軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百二十八話 泣き虫皇子

隠し通路を通って、下へ移動した俺たちはさらに隠し通路を使ってどんどん下へ移動していく。

そしてこれを抜ければ後宮内部の一室というところまでたどり着く。

「後宮にまで通じる隠し通路があるなんて、なんでもありですわね……」

「私はなんだか楽しかったですけれど」

あまりにも多い隠し通路に引くミアに対して、フィーネはニコニコとこの短い旅を楽しんでいた。

「しかし、皇子は脇が甘いですわね?」

「脇が甘い? どこがだ?」

「私の前で隠し通路を惜しげもなく見せた事ですわ。言っておきますが、私は義賊ですわよ?」

「それのどこが脇が甘いんだ?」

「侵入しようと思えば侵入できるということかと」

「ああ、そういうことか」

ミアは呆れたようにため息を吐く。

あれは若干馬鹿にしているな。

たしかにミアは他国の人間。しかも定義的には犯罪者だ。

そんな奴の前で俺は複数の隠し通路を使った。しかも脱出には皇帝専用の通路を使おうとしている。

すべて国家機密だ。

しかし、だ。

「やりたいならどうぞ。おすすめしないがな」

「できないと思っていますわね!? 私、人様の屋敷に入るのは得意ですわよ!?」

「自慢できることではないな」

「そ、それは自覚していますですわ! そ、そうではなくて!」

「アル様。状況的に国家機密と言ってられないという理由だと思っていたんですが、違うんでしょうか? 情報が漏れたなら塞いでしまえばいいとかアル様なら考えるかと思ってました」

「半分当たりだな。念を入れるならそれでもいいと思ってる。けど、それすら必要ないなとも思ってるのも事実だ」

フィーネが俺の言葉に小首をかしげる。

そんなフィーネに俺は真っすぐ続く通路の横を指さす。

「小さな穴が開いてないか?」

「開いていますね……これはなんですか?」

「罠だ。この通路に入った者を始末するためのな」

「罠!? 危ないですわ!」

ミアが俺の言葉に驚き、フィーネを自分の下へ引き寄せる。

良い反応だ。

「安心しろ。皇族が通路に入ったときは反応しない」

「なるほど。皇族の方は平気でも、それ以外の人間が使った場合は……」

「罠が発動する。どの隠し通路や隠し部屋もだいたいそうだ。だから意図せずに見つかった場合は皇族がまず点検に入る。歴代の皇帝が〝やましいこと〟があって作った物がほとんどだからな。大抵、罠もえげつない」

後世にも伝わらない隠し通路に隠し部屋。

なぜそんなものが作られたのか?

皇帝が裏でこそこそ何かするためというのが一番の理由だ。

この通路の場合は、正室にバレないように妃に会いにいくためのものだ。

たかがその程度でと思うかもしれないが、大抵正室は帝国の有力貴族の娘がなる。その後ろ盾を失いたくない皇帝の場合、正室のご機嫌は大事になる。

そしてそれがバレた場合は激怒されるだけじゃすまないのも皇帝はわかっている。だから侵入者には容赦ない。

侵入者防止用に結界が張ってある場合もあれば、即座に殺しにくる罠が発動する場合もある。

皇族だけは大丈夫なのは、自分と家族のためだ。くだらないことで後継者が死にましたでは話にならない。

俺たちみたいに城を探検する皇子だっているからな。

「だから城に侵入するなら隠し通路は使わないほうがいいぞ。死なないまでも罠が発動したり、回避したりすれば音がなる。城にいる近衛騎士たちはその音をきっと聞き逃さない。抜けたら即近衛騎士と戦闘は嫌だろ?」

「さすが帝国ですわね……やってることの規模が藩国とはえらい違いですわ……」

「帝国というか、皇族の方というべきでしょうか。申し訳ないのですけど……皇族の方は思いつくことが毎回少々変わっていますよね」

「濁さなくていいぞ。アードラーの一族は変人集団だからな。仕方ない」

大陸全土のすべてを手中に収めようとするとか始まりが変人すぎる。

統一すれば争いがなくなるかといえば、そんなこともない。自らの国を奪われた大陸中の民の怨嗟が皇族に向く。それをわかっていても、悲しみを止めるために略奪することを決めた先祖はきっと自分を神か何かと勘違いしていたんだろう。

そして子孫もそれを勘違いし続けている。

良いのか悪いのかは俺が決めることではない。のちの歴史家が決めるだろう。しかし、真っ当な考えではないことも確かだ。

そういう変人どもだから帝位争いなんていう馬鹿げたことを思いつくし、今日まで伝統として続けているんだ。

「普通では皇族は務まらないということですね」

上手くフィーネがフォローする。

その観点も間違いではないだろう。

広大な帝国の上に立つ以上、普通ではいけない。

普通では誰も上とは認めないからだ。

「たしかに皇子はだいぶ変わっていますし、確かにですわ」

「俺は比較的まともなほうだと思うぞ。なぁ? フィーネ」

「いえ、その、それはどうでしょうか……」

フィーネが曖昧な笑みを浮かべる。

なぜ、ここではフォローしてくれないのか……。

「エリク、ゴードン、ザンドラ、さらにはトラウ兄さん。こいつらより変なところなんて俺にはない」

「そうかもしれませんが……比較対象の方々が一癖も二癖もあるので」

「ならレオよりはマシだ。これならどうだ?」

「それはどうでしょうか……良い勝負だと私は思いますが……」

「良い勝負ですの!? レオナルト皇子については良い噂しか聞きませんですわよ!?」

「なに言ってんだ。皇帝目指す奴が変人じゃないわけないだろうが」

俺の言葉を受けてフィーネは何も言わず、曖昧な笑みを浮かべ続ける。

おかしい。俺に変人要素はないはずなんだが。

やはりレオと双子というのがまずいか。

「困った弟だ」

「断言してもいいですが、向こうも同じことを思っているはずですわよ。兄弟ってそういうものですから」

「ほう? なら戻ってきたらあいつに聞いてみよう」

あいつなら俺は比較的まともだと言うと思うけどな。

さすがの俺も一番まともなんて言わない。

普通過ぎる奴が皇族にはまだいるからな。

それから少しして出口が見えてきた。

俺が出口を開けると、そこは物置小屋だった。

「それじゃあ後は頼む」

「後は頼む? 一緒に来ないんですの?」

「悪いが君らより不安な面子がいるんでな」

「ルーペルト殿下たちですね? どうぞお気をつけて」

「別に俺は何もしないさ。グラウをあいつらのところまで送り届けるだけだ。俺は隠し通路に潜みつつ、状況を見ながら君らの手助けにも動く。しかしアテにはするな。隠し通路が近くになければ助けようがないからな」

「わかっていますわ。ここからは暴れてもいいんですわよね?」

「フィーネが許可を出せば、な。頼むぞ?」

「はい。お任せください」

そう言ってフィーネが一礼する。

それを見て、俺はそのまま出口を閉じた。

そしてグラウの姿を幻術で纏う。

「さて、皇族の普通人を助けにいくとするか」

末弟ルーペルトは性格的にアロイスの手を焼かせているだろうしな。

あれは良くも悪くも普通過ぎる。

そう思いつつ、俺は転移魔法でアロイスが城で与えられている部屋の隣に転移する。

ルーペルトはそこにいるはずだ。

すると。

「わーん! 部屋の外になんて出たくないよ! 死んだらどうするの!?」

「殿下、あまり大きな声は出さないでください……」

部屋の中から大きなわめき声が聞こえてきた。

それを聞き、俺はため息を吐く。

母親の保護下でずっと育ってきたルーペルトは親離れのできない甘ちゃんだ。

十歳の子供としてはそれは当然といえるのだが、皇族はいつまでも母親に甘えてばかりもいれない。

「この年になっても母親に甘えている俺の言えることでもないけどな……」

そう呟きつつ、俺は隣の部屋を出て、アロイスの部屋に静かに入る。

俺の姿を見て、アロイスが救世主を見るような表情を浮かべた。

「グラウ……!」

「手こずっているようだな」

「誰!? 顔が見えない!? 怖い!」

そう言ったのはベッドにしがみつく小柄な男の子。

少し癖のある茶色の髪に青い瞳。

半泣きの情けない表情を浮かべている。

この男の子が末弟のルーペルト。

皇族でありながら普通の子供。

俺が出涸らし皇子なら泣き虫皇子ってところだろう。

「初めまして、ルーペルト皇子。俺はグラウ。流れの軍師だ」

そう言って俺は怯えるルーペルトに向かって優雅に一礼をしてみせたのだった。