軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

8話 「お見合い」

もう僕はおしまいだ。

「アリス様! ぜひ私の騎士に!」

「あなた! 何をぬけぬけと! アリス様は私の騎士なのよ!」

「うふふ……冗談は顔だけにしてくださる?」

大勢がひしめき合う中、僕はポッカリとあいた空間で一人、羞恥に震えていた。

例えるならそう……売れ残った果物だろうか。

いや、それでは果物に失礼か。

「は……ははは」

今日の為に、足しげく聖フェリス学園に通った成果がこれだ。

声をかけてくる女生徒はおろか、近づいてくる者すらも皆無。

その結果生まれたのが僕を中心に広がる虚無の空間。

「……障壁魔法かな」

思わずそう呟いてしまうほどの絶望的な状況である。

「ユノさん! 大丈夫です! きっとこの中に、ユノさんの素晴らしさを理解してくれる素敵な人がきっといるはずです……!」

神様はそう言って僕を励ましてくれている。真紅の瞳を泳がせながら

「ふぅ……」

僕は自分を落ち着かせようと一つ深呼吸をすると、改めて周囲を見渡してみた。

予想通り、聖フェリス女学園の女生徒たちの多くは、まずアリスへと狙いを定めているようだ。

高貴な家柄と学年首席の実力。その重要な二つを兼ね備えた彼女であれば、この結果は当然だといえよう。加えて変わらず僕と接し続けてくれたことが証明している性格の良さ。

僕が女の子だったとしても迷わずアリスを選んだ事だろう。

そんな大人気のアリスなのだが、女生徒達のあまりの勢いに困惑し、金色のポニーテールをだらりと下げ苦戦している。

人気者はつらいぜ、というやつだ。

お、どうやらアリスが沈黙を破り何か言うようだ。

「せっかくのお誘いですが、私はそれに応える事はできません。なぜなら私には既に、心に決めた人がおります。私が幼い頃よりずっと憧れていたその人の剣となる事が私の今の目標なのです。ですのでどうか私には構わず、他の騎士をお探しください」

驚いた。なんとアリスは既に組む相手を決めているらしい。

アリスにそう告げられた女生徒たちは、みな一様に残念そうな顔をして落胆している。

その中には涙を流しながら悔しがっている者もいるようだ。

「そうだったのですか……残念ですが、今回は潔く諦めますわ。それにしてもアリス様ほどのお人がそこまで言うだなんて……ちょっと私、嫉妬しちゃいそうです」

そう言って儚げに微笑んだ女生徒がアリスの元を離れると、それに続くようにして一人、また一人とアリスの元を去っていく。

「皆さん、本当にすみません。ですがどうか、皆様に素敵な騎士が見つかるよう祈っています。つきましては私の幼馴染、ユノ・アスタリオなどは――」

アリスの元に残っていた女生徒たちは迅速にその場を去った。

「「……」」

目が合う。

アリスは気持ちの良い笑みを浮かべながら、こう口を動かした。

あ・き・ら・め・ろ。

やめて。本当に。泣いちゃうから。

次だ。次。

僕は改めて周囲を見渡す。

今までアリスばかりに注目していたが、どうやら他にも女生徒たちから人気の生徒がいるようだ。

「クライム様! どうか私の騎士になってください!」

「ちょっとあなた! ちゃんと列に並びなさい! クライム様に失礼でしょ!」

「うふふ……失礼なのはあなたの顔でしょ?」

物凄い既視感を感じる。

アリスが望み薄と知った女生徒達の多くは、クライムという生徒に狙いを変更したらしい。

「皆、僕なんかの為に喧嘩なんてしないでくれ。せっかくの美しい顔が台無しだよ?」

「クライム様……」

ちょろいなぁ。

それにしてもクライムか。初めて見たが、中々の色男のようだ。

一言で言い表すなら金髪碧眼のイケメン。

そしておそらくはそれなりの家柄なのだろう。言葉の節々に貴族特有の自信がにじみ出ている。

「こんなに沢山の女性からお誘いを受けるなんて、僕は幸せ者だな。だがすまない。僕はもう、誰と卒業までの道のりを共にするかを決めているんだ」

……まじか。アリスに続きクライムという男も、既に相手を決めているらしい。

……みじめだな僕。

こうしてたくさんの女生徒たちから熱烈なアプローチを受ける者がいる一方で、僕のように誰からも見向きもされない者もいる。

いや、というか、もしかして僕だけなのでは……?

そんな事を思って、周囲を見渡すと、僕と同じように周囲に障壁魔法を展開させている者がいた。

「「…………」」

目が合う。マロだった。

マロは一瞬バツの悪そうな表情を浮かべると、僕の元に近づいてくる。

「おいおいもしかしてまだ誰からも声をかけられてないのかぁ? ユノぉ?」

「……そうだけど。マロもでしょ?」

「お前と同じにするな。ちょうどさっき俺に群がってきた女どもの誘いを断った所だ」

本当だろうか? いや、でもあり得ない話じゃない。マロはこう見えて魔法の成績は優秀だし、家柄も確かだ。

「なんで断ったのさ。もしかしてマロももう相手を決めているとか?」

「そ、そうだよ。だから別に人気が無いとかじゃないんだ」

マロはそう言って鼻息を荒くすると、腕を組んで威張りだす。

「それに比べてお前はもう詰みだな。無能でペテン師なお前に声をかけるバカはいないだろうぜ。でも安心しろよ。学園間での生徒の数は同数。つまり最終的にはお見合いに失敗した者同士で組むことが決まっている。余りもの同士卒業までよろしくするといいさ」

なるほど。それを聞いて少し安心した。

どうやら卒業まで守るべき姫役がいないと言う訳ではないらしい。

でも、そうなった場合、僕は卒業までの間、ずっと後ろ指を指されてバカにされる事になるだろう。

それが僕だけになら問題はない。だが、そんな僕と契約した神、アテナは皆からどう思われるだろうか。

先を見通す事など僕にはできないが、決して明るい未来ではないだろう。

「……ん?」

そういえば神様の姿が見えない。

僕は焦って周囲へと視線を巡らせる。すると――。

「あの! ユノさんのお姫様になってくれませんか! 素敵な人なんです! 優しくて、強くて、とってもかっこいい人です!」

……神様。

僕は目頭が熱くなるのを自覚した。

そうだ。何を弱気になっている。

神様があんなに必死に僕の為に頑張ってくれているのに、当の僕がこんなんで良い筈がない!

「誰か! 僕を騎士にしてくれませんか! アスタリオ家のユノです!」

僕は神様に負けないくらいの大声で講堂全体に向けて叫ぶ。

白い目を向ける者。鼻で笑う者。無視する者。

反応は決してよくはない。けれど何もしないよりはずっといい。

そうしてしばらく声をあげていると、一人の女生徒が近づいてくる。

「あの……私の事、覚えておりますか?」

カールのついた栗色の髪が不安気に揺れる。

覚えている。覚えているとも。

僕が初めて聖フェリス女学園に潜入した時に、初めて声をかけた二人組の内の一人だ。

「もちろんです。あの時は話の途中で席をたってしまい申し訳ありません」

「い、いえ、私の方こそ、まさかあなたがユノさんとは知らずに酷い事を……」

そう言って彼女は申し訳なさそうな顔をして、しおらしくしている

「とんでもない! 誤解とはいえ、僕の噂は決して良い物ではありませんでしたから」

僕がそう言うと、彼女は安心したかのように、やわらかい笑みを浮かべて僕を見つめる。

「そう言っていただけると幸いですわ。私の名前はアイン・スタット。お気軽にアインとお呼びください」

「ではアイン。僕にも名乗らせてください」

僕はそう言うと、ここぞという勢いで片膝を地につき、アインを見上げる。

勝負所である。非常に良い流れだ。自惚れでなければ、アインは僕に対して悪印象を抱いていない。

僕は深く息を吸うと、自らの名を――。

その時だった。

講堂に一つしかない両開きの扉が重厚な音を立てて開いていく。

そう、扉が開く、それだけの事だ。

それなのに、僕を含めた大勢が動きを止めて、開いていく扉に視線を奪われていく。

「嘘でしょ……? まさか……孤高の月が動くというの……?」

静まり返った講堂内で女生徒の誰かがぽつりとそう呟いた。

僕は思う。

……なぁに? 孤高の月って。