも窓が開いていれば音もなく護衛は射抜かれる。射線が通っていなくても矢を曲げてくる。

ミアの前では護衛はほとんど役に立たない。

「なんですの? 私の顔をじっと見つめて?」

「いや、実はすごい奴だったんだなと思ってな」

「実はとはなんですの!? 実力を見込んで依頼したんじゃありませんですの!? 失礼ですわ! あまりにも失礼ですわ!!」

「私はミアさんがすごい人だと知っていましたよ」

「さすがフィーネ様ですわ! どこかの偏屈皇子とは人を見る目が違いますですわ!」

「まともに喋ってくれたらもうちょっと正しい評価ができるんだけどな」

「これはお爺様直伝の淑女の喋り方だと言ったはずですわ! きっとお爺様が会った真の淑女はこんな喋り方だったに違いありませんですわ!」

「そうだといいな。その魔弓もその爺さんから教わったのか?」

「そうですわ! 私のお爺様はすごい人なんですわよ!」

ミアを仕込んだ爺さんか。

魔弓なんて特殊すぎる技術を持ち、これだけの弓使いを育てるということはその爺さんも只者じゃない。

魔弓の達人という話になると一人の人物が思い浮かぶ。おそらくその人物の関係者だろう。きっとミアも。

興味はあるし、ゆっくり話を聞きたい。しかし今は興味を優先するところじゃない。

「まぁいずれその爺さんの話は聞かせてくれ。今はとにかく下へ急ごう」

「下へ急ごうって……階段は封鎖されているのですわ。私だけなら外から行くという手がありますが、フィーネ様もいる以上、無理ですわよ?」

「そんな手は使わない。誰が見てるかわからないしな」

そう言って俺は部屋に飾られている七枚の肖像画の順番を変え始める。

俺のわけのわからない行動にミアは首を傾げた。

「何をしているんですの?」

「遊びの延長さ」

「この状況下で遊んでいるんですの!?」

「ああ、遊んでる。時には遊びが役に立つのさ」

そう言って俺はすべての肖像画の順番を変えた。

今までと変わらない物もあるし、さきほどとは位置が違う物もある。

それを確認すると、俺は中央の肖像画を外す。

すると、さきほどはなかったはずの隠し穴が出現していた。

その穴に手を入れ、奥にあるスイッチを押す。

そのスイッチに反応し、肖像画と反対側の壁に隠し扉が出現した。

「なっなっなっ!?」

「この城は皇帝が変わるたびにさまざな改修を受けてきた。その影で皇帝たちはいろんな隠し通路や隠し部屋を作ってきたんだ。その隠し通路や隠し部屋のほとんどは後世には伝わってない」

「伝わってないのにどうして知っているんですの!?」

「そういう隠し要素のヒントは勉強で使われる立派な書物ではなく、教師たちが価値のない物と判断した日記なんかにあるんだよ。俺は勉強はしなかったが、遊びの一環でそのどうでもいい日記なんかを読み漁って、隠し要素を見つけてきたんだ」

「勉強だけが役に立つわけではないということですね?」

「その通り。この城は俺の庭だ。かくれんぼやら鬼ごっこで負けたことは一度だってない。遊びの産物だがな。その通路は三階下まで通じてる。これで相手の意表をつくぞ」

そう言って俺はニヤリと笑いながら通路に入ったのだった。