軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

幕間 「黄金と紅」

ある神はこう思ったという。

『どんな存在にも運命がある』

人にも、魔物にも、そして――神にも。

運命の定義は多種多様に分類されるが、その中でも神は【道】だと考える。

それぞれに『こうあるべきだ』と用意された一本道。自らで選択しているようで、結局は同じ道を歩くのだと。

だから神はいつもその結論に至っては、こう呟いた。

「……つまらん」

運命も、何も、全てがつまらない。

望むもの全てを手に入れても尚、その神の渇望は満たされなかった。

だからこそ神は恨んだ。自分をここまで歩かせてきた【運命】を。そして、ソレに踊らされている自分自身を……。

『まぁたそんな辛気臭い顔してるのかい君はぁ~』

突如として暗闇に響く間の抜けた声に、神は眉をひそめる。

「……なんの用だ。アスタロト」

神が低い声でそう呟いた瞬間、空間に亀裂が走った。

既に仄暗いその中に、ポッカリと空いた黒い穴。

闇よりも深いその窪みから、桃色の頭髪をした女神が姿を現す。

「ふぅ……やっぱここ遠いよぉ~。それによくこんな所に一人でいられるね? 僕だったら発狂死しちゃうよ」

アスタロトはそう言うと、赤い目を細めて周囲を見渡すと小さくため息をつきながら神を見つめる。

「ならば来なければいい。邪魔なだけだ」

そう言い、神はつまらないものを見るような目でアスタロトへと視線をやった。

その言葉に対抗するようにアスタロトは頬を膨らませる。

「おいおい勘違いするなよ? ここは君だけの場所じゃないだろ?」

「……そうだったな。ここは、俺たちの場所だ」

神の言う『ここ』を人々は天界と呼んでいた。

何もない世界。あるのは重く空間を蝕む暗闇と、それを唯一照らす青い 焔(ほむら) 。それが神の座す周りをぐるりと囲み、円を成している。

「あ、そうそう。ちょっとだけ試したいことがあるんだけど……いいよね? ま、どっちにしろやるんだけどね! 失礼しまぁす」

瞬間――その青い焔が風を受けて激しく揺らめいた。

「……なんのつもりだ?」

アスタロトが突然放った赤い光線を神は片手で握り潰す。

「さすがだねぇ! やっぱり君はそうだよねぇ?」

アスタロトは自らに向けられる殺気には目もくれず、そう言って嬉しそうに笑う。

「何のつもりだと聞いている」

神を囲む青い焔が掻き消える。

訪れたのは深い暗闇。その中で輝く黄金の双眸がアスタロトを鋭く睨んでいた。

「そう怒るなよぉ。短気なのが君の悪い癖だよ? ルシファー」

――ルシファー。それが輝く黄金の瞳を持ち、燃えるような紅く長い頭髪をした神の名だった。

「それに、別にそんなの君にとっては痛くも痒くもないだろう? それともなぁに? 痛かったの?」

アスタロトはそう言うと真紅の瞳を細め、口元に手を置き、挑発をする。

《最高神ルシファー》。その存在を前にこのような事ができるのは女神アスタロト唯一である。

ルシファーの周りに再び焔が灯る。

「……なんの用だ」

ルシファーはため息交じりに最初にした問いを再び口にした。

「いやぁね? ちょっと聞いておきたいことがあるんだよ」

女神アスタロトはそう前置くと、真紅の瞳でルシファーを見つめ、こう口を開いた。

「――野良神。知ってるだろう? 僕らがここにきたのと同時に下界に生まれた名も無き神たちのことさ。あいつらって何なんだい?」

ルシファーはその問いに答える事は無く、ただじっとアスタロトを眺めている。

「最初はバランスが崩れたからかなぁ? とか思ってたんだけど、たぶん違うよね? てか、違うね。絶対」

アスタロトはそう確信をもった声色で言うと、真紅の瞳を妖しく輝かせルシファーの元へと歩みを進める。

その時、ルシファーは傍観する事をやめた。

「……やめておけ。俺には そ(・) れ(・) は通じない」

ルシファーはその場に立ち上がると、今までの比ではない殺気を黄金の瞳に宿しアスタロトへと向ける。

「本当にそうかなぁ? 本当に? だって君は今逃げたよねぇ?」

「試してみるか?」

「試しちゃおっかなぁ?」

アスタロトは止まらない。そしてルシファーもまた、止まる事は無い。

――紅と黄金の光が輝いた。その次の瞬間に両者は激突する。

共に繰り出した光速の拳が、互いの頬へ突き刺さり、その整った顔を酷く歪める。

「女の子の顔を殴るなんてひどいじゃないかぁ」

「……それ以上口を開くな」

アスタロトはそう言って笑い、ルシファーは苛立った。

「仲間外れなんてひどいじゃないかぁ。ずっとずっと退屈だったんだよ? おもしろそうな事をするには仲間が必要だとは思わないかい?」

「なんの事だ?」

アスタロトが振り切れたのはその一言がきっかけだった。

「本当は満足なんてしてないんだろ? ルシファー。僕も同じさ。暴れたくて暴れたくてたまらないのに、暴れられない。だってそうだろぉ? 僕たちは強すぎるっ! 張り合う相手がいない世界でどう暴れろって君は言うのさっ!」

アスタロトの赤い瞳が怒りに満ち、暗い輝きを放つ。

「……黙っていろ。もうそれ以上はなにも望まん」

ルシファーはそう言うと、黒い翼を背中から生やし、高く舞い上がる。

「……安心しろ。殺しはしない。ただ、お前の退屈しのぎに付き合ってやる――」

その後も数多の応酬が繰り広げられ、その度に天界は大きく震えた。

何も無かった筈の暗闇に、美しい二色の魔力が輝きを放つ。

そんな中、最初に動きを止めたのは――。

「いてて……酷いよぉ……僕をこんなに無茶苦茶にして……」

その身を覆っていた赤黒いドレスは既に服としての機能を保っておらず、アスタロトは自らの体をその手で隠しながらルシファーを涙目で睨みつけた。

「……下界で何があった」

ルシファーはおよよ、としおらしくするアスタロトを無視して、そう呟くようにアスタロトへと問いを投げる。

「……別にぃ? 何もないよ?」

そう知らん顔をして答えるアスタロト。

ルシファーはそれが嘘だと分かっていたが、それ以上の追及をすることなく、アスタロトへと背中を向けた。

ここで追及をすれば再びアスタロトはそれを条件に自らの欲望を叶えるだろうと、そうルシファーは気づいていたのだ。

「……やれやれ、やっぱ君には勝てないかぁ」

背中を向け、歩いて行くルシファーには聞こえぬように、そうポツリとアスタロトは呟く。

「まぁ、自分で答えを見つけるってのも悪くないよね? ルシファー」

口にした者の姿は既に無く、あるのはただひたすらに暗い空間だけである。

「あーあ行っちゃった。それにしても、気になるなぁ……ユノ・アスタリオかぁ」

アスタロトはその場でうつ伏せになると指先で小さく丸を描く。

『やはりあなたは槍を持っていなくても動けるのね』

『お嬢様、あれは槍術基本の動きの一つ、足槍です。こう、足を、クイっと回して足をですね、足を……足を槍に――』

その円に映し出された少年を見つめながらアスタロトは恍惚とした表情を浮かべ、楽しそうな声色で独り呟く。

「君には期待しているよ? ユノ。まさか僕の攻撃を弾き返す人間がいるなんてね」

アスタロトは顔に浮かべた笑みを更に深くし、パタパタと足を動かした。

「誰にも渡さない。君は僕が見つけたんだ。だから、それぐらいは許してくれるよねルシファー。それともやっぱりこう呼んだ方が良いかな?」

アスタロトの笑みが凶悪に染まるーー。

「魔王――サタン様」