軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百二十六話 合流場所

「正午の鐘か」

「いつでも掛かってこいですわ!!」

「すぐには動かんよ」

フィーネの護衛として、俺の部屋に来ていたミアが意気込む。

すでにミアは弓を持って臨戦態勢だ。準備万端、いつでも行けるという姿勢を見せるのは構わないし頼もしい限りだが、今から気合を入れられて本番のときに力尽きても困る。

「なぜですの?」

「まだ武闘大会が始まったばかりだからですね?」

「そのとおり」

フィーネの言葉に俺は頷く。

しかし、ミアは首を傾げた。

「始まったなら動くのでは? 城の警備はいつもに比べれば相当手薄ですわよ?」

「武闘大会が始まったから動くんじゃない。武闘大会に注目が集まるから動くんだ。今はまだ始まったばかり。熱を帯びて、多くの者の視線が集中しているときこそ動き時だ」

「暗躍は人の見ていないところで。そういうことですね?」

「そうじゃなきゃ暗躍にはならないからな」

フィーネの言葉を受けて俺がフッと笑うと、ミアがぼそりと悪い笑みですわと呟く。

そんな悪い笑みが出る俺の考えが読める時点で、フィーネもだいぶ悪い奴になったと思う。

伊達に秘密の共有者ではないか。

「では大人しくしておくのですわ?」

「やれることはやる。アロイスはルーペルトのところにいったし、トラウ兄さんは今頃、クリスタのところだ。護衛の態勢は整った。ここからどう動くかは相手の出方によるが、予想できることもある」

「まどろっこしいですわ! 私は何をすればいいんですの!? 敵を見つけてドーンじゃダメですの!?」

ああもう! とミアが机をバンバン叩く。

明らかに悪い奴を成敗! という戦い方をしていたミアからすれば、今の俺たちの戦い方はまどろっこしいと感じてしまうんだろう。

ミアは義賊。悪い奴を見つけては攻め込み、罰を与える側だ。行動はすべて先手先手となる。

しかし、今は常に後手。慣れてないんだろうな。

「ミアさん。落ち着いてください」

「フィーネ様まで!? もう戦いは始まっているんですのよ!? 早く動いて、早く敵を倒すべきでは!?」

「その敵を見極めなければいけません。何も証拠がなく、だれかを攻撃すればより大きな混乱を城にもたらします。そうなっては敵の思うつぼです」

「それは……」

「安心してください。ちゃんとアル様が考えてくれていますから。そうですよね?」

フィーネが笑顔で俺に話を振ってくる。

それに頷き、俺はすぐに話し始めた。

また遮られてもかなわないしな。

「敵の第一目標は城全体の制圧。その後、人質の確保と天球の発動を行うはずだ。しかし、これには重大な問題がある」

「重大な問題とはなんですの?」

「天球の発動には最高純度の宝玉が必要になる。別名は虹天玉。虹のようにいくつもの色を持つ国宝級の宝玉であり、内部に閉じ込められている魔力もすさまじい宝玉だ。天球にはこれを最低でも三つ揃えて、特定の場所に安置する必要がある」

「国宝級ということは手に入りにくいんですの?」

「帝国軍の将軍であり、帝位候補者として軍部を掌握しているゴードンですら自力で揃えられるのは一つだけだろうな」

「それでは発動しないですわよ?」

「天球は帝都の最重要防衛機構だ。もちろん虹天玉はこの城にある」

いつでも発動できるように用意しておくのは当然のことだ。

重要なのはその場所だ。

「確実にある場所を一か所、私も知っています」

「ほう? それはどこだ?」

虹天玉の存在は国家機密に等しい。

大臣やら将軍やらならまだしも、フィーネが個人的に入手できる情報ではない。

だから自信ありげなフィーネに興味が湧いた。

「私もわかりますわ! 宝物庫ですわね!?」

「そんな簡単なところには置かない」

「なぜですの!? まとめて置いておいたほうが楽なはずですわ!」

「ほかの宝とは価値が違うということでしょう。ただの宝としても戦略的な観点から見ても。だからこそ、置くのは皇帝陛下の近く。確実に玉座の間にはあると思います」

「その根拠は?」

「そうでなければ宰相閣下はオリヒメ様に結界の修復を急がせたりはしないかと」

フィーネの言葉に俺は静かにうなずいた。

やはりフィーネの状況を見る目は磨きがかかっている。

これなら安心してミアを任せられるな。

「そのとおり。玉座の間には虹天玉が二個置いてある。まぁどこにあるかは俺にもわからんがな」

「では玉座の間を守り抜けばよいんですのね!?」

「玉座の間の警備は必要ない。最強の剣士が守りについている」

「やはり近衛騎士団長が皇帝陛下のお傍におられないのは、玉座の間を守るためなのですね」

「それ以外に理由は考えられない。まぁ父上の護衛は手薄にはなるが、宰相なら何か考えているんだろうさ」

アリーダは現状、帝都では最強戦力だ。

そのアリーダが結界の復活した玉座の間にいるということは、確実に二個は守れるということだ。

城にあるのは残り三個。ゴードンが自力で一個を用意していたとしても四個。最も危険な最大発動は回避できる。

残る虹天玉も近衛騎士で守れると宰相は考えているんだろう。

その証拠に第一騎士隊に加えて、さらに二つの騎士隊が城には残っている。

皇帝の傍には下位の五部隊のみ。数にしても心もとないし、闘技場はお世辞にも守りやすい場所ではない。

ぶっちゃけ、吸血鬼に襲われた時以来の手薄さだ。

それでも城の守りに人を割いたのは天球を発動されては外部からの援軍も望めないし、いざというときに逃げることもできないからだ。

宰相らしい堅実な策だといえるだろう。

「では私たちがすることはありませんですの?」

「そんなわけないだろ。俺たちはできるだけ虹天玉を守りつつ、人質になりそうな城の人間を外に逃がす。まずは逃走経路の確保とその人間たちの安全確保。この二つから始める」

「まだ人質になりそうな人間がいるんですの?」

「いるさ。皇帝には効果はないだろうが……その関係者を動揺させるには十分な人間たちがいる」

「後宮のお妃様方ですね?」

「そうだ。俺の母上はもちろん、そのほかの妃。そして皇太子妃の義姉上。義姉上はアリーダの姉だし、平民出身の妃である母上は民からの人気が高い。見捨てたとなれば皇帝に不信感を抱く臣下や民も増えてしまう」

「ええい! またまたまどろっこしいですわね!! 素直に母親を助けたいとなぜ言えないんですの!?」

ミアがまた机をバンバンと叩く。

それを見てフィーネが苦笑する。

「皇族ってのはそういうもんなんだ。家族より帝国の未来を守る義務がある。思っていても私情は優先させられない」

レオの代わりにこの帝都を守ると決めた。

だから母上には護衛をつけていない。

後宮にいる侍女たちだけでは乗り切れるかどうか。

そんな風に思っているとミアが強く机をたたく。

「軟弱なことを言うのはやめて欲しいですわ!! 家族を守れない人間に国が守れるわけありませんわ! そうでしょう!? フィーネ様!」

「そうですね。私もそう思います」

「ほら見なさいですわ! どうしても言えないなら結構! 私が勝手に助けますわ! もちろん容認してもらいますわよ!?」

そうミアは強く宣言した。

国相手に義賊なんてことをするだけはある。

正義感は強く、正しいと信じることを曲げない心を持っている。

ミアも尊ぶべき人材だ。

あまりフィーネを危険には晒したくはないと思っていたが、止めてもきっと彼女らは聞かないだろう。

ありがたいことだ。

「――頼む」

「任されましたですわ!」

「私たちはまず後宮に向かいます。お妃様方を救出したのちに合流いたします」

「ああ、それでいい。合流場所は玉座の間だ」

「玉座の間!? 正気ですの!? 城の一番上では逃げ場がありませんですわ!」

「通常の入口は封鎖されているだろうし、下にいけばいくほど敵も増える。アリーダが玉座の間を守っている以上、突破はほぼ不可能。追加の部隊はゴードンも送らないだろう。だからこそ、玉座の間なんだ」

「手薄になるというのは理解できますが……いくら近衛騎士団長でも数の暴力には勝てないかと。主だった人質候補が玉座の間に揃ったとなれば相応の戦力が送られてきますが?」

「それも問題ない。玉座の間には秘密の逃走ルートがある。知っているのは俺と宰相と近衛騎士団長。あとは父上だけだろうな」

「それは皇帝の逃走ルートということでは!? なぜあなたが知っているんですの……?」

「十一年前、父上が教えてくれた。玉座の間の隅で隠れている必要があってな」

かつて父上が皇国の大使と会っているときに、俺はそれを物陰から見ているように言われた。

しかし、見つかれば大事でもある。俺は牢屋にいるはずの皇子だからだ。

そこで父上は秘密の逃走ルートの入口に俺を隠した。

それはレオにすら教えていない。

男と男の約束だと父上に言われたからだ。

だが、その約束も今日までだ。

「きっと父上も許してくれるだろう」

そう呟きながら俺は椅子から立ち上がる。

そろそろ敵も動きだす頃合いだろう。

部屋にいればあっさり捕縛されてしまう。

「さて、行動開始だ」

そう言って俺たちは部屋を出たのだった。