軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

9話 「孤高の月」

……なぁに? 孤高の月って。

僕がそう疑問に思った瞬間、口のように大きく開かれた扉から一人の少女が圧倒的なオーラを 纏(まと) って現れる。

僕はその姿を見た瞬間、息を飲んだ。

あまりの衝撃に時間が止まったような錯覚すら覚えた程だ。

コツ、コツと静寂に包まれた空間に足音が響く。

優雅に、気高く、そして美しく少女は講堂の中心へと進む。

僕を含めた誰もが、その美しい白銀に目を奪われていた。

あれは……ルナ……だよな。

間違いない。銀色の髪、深い紫を宿した瞳。そしてこの場を支配する程の圧倒的なオーラ。

だが、それが分かっても僕にはどうしても理解できない事がある。

彼女、ルナが思わずため息をついてしまう程の美少女なのは認めよう。しかし、それだけでこれほどの注目を浴びるだろうか。

「アイン、あの子は?」

僕がそう聞くと、アインは驚いたように目を見開く。

「ルナ様をご存じありませんの?」

「いや、名前は知ってるんだけど、なんでこんなに注目をあびてるんだろうと思って」

「……彼女の名はルナ・フレイム。四大貴族が一つ、フレイム公爵家の御令嬢ですわ」

なるほど。フレイム家か。道理で最初名前を聞いた時、聞き覚えがあったはずだ。

「そうだとしても、さすがにこの状況はおかしくないかな」

「いいえ。彼女がこの場に現れた。その時点で既に異常事態ですの」

……わからん。

高名な貴族の令嬢とはいえ、彼女も聖フェリス女学園の生徒だろう。別段ここに現れても不思議はないはず。

「ユノさんはご存じないかもしれませんが、彼女は大の人嫌いで有名ですの。入学した当初から伝統行事であるこの催しへの不参加を公言しておりましたわ」

「……つまり、自分の傍に騎士を置く気は無かったって事?」

「ええ。その通りですわ。それなのに――」

そう言ってアインは続く言葉を飲み込んで、ルナへと視線を移した。

ルナは講堂の中心へと来ると、降り注ぐ視線などお構いなしといった様子で、講堂全体を優雅に見渡している。

……動けない。

ルナの圧倒的な存在感にあてられて、声を出すのはおろか、動いてはいけない空気が出来上がりつつあった。

そんな中、我先にとルナの元へと飛び出した者がいた。

その者は、金色のポニーテールを振りながらルナへと近づくと、美しい姿勢で 傅(かしず) いた。

「お久しぶりです。ルナ様」

……アリスだった。

これには僕もびっくりだ。いや、考えてみればアリスのローゼ家も四大貴族の一つとして数えられていた事を思い出す。恐らくそのつながりだろう。

「あら、アリス。久しぶりね」

そうルナが答えると、フェリ女の生徒たちの間に動揺が走る。

「孤高の月が……あんなに親し気に……さすがアリス様といったところですわね」

それは隣のアインも同じだった。信じられないものを見るような目でそう言うと、アリスとルナを交互に見ている。

それにしても、孤高の月ねぇ? かっこいい二つ名だけど、ぼっちのルナって意味と同義なんじゃ……。

そんな中、この緊迫した空気の中、二人の元へと踊りでる影が一つ。

「お初にお目にかかります。エルロード伯爵家が嫡子、クライム・エルロードと申します」

金髪のイケメン、クライムだ。大した根性である。だが、家の名を聞いて納得もした。

エルロード家といえば我がアスタリオ家と並ぶ武勇を誇る名家である。

だが、そんなクライムの事などお構いなしに、アリスが神妙な顔で口を開く。

「ルナ様……この場に来たという事は……考えを改めたという事でしょうか?」

「いいえ。今も私は一人が好きよ? けれど聞けばどの道騎士がつくように調整がされているらしいじゃない? だったらどこの馬の骨か分からない者を傍に置くよりは、私自身で決めた方が有意義だと思ったまでの事よ」

「……では、私をお傍に。この日を待ち望んでおりました。約束通り、この場にいる誰よりも強いと自負しております」

「アリスさん。それは聞き捨てなりませんね。このクライム・エル――」

「そうね。確かに噂は耳にしているわ。フェリス魔法騎士学園で学年首席だそうね? さすがだわアリス。やはりあなたは私を飽きさせない」

クライムも仲間にいれてあげて!

「では……!」

「けれどアリス。あなたはさっき自分こそが最も強いと豪語していたけれど、それは本当かしら?」

「……どういう意味でしょうか?」

不穏な空気が講堂を支配する。

僕はごくりと唾を飲み込むと万が一の事を考え開かれたままの扉の位置を確認する。

「あなたは確かに優秀よアリス。けれどまだ未熟ね。本物の強者は自らを強者だとは誇らない」

「っ……! では一体誰が本物の強者だと?」

「この僕、クライム――」

「――マロ・バーン。確かあなたのクラスよね?」

アリスはルナの言葉を聞いて絶句している。僕も絶句した。

そして当の本人は。

「……え? 俺?」

自分を指さしながら周囲の者に確認をとっている。

さすがのマロもまさか自分の名前がルナの口から出るとは思ってもいなかっただろう。

これはまずい展開である。僕は抜き足差し足ゆっくりと後ろへと下がり始める。

「マロ・バーン。私の元に来ることを許すわ。いるのでしょう?」

マロはびくりと体を震わせると、僕を流し見た。

――「な? 言ったろ?」視線はそう言っていた。

だから僕もにっこりと笑った。

―――「いってこい」

マロは意気揚々、得意げな顔をしてルナの元へと躍り出る。

そして片膝をつき、ルナへと傅くマロ。

その無駄に洗練された動きはさすが伯爵家の次男といったところだ。

「指名を受け参上いたしました。この俺が、バーン伯爵家次男、マロ・バーンです」

マロは芝居がかった声色でそう言うと、キリリと作った表情をしてルナを見上げている。

ルナはというと紫の瞳を細めつまらなさそうな顔をしてマロを眺めていた。

それを固唾を飲んで見守るアリス。

涙目のクライム。白目をむく僕。そしてそんな僕を心配そうに見つめる神様。

そんな混沌とした時間がしばらく続いた。

そして――。

「……誰? あなた」

ルナのその一言に、この場にいる誰もが息を飲んだ。