軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

16話 「僕の知らない物語」

白銀の麗しき長髪が風に乗ってさらりと揺れる。

「今日は風が少し強いわね」

「そうですね。お嬢様」

なんて、とりとめもない会話をしながら僕たちは各々の学園へと向かっていた。

学園の伝統行事《お見合い》によってルナの騎士となった僕は、こうしてルナに付き従い、登下校を行う毎日を送っている。

「ご覧になって……孤高の月がお見えになりましたわ」

「ああ、ルナ様……今日もなんてお美しい」

学園に近づくにつれ、ルナへの賛辞が風に乗って耳に入る。

その度に僕はルナの背中を眺めながら、改めて自らが仕える主の偉大さを思い知っていた。

四大貴族の一つ。フレイム公爵家当主アルゴス・フレイムの娘であるルナは僕と同時期に入学した聖フェリス女学園に首席で入学。その後も圧倒的なオーラと美貌で同学園の女帝として君臨していた。

そんなルナの騎士に選ばれたのが、何を隠そうこの僕、ユノ・アスタリオである。

思えば最初こそ、ルナに対してある種の危機感を募らせていた僕ではあったが、今ではそれなりに騎士として仕える事に満足している。

それどころか、あのルナ・フレイムの騎士となった事で、元々囁かれていた悪評がみるみる内に消え、今では逆に尊敬の眼差しで見られる事も少なくなかった。

「おい、見ろよ……アイツだろ? ルナ様の弱みを握って騎士になったのって」

「ああ。しかもあのアスタリオ家の三男だ。無能を通り越してもはや呆れるぜ」

――前言撤回。

どうやら僕の道のりはまだ険しいようだ。

しかし、それでも僕は自分の選択は間違いでは無かった事を知っている。

「おい……もしかしてあれが……女神アテナ様か?」

「……可愛いってレベルじゃねぇぞ……契約しようかな」

そう。僕がどれだけ嫌われようと、女神アテナの名は正しく広がり続けていたのだ。

「ユ……ユノさん。何故か皆さんが私の事を睨んでくるのですが……」

僕の背中に隠れるようにして共に歩いていた女神アテナがそんな可愛い事を言ってくる。

「神様、ご安心ください。皆は睨んでいるのではありません。神様に見とれているんです」

僕がそう言うと、神様は湯気が上がりそうな程顔を真っ赤にすると、再び僕の背中に顔を隠すようにして恥ずかしがっている。

……可愛い。

そうして視線のアーチをしばらくの間潜り抜けていくと、並ぶように建てられた二つの建物が見えてくる。

とりあえず朝のお仕事はここで終わりだ。

「ではお嬢様。行って参ります」

「ええ。ご苦労様。帰りもここで待っているわ」

僕はルナのその言葉に頷くと、目的地へと足を進める。

――フェリス魔法騎士学園。それが僕の通う学園の名だ。

扉を開けて教室に入る。するといつも通りいくつもの視線が僕に向くのが分かった。

嫌悪感、嫉妬、それから純粋な興味。

それらを含んだ視線には構わずに、僕は窓際最後列にあるアリスの隣へと腰を下ろした。

「おはようアリス」

「ええ。おはようユノ」

僕の幼馴染、アリス・ローゼ。親の間で親交があった事で、小さい頃からよく一緒に遊んでいた仲だ。

「ルナ様は今日もお元気だったかしら?」

「え? ああ。うん」

僕へと視線を向けたその動きで金色のポニーテールがぴょこりと跳ねる。

どうやらルナとは小さい頃から交友があったようで、事あるごとに僕に似たような質問をしては満足げに頷いていた。

そんなアリスが仕えるのは、なんとあのアイン・スタットである。

僕も最初に聞いた時は驚いた。数多の誘いを断り、最終的に選ばれたのが男爵家の御令嬢であるアインだったという顛末である。

しかし、驚くと同時に僕は納得もしていた。

僕にまつわる悪評に惑わされず声をかけてきてくれた彼女であれば、アリスが選ぶのも納得である。

だが、不思議な事もある。丁度いいから聞いてみようか。

「アリス。君はアインと知り合いだったの?」

僕がそう言うとアリスの顔が少し不機嫌になる。

「ユノ。仮にも騎士ならアインお嬢様と呼びなさい。私の仕えるお方なのよ?」

……たしかにこれは僕が悪い。

「ごめん。アインお嬢様とは昔からの知り合いなの?」

「いいえ。あの場で初めて会ったわ」

……そうか。少し意外だったが、何か惹かれるものがあったのだろう。

「……それで? あなたこそアインお嬢様とはどういう関係なの?」

アリスはそう言うと、不思議と迫力のある、青空のような瞳を僕へと向けた。

「いや……何だろう? 友達……なのかな? 僕もつい最近知り合ったばかりなんだ」

「……そう。けれどあの時、あなたは……」

アリスはそう呟きながら窓の外へと視線を流すと、なんだか儚気な表情をして口を結んだ。

……変なアリス。

僕がそんな事を思った時、教室の扉が音を立てて開かれる。

「はい。席につけぇ」

ソレイユ先生は、眠たそうな目を僕らに向けると、これまたヤル気の無い声で僕らへと告げた。

「んじゃ、まぁ、そろそろ例の合宿が始まる訳だが、お前ら自分のお嬢様の参加可否は聞いてきたかぁ?」

「「「はぁい」」」

……ん?

「今日が締め切りだってのは知ってるよなぁ? んじゃ、前の席のやつから渡していた参加用紙をもってこい」

……例の合宿? 参加用紙? なにそれ? え?

僕は自分の机の中に手を突っ込みまさぐると、ぐちゃぐちゃになった用紙を発見する。

「……」

……ごくり。

僕は唾を飲み込むと震える指で紙を開いた。

『フェリス魔法騎士学園・聖フェリス女学園合同合宿 参加/不参加』

――僕は迷う事なく真ん中の『/』に丸をつけた。

なんて事だ……まさかこんなものがあるなんて……。

僕は机に両肘をつけ、手を組むと、記憶の奥深くへと旅に出る。

……いつだ……思い出せ……そんな話……僕は知らな――。

『いいかぁ? この合宿は――』

窓から臨む聖フェリス女学園。その全ての窓には魔法で処理が施されており外から覗く事は不可能だという。

ならばと僕は、純粋に。そう純粋な好奇心でこう考えた。

もしかしたら、僕なら見えるんじゃね? と。

精神集中っ――全ての力を意識して瞳に移す。

そうして僕は、ちょっと、本気をだしてみ――――。

――――うん。あの時だな。

うん。

「おいユノ。早くしろ」

僕はその言葉に頷くと、潔く紙を提出する。

「……ん? なんだこれ? どっちだ?」

そして当然のように尋ねられたその問いに、僕は迷って――。

「……………………参加します」